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―― 宿 → 自宅 ――
[夜道。
アイノとドロテアを送り、ペッカも帰途に就く。
送るにも、心配ごかしに並び歩く性分ではない。
年少のふたりが家族に迎えられるのを見届けた、
とその程度。汗の乾いたタオルを提げ道を行く。]
…
パンケーキで落ち着く辺り、ガキだよなァ。
[皆が手を焼かせたドロテアが帰宅するのへ呟く。
仕向けたアイノの手際に感心しつつ怖さも覚え。]
『いるわけないじゃない』――、か…。
…気詰まりなンかもしんねェな。
ウルスラ姐も言ってたっけか、
[『気晴らしは、アタシにも必要そう』――
皆の為、特に出産を間近に控える自身の姉の為、
街道が使えない今、村には娯楽が必要だった。]
娯楽って言や、ああいうのなンだろけど。
どうも…進んで人を
楽しませるってタマじゃねーみてェだし。
[宿の逗留客――駆け出しらしき様子の手品師。
ドロテアの言を皮肉る態で手妻を披露して見せた
ラウリが、当然ながらペッカは気にいらない。
実際、手妻の後に拍手を待つような間を置いた
ラウリをペッカは遠くから睨みつけていた。
前感情として、前日に、ペッカが街道の土砂を
除けているところへ彼が芸事口上の手習いなど
したことも作用していたりするのだが――――]
今度邪魔しに来やがったら、
本当に肘が逆さに曲がるようにしてやっか。
[その折にラウリへ口にした物騒ごとを呟いて、
ペッカは仲の良い姉夫婦と暮らす家へと帰る。
片手には、タオルと共に、
ベルンハードが帰り際にそっと姉への土産にと
持たせてくれた残り物の料理の包みを*提げて*]
―― 土砂崩れの現場 ――
[――ペッカは、今日も岩を抱え上げる。
回復した陽気で乾きゆく泥まみれの岩は、
粉を吹いて滑りやすいが落とさぬように。
連日、早朝からの作業にも拘らず土砂は僅かしか
掘り進めない。…独りでは動かせない岩も在る。]
よい、 せっ
[またひとつ、岩を除ける。
捨てた岩は土留めになるように斜面へと転がす。]
[額から噴き出しては、目元へ流れくる汗が滲みる。
拭う手間も惜しめば泳いでいるのとさして変らず。
こめかみから頤へ伝う滴は、俯くと涙にも似た。]
…ありゃ。
[幾つ目の岩を投げ落とした頃か――ペッカの手が
持ち上げようとした岩を掴めずずるりと落とした。
自らの手のひらを眺めようとしても、
張った筋肉は僅か震えただけで腕は垂れたまま。]
… おし。休憩。
[休み下手の水夫は、疲労を自覚してひとり呟く。]
ビーか。おう、おはようさん。
[幼馴染みへ無造作に振り返そうとした腕は、
腰ほどの高さまでしか持ち上がらなかった。
ペッカは肩を竦めてベルンハードへ向き直る。
――と、]
――おっ?!
なんだお前ェ、
いつからそこ居ンだよ…アイノっ
[年少のアイノに、最前の光景も見られたろうかと
尖り気味の口をいちど結んで、ペッカは息をつく。]
…まあ、声かけるに
間は悪かったかもしンねェが。
[幼馴染みへ応えも含め何か用かとアイノに尋ねる。
流れ来る汗を思い出す態で、頭に巻いた布を取ると
すこし乱暴に日焼けした顔を其れで拭って――――]
…別に、頑張ってねェ。
[常とさして変わらず、愛想なしに低く言い置く。]
[然し幼馴染みの労いに、肩の力は幾分抜ける。
ペッカは強張った腕を揺すってさりげなく解す。]
町のほうでも、
いい加減にこの有りさまにゃ気づいてンだろ。
反対側からも、掘ってくるかもしンねえ。
…出くわすなら、
真ン中よりゃ向こう寄りがいいやな。
[勝った気がするから。
子供じみて単純な想いは、衒いもなく零した。]
まあなァ。
単にこの村に用事がねえから、とかだったら
土砂崩れ以前に死活問題な気もすらァね。
――お、気が利くじゃねえかよ!
[向く酒瓶に、にやんとペッカの口端が上がる。
シャツの端で急いで泥塗れの手のひらを拭うと、
ベルンハードから果実酒を喜んで受け取った。]
ん。 …だなァ、すげえよな。
[手伝いを頼むということを考える素振りもない。
瓶の果実酒を呷り、ぐ、ぐ、と2回喉を鳴らすと
ペッカは甘ェ、と歯をむき出しにして笑いながら
ベルンハードのふくよかな手へと酒瓶を戻した。]
―― 土砂崩れの現場 ――
お? …おう。
[アイノから渡されるマフィンの紙袋を貰う。
その頃には腕も上がるようになっていたのは幸い。
ペッカは、そのままマフィンへくんと鼻を利かせて
――紙袋へ鼻先を寄せたままアイノをじっと見る。]
…
送ってねーけど。
[常なら柄のよくないペッカなりに添えるだろう、
彼女の母親に宜しくとその一言は…添えなかった。]
貰っとかァ。 ――あんがとよ
[年少のアイノと幼馴染のベルンハードから、
異口同音に無理はするなと言われ、ペッカは瞬く。]
…無理するよな根性は、無えよ。
[ひひとわらうも幾分真顔なのは容れた為らしく。
勧められた籠のパンは、すこし思案したのちに
ビーの弁当減らしちゃなンねえなと軽口を叩いて
今回は彼の好意を辞退することにした様子。]
俺ァもうちっと、遊んでいかァ。
戻るンなら、姉ちゃんに
昼飯届けに来なくていいって声かけといてくンな。
…? そーかよ。
[アイノの説明>>72に素っ気無く返答をして、
ペッカは見つめられる喉元をごりごりと掻いた。]
そンでお前ェは、どうせとか言うんじゃねーよ。
[しょぼくれる様子のベルンハードの後頭部を、
音だけ派手にはたく――口が尖るのは常の癖。]
お前ェが腹立たなくても、
俺が腹立つときもあンだよ、阿呆。
[ペッカは、取出したマフィンをひとつ銜える。
『ウソばっかり』
評したアイノの言を、黙って聴く口実にはなる。
休んでいた腕で、またひとつ岩を抱え上げ――]
…ん。
[ベルンハードへ肩を竦めてから視線を合わせると、
場を離れようとするアイノへ顎をしゃくって]
[ペッカは岩を抱え上げ、体の向きを変える。
まだ口をもぐつかせる態で幼馴染の背へと言う。]
おー。差し入れさんきゅ。
[追って、どうん、と岩を投げ落とす地響き。
二人の姿が遠ざかると、ペッカはひとり呟く。]
…
気にしてねェわけじゃ、ねえっつの。
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