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朝
――おはようございます。
[何時もと変わらぬ病院の早朝。
24時間勤務の交代時間に、野木は顔を見せた。
昨日の見舞い客リストの中で
ふと、目を留めた名前があった。それは、
[会社員 テンマ]――の名、だった。]
/*
おねがいごと、「忘れないでほしい」よりも「かみさまのおよめさんになりたい」がいいな
わすれないでほしいとも思う
けれど
じぶんがわすれられるより
あの人のことを覚えていたいから
およめさんがいい。
/*
かみさまはおよめさんにしてくれるって言ったけれど
そのまえにいってしまったから
だからわたしは
かみさまのおよめさんになりたいのです
朝
[肌を刺すような冴ではあるけれど
白い綿毛のように天から零れる粉雪の光景は
何処か温かく、厳かにも感じられる。]
綺麗だなァ……
[寒さが苦手な南国生まれの男だったが
今朝の雪は不思議と、喜ばしいものに感じられ。
そうして日課の、母の見舞いへ向かった。]
501号室
[今朝の母は半身を起こし、頬の血色も良く
蔵作を、きちんと認識出来ているようだった。]
良かったなァ、母ちゃん。
そろそろ迎えが来てるのかと思ったよ……
[嬉しいのに、照れくさくて、
些か無礼な言い回しで笑った。
そんな気持ちを汲んでいるのか
母もんだ、んだ、と微笑んでいた]
昨日、若い先生拝んだお陰かねェ……
[そこへ、担当医師がやってきた。
母の調子は良さそうなのに、医師の表情は険しい。
廊下にて問い質すと、意外な言葉が返ってきた。]
『今年一杯… といったところです』
『トメさんの身体は限界まで蝕まれています』
[食事も出来ず、点滴だけで生を繋いでいるらしい。
詳しい話を聞かされていなかった男は
ガツンと頭を殴られた心地になった。]
[母の面倒は長年、兄が看ていた。
故に、兄を避ける男は母が入院するまで、
殆ど顔を見せていなかったのだけど。
何時でも無条件に笑顔を向けてくれる、
苦しかった子ども時代に、自分たちを
女手ひとつで養ってくれた母を
心から、大切に思っていた。]
[そんな心の拠りどころが、消えていく]
[焦点の定まらぬ瞳で、ふらふらと廊下を歩み
休憩室のソファへ、腰を下ろした]
休憩室
[休憩室では、見舞い客であろう若い母親と
数人の子ども達が
仲良くテレビを見ているところだった。
蔵作にも、孫がいる。
けれど逢ったことも、写真を見たこともなかった。]
一番上の子ァ、確か――…
[ひいふうみい。
見たことのない孫の歳を数えた。
14歳になるであろう、女の子。
恐らくは他にも幾人かいるはずだった。]
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