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[共に眠る と何度告げても
ドロテアがどうしてもひとりで眠ると言う
言い出したら譲らない頑固な彼女を知る為
女は苦虫噛みつぶした顔をして了承し――
隣の部屋へと入ったのだった*]
[食べたい]
[殺したくない]
[相反する想いに苦しい息を吐く]
ヴァルテリ様、
わたくし…
空腹は満たしたというのに――
別の所で、空腹と渇きが、
[扉を閉めて背を着けると
ずるずるとそのまま床に尻を落とす]
ドロテアを、食べたい。
ですけれど食べてしまえばここに…
人狼がいると、バレてしまいます。
嗚呼、どうしたら。
レイヨさん…、
[助けを請うような声を 漏らした]
[それでも 見下ろせば手の先の爪は長く
細めた目は奥の赤を表へと滲ませる
ぎ、と床をひっかけば爪痕が残り
じわり じわりと奥から湧き出る何かが
身体を侵食していく事に抗うこと敵わない
聞こえた声に 安堵の息を漏らす]
私たちが、と気付かれなければ?
どのようにすれば隠せるでしょう。
ドロテアを殺せば…
そして、悲しんでみせれば。
わたくしは、違うと思われましょうか。
[演技をする、自信は余りないけれど]
嗚呼、ですがもう、限界です。
では、見張りを…――お願い致します。
人が来るようでしたらお教えください。
ヴァルテリ様も来られますか?
[足音も無く廊下へ出ると
ドロテアの部屋へと身を滑りこませた]
あさましいでしょうか。
飢えが、苦しい。
嗚呼。
ドロテアは――
[供儀となる少女は眠っていれば良い。
だがもし起きていたとしても…
抵抗をする事は きっと 無い]
[返る言葉に返す言葉は 高音と低音の二重
一度あげる呻き声は 喉の奥で
グルルルと――獣の如き 響き]
そう、でしょうか。
ありがとうございます。
…レイヨさんは、優しいですわ。
[獣の血が女の輪郭を揺らがせていく
力を奮ったのはほんの一瞬だった
その凶悪な爪が彼女の体を引き裂いたから
赤色に塗れて「食事」を、した
咀嚼の音がきっと音として漏れ伝わる
喰らうのは肉と血 それよりも――人間の命]
[力が満ちるのが、知らずともわかる
食事は取っていたはずなのに
空腹が 渇きが 満たされていくのがわかる]
嗚呼、これが――
人間の あじ。
[細めた目は恍惚の色を灯し
夢中で貪る間は長く
それでも ひどく短く感じた]
[食事が終わり 顔を上げて辺りを見渡すと
血の海の中に自分が居る事を知る
真っ赤な部屋
供儀の少女の死体
その血に塗れた自分]
…どう、しましょう。
このままでは、バレてしまいます。
[考えなしで夢中になってしまった]
[いつしか 姿は元に戻っていた
噎せ返る程の血の臭いの中
アルコオルに酔ったように顔を染めて
吐く息は 生々しい匂いがした]
ありがとうございます。
レイヨさん、本当に、
ほんとうに、ありがとう。
[返る声に、穏やかに温かい声を返す
ヴァルテリがいて部屋へと戻るならば
その身体から血を拭い足跡等残らぬよう。
尽力するつもり]
[ドロテアの部屋の扉が開いたまま
少し緩い蝶番にゆらゆら揺れていた
ひどい血の臭いが廊下へと噴きだし
見ずとも惨劇を伝えている]
誰か、どなたか……っ
ドロテアが、
わたくしの妹が……っ!!
[高い悲鳴じみた声が漏れる。
その血が自身に移る事も気にせずに
息絶えた少女を胸にかき抱いた]
[流す涙は、未だ残る理性の欠片。
流せば流すほど、
無くなるのだと思う。
後悔すらしていない自分への恐怖と
それを持って甘美とする血への服従に
昨晩見た灰色の狼を想う。
その姿に恐怖を感じる事は無く。
うつくしい、と 思った。
そして、自身が同じ種族であることを
桔梗色の毛靡く狼であることを
誇りに、 思ったのだ]
ヴァルテリ様は、慣れてらっしゃるのでしょうか?
こうやって…演技、して、
バレないように隠れる、こと。
[指導してくれる風であった狼はきっと
先輩で、色々と知っているのだと。
冷たい餌を抱いたまま、小さく問うた]
[骸に顔を埋め血に汚れるも気にせず
その頬へと頬寄せて震えていた
後から後から溢れる涙が落ち流れる]
、ヴァルテリ、さま……!
[聞こえた声にゆると向ける顔は
クシャリと歪んだままに。
合わぬ歯の音を噛み締めて
縋るような声を漏らした]
嗚呼、昔に。
それで――慣れてらっしゃるふうなのですね。
[くしゃりと歪んだ顔は 僅かの間
ヴァルテリとレイヨしかいないと知れば演技を止める]
いざとなれば…――とは、
どういう……?
[おいぼれ、と言うにはあの狼は美しい、と思った]
[叩かれる肩に向ける顔はぐしゃぐしゃで
ぼろぼろと落ちる泪は止めどなく服を濡らす]
どうして…ドロテアだったのでしょう。
何も悪い事なんてしていないのに…
[震える声は掠れて高さを上下させる]
死んだ者を、みる…
そんな方がおられるのです、ね。
[まさか昨晩、
見極める者とそんな話をしていたとは知る由も無く。
重なるレイヨの声にも、小さく首を傾けた]
死んだ者を見る――と、言って。
信じてもらえるでしょうか。
やはり、見極める者、が。
怖くはありますわ、ね。
[演技の傍ら、こえを紡ぐ]
ふたりとも、危険な事はしないでくださいまし。
2人がいなくなってしまったら、
わたくしは、どうしていいか…――
[共に育った妹は自ら手を下したというのに
今は声の繋がる2人がいなくなる事の方が
得も言われぬ恐怖を感じて ]
…はい。
わたくしは、死に急いだりいたしませんわ。
わたくしが死んでは、血肉となったドロテアの命までも無駄にしますもの。
それに、年若いとおっしゃりますけれど…わたくしは、年齢など関係なく。ヴァルテリ様も死なれては困ります。
[ヴァルテリの言葉には、力強く頷いてみせる。
死に急ぐことは、しない]
えぇ、逃げましょう、人狼を排除しようとするこの町から。
その為にはここを出ないといけませんが…
まだ、足りません、わよね?
[力が。
人を喰らって満ちる、その力が]
ええ。
わたくしたちも――
収穫祭、になりますわ。
[少し、笑みを浮かべたけれど
続くこえに、頬を引き攣らせて引き締める]
えぇ、見つからないように。
きっと、疑い合いが始まるのででしょうけれど、
疑われたりしないように。
そして、隠れて出来るだけ沢山、
食べて、力をつけましょう。
[未だ 満ちたままの血の臭いに
自分の裡のどこかに熱を持ったまま
ヴァルテリに、小さく頷いた]
刺激…――ですか。
[目覚めた自分は、どこか麻痺したのだろうか
それとも違う種族だと認識した為だろうか
刺激、という言葉の意味が知れるのに時間がかかった]
嗚呼、クレスト様が。
[刺激が強いならば、血にまみれた自分は
クレストを運ぶ手伝いはしない方が良いかもしれない、
きっと血が着くだろうからと彼の記憶を知らずに想い。
ただ彼が目覚めて見ても問題無いよう、
また、ぎゅ、と死体を抱いた]
はい、ありがとうございます。
[レイヨの言葉に、嬉しそうに頷いて。
続いたヴァルテリの言葉にも頷く気配を返す]
はい。
…本当に、嘆く気持ちは…
あるのですわ。
ですがこれからもきっと、
自分の為に人間を喰らっていくのですから。
解り合えるのは、コエの聞こえる相手だけ。
そういうものなのですわ。
クレスト様が、謝られて?
それは…何故、でしょう。
何か…知っておられるのでしょうか。
[謝る理由は、考えても見つからない。
ただ、何か知って居るのかと思うと
ざわりと胸裡が揺らぎ 不安が頭を擡げる]
…ウルスラ、様。
どうして、
[名を呼ばれ向けた血と涙に濡れた顔はひどいもの
それでも問いを投げられたのは
ふたりが立て続けに倒れた事に驚いて
意識がこちらへ戻ったかのようだった]
どうしてウルスラ様が、
謝られるのですか。
…引きとめる、とは、
一体どういう事、なのでしょう…?
[伸ばされる腕を拒絶せず身を寄せて
だけれども浮かぶ疑問を口にした]
…まるで、ウルスラ様が、
人狼のようですわ。
[引きとめる、とはまるで仲間をとめたかったようで。
彼女の言葉には困惑めいたコエが漏れた]
…ゆめ?
ウルスラ様、ドロテアと…
夢の中で、お会いになったのですか。
[頭を振る様子に首を傾ける。
それはどういう事なのだろう、と
言葉の先を促すように濡れた瞳で見て]
ドロテアは…――
何か、言ってはおりませんでしたか。
…共に眠るといったのに、
一人でいると…壊れた扉の部屋に入った、
わたしのいもうとは。
[曖昧な言葉を拾い、問いを投げた]
ウルスラ様が…夢で、ドロテアと会ったと。
彼女は…死者と会う事が、
できるのでしょうか。
[死んでから見る者。
つい先ほどの会話に出たことば]
きれい、だった…
そうです、か。
[腕に骸抱く手にぎゅ、と力を籠めて
一度顔をその髪に埋め―― ゆっくり顔を上げた]
いいえ、いいえ。
ありがとうございます、ウルスラ様。
私には見えないドロテアの様子を
教えて下さって…――
[困ったように眉を、下ろして。
震える口許に、笑みを作ってみせた]
辛い――いいえ。
わたくしは、辛くなんか。
ヴァルテリ様とレイヨさん以外の
ここにいる全てのひとを騙してでも
生きてここを出ると決めたのですもの。
[ウルスラの言葉に対し、
想う声の力は、つよい]
ウルスラ、さま。
ありがとうございます…
わたくし、…身を、清めて参ります。
その、
…ありがとうございます。
ドロテアを―――見ていただいて。
[部屋から出る前にお辞儀をする。
彼女が共に来るならば柔らかく笑み、
部屋を出る時にアイノの姿を見れば、
痛々しそうに眉を顰め、横をすり抜けた]
[そして、風呂場で湯を貯めて暖まった。
身体にこびりついた血も落として
ウルスラが共に入れば不自由は助け
十分に落ち着いてから着替えて出る]
[湯に浸かる。
身体を洗う―――鏡に映る。
桔梗色の狼になっ自分はそこにはおらず
イェンニという女がひとりいるだけ]
…わたくしは、人狼。
でも、…今は、ちゃんと、人ですわ。
自分の意志で、こうしてられる。
[肌にびっしり生えた毛皮も無いことを確認し
頷いたとき 聴こえた声に動きを止めた]
…見極める者、厄介ですわね。
えぇ、それでもそう、
人と言われたマティアス殿は…
疑われにくそうでございます。
[ならば早く食べる対象でしょうか、と
ヴァルテリと思いは重なるだろうか]
先程は、すみませんでした。
[居間に入ると、そこにいる面々に謝罪の言葉
いつもの細い目の下には黒い隈が線引かれて]
お見苦しいところを。
[そして少し後に現れたニルスとマティウスに
視線を向けて―――首を傾げた]
包帯。
わたくしでよければ、
お手伝いいたします、けれど。
ヴァルテリ様が、食べたい方がおられれば、
優先していただいてかまいませんわ。
どうせ皆様、食べてしまうのですし。
[穏やかな声を、届ける]
[ヴァルテリの後ろから、彼の手伝いをするように
抑える所は抑えて、包帯を巻く手伝いを]
…あの。
マティウスさま、この御怪我は
どうなさったのですか…?
[掻きむしられた跡 よりも
その大元に―――問いを向ける。
イルマと何処かへ消えた話は、
うわさ話で知っていたから]
彼は…言葉が話せませんから。
反論もできず疑われて…
…巻き込みやすそうですわ。
[死者を夢に見るというウルスラが、
どのように見るのかも気になって――
こくり、と、頷く気配を見せる]
[ウルスラの言葉の意味が分からなかったのは
そうでないと知っているから。
無意識に、知る事の量のベースが
行動を抑制する]
それにして、も。
折角洗い流したのに…
血の匂いは、食欲を擽りますわ。
[マティウスの怪我。
まさか人狼ふたりに包帯を巻かれているとは
気づくまいが]
クレスト様、
大丈夫…ですか?
[そして留めた視線の先。
クレストが胸元抑える様子に声を向ける]
お苦しそう、ですわ…?
…いるのですわ。
ここに…
今もなお、飢えと乾きに
我慢しながら…
知らぬ顔で演技をしていますもの。
[クレストの書いていく文字に、
少しばかり、痛そうに眉を顰める]
ウルスラ様、よければ、
読んで下さいませんか?
[クレストが書いていく文字に目を眇める
マティウスには伝わらないだろうからと、
近くにいる彼女に強請ってみた]
…もし、わたくしが人間で、
ドロテアを殺されている、
被害者だったら…―――、
[なんというだろう。
想像を巡らせて、言葉を作る]
[俯いて、足元をみつめる。
息を吐きゆっくりと吸ってから―――]
…でも、ドロテアは、死んでしまいましたわ。
[静かな声は、いつもより低い]
えぇ、多分…、ですけれど。
あんなに血塗れになったのですから
少々は仕方ないと思って、います。
[今のところは
上手くやれているのではないかと思う。
俯いた顔が笑みをうかべぬよう、
頬の内側を柔く噛んだ]
レイヨさん、ありがとうございます。
処刑なんて単語がでていますから、
レイヨさんもお気をつけになって…
嗚呼、でも、でしたら。
投票先を合わせれば―――
私達から、そらせるのでしょうか。
[他の人々が、どう投票をするのか。
皆目見当がつかない]
嗚呼、色々考え過ぎると
頭が痛くなりそうですわ。
…喉も、乾いてきたというのに
[まだ 足りないけれど
昨日よりは力は満ちていて
知った味は さらなる飢えを呼ぶ]
…筆跡は確かに、いやですわね。
あやうい…、ええ。
困りますわ…
[死にたくないのに、と。
背筋をひとつぶの汗が落ちた]
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