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― 探偵事務所 ―
昔の家電製品は、長くもつそうですね。
上司に言われて、わざわざ中古を
探す羽目になったことがありますよ。
[見遣る冷蔵庫は、無骨なつくりの其れ。
屋号の謂れは暫し記憶をつたなく手繰り寄せ――]
萬屋と言いますと…
ええと、『旗本退屈男』でしたっけ…?
空き家や廃屋は、
なぜか子供の浪漫ですね。
大工さんと親御さん、
二重に叱られてはかないませんが…
[いつしか寛いだ心地で話していた。
探偵の支度が整えば、そんな自覚もして]
…はい、
では繰り出すとしましょうか。
[三本めの煙草を、灰皿にそっと躙り消す。]
幼い頃、父の昔語りに
聞いた名前ばかりですね。
[世代のずれも楽しむ態で、
気さくな探偵と話しながら階段を降りる。
かん、かん、かん――――]
…ああ、そうだ。
[ふと立ち止まって、振り返る。]
お母さまには、盗っ人紛いなんて
言われたのかもしれませんが。
…もしかすると逆に、
その空き家へ
置いてきてしまったものがあったりしませんか?
[不意の尋ねは
「なんとなく、ですよ」の一言に*紛れさせ*。]
[階段の下から、探偵を見上げる。
通りに出るまでは、彼の思索を妨げず黙っていた。]
…
そういえば父は、拝一刀の姓を
お↓が→み→って発音していてですね。
お↑が↓み→じゃないの、って
言い張る母とよく論争をしてましたっけ…
[空気が変わると、ようやく朧げに思い出す
『子連れ狼』の主役に紐付く他愛ない話を。
やがて見えてくるのは、先ゆく編集者の*背中*]
[焼き鳥屋へ向かう途上に編集者と合流し。
足止める彼の呟きに背広姿は柔く目を細める]
ネギヤさんが思い出屋にって聞いたとき、
真っ先に、思いました。
願いは秘めておくものかもしれないな って。
[続いて、…ふ、と吐く息は口元も笑ませた。]
…もしそれが条件なら、
僕などは真っ先にアウトなんでしょうねえ。
…確かめてしまうまでは、
憶えていることが――思い出が、真実。
そういうことなのかもしれません。
[探偵とのイントネーション話はそう括り]
こんばんは。
ああ、やっぱり皆さんお揃いだ――
[薄ら煙い店内に見える面々へと、挨拶。
コートを脱ぎながら席を定める背広姿*。]
行きずりのままでは、
呼び名に困ってしまいますね。
背広でもかまいませんが、
僕はテンマと申します。
[翻訳家の女性に笑んで軽く皆へ改めて名を告げる。
背広姿もまた、集う各々が望む呼び名で呼ぶだろう]
…そういえば…
「バック転ができるようになった思い出」、
なんてのを買ったら、
本当にできるようになったりするんですかね。
はは。伝聞にしても、
見た人が目の前においでではね…
[増えた注文に掛かる店主は、カウンターの向こう。
背広姿は燗をつけられた徳利のゆらめきを眺める。]
雲をつかむような話を、あまり長く
引きずってもいられない…ですか。
[語尾を上げず静かに、編集者の言に相槌を打つ。]
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