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―境内・鳥居前―
……置いて行かなくったっていいのに。
[鳥居前で途方に暮れた青年が一人。
スマートフォンを片手に眉尻を下げる。
先程まで電話をしていた相手は恋人ではなく、妹だった。
今年で大学2年生になった青年は酒蔵の跡取り息子である。
秋祭りの手伝いをする為に下宿先から此方へ戻って来ていた。――将来、祭りの運営の一部を担う為の勉強である。
けれど今、青年の頭の中は別の事が占めていた。]
――苺大福、買い損ねた…。
[はぁ、と溜め息を付いて青年は肩を落とした。
青年は甘党であり、苺大福は青年の好物だった。
此方に戻ったら必ず食べると決めているのだが――母が買っておいてくれたものは妹に食べられていて、今年はまだありつけていないのである。
‘後(04)分早く来たら良かったのに。’
そう店主に言われて、青年は膝から崩れ落ちたくなったがぐっと我慢した。]
…6個も残っていたなら、1個くらい残しておいてもいいじゃないか。
[祭りの準備で賑わっているから、愚痴を一つ零すくらいは許されるだろう。
別に本人の前で言う心算はない。
けれどまぁ。
午前中の手伝いを終え、暫しの休憩を、と呑気に部屋で寝こけていた青年が悪いのだ。]
…後で、何か買おう。
[青年はそう心に決めると、父の姿を探しに境内の中へと入っていった。
懐かしい顔を見つけたなら、如才のない笑顔を浮かべて手を振ろうか。]
…変わらないな。
[故郷の姿が変わっていない事への安堵に、青年はそっと笑む。
人の波を縫うように歩いていると、>>19懐かしい声が自分の名を呼ぶ。
其方を向けば、手を大きく振る少女の姿があり。]
あ、にきちゃん。
久しぶり。元気そうだね。
あいつ…来海は父さんのところにいると思うよ。
[此方に走り寄って来た彼女に手を振り返しながら笑い掛ける。
周囲を見回す彼女の視線には、その意図を何となく察して。
一つ違いの妹は姉御気質というか、ぼんやりしている自分よりもしっかりしていると思う。
彼女の事は実の妹のように可愛がっていた。
勿論、自分もそれは同じだけれど。]
…最後ににきちゃんと一緒に回ったのって、4年前だっけ?
[近況を話した後は、また祭りで、との言葉に頷いて。
父のいるだろう、社務所の方へと向かおうか。
にき――双季と共に祭りを回った記憶をそっと拾い上げながら。*]
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