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[子ども番組が終わったのだろう。
大人しく鑑賞していた子達が
鬼ごっこを始めると、母親が嗜めるようにそれを追う。
懐かしい光景だった。
娘達にも、あんな頃があった。
孫達もきっと、ああして元気に成長しているのだろう。
少しばかり、気力が*湧いた*]
[あの後。老婆といくらか話をしただろうか。
それとも、特に話もせずに別れたろうか。
どちらにせよ、珈琲を飲み終えた私は、ルリという少女のカルテを確認してその日の勤務を終えた。
いつもの事ながら、食事はコンビニ弁当とお茶だ。
一人暮らしの雇われ医師、貧しいわけではない。
けれど、自炊する気力はないし、毎回外食も飽きてしまう。
結局、学生時代から慣れ親しんだコンビニ食に落ち着いてしまったのだった。
吐く息が白い。
指先が痛い。
冬はだんだんと、足音を大きくしていった。]
[次の日の朝、目覚ましより早く携帯電話の着信音が若者を叩き起こした。
寝ぼけ眼で電話に出ると、入院患者一人の容体が急変したという。
外科医である自分に仕事が回ってくるとも思えないが、それでも呼びだされるのが若手の辛い所だ。
それでも、外科医が一人もいないという状況は好ましくはなく。
服を着替えて、カーテンを開いた。]
良い天気、なのかな?
[晴れているとも、曇っているともいえる微妙な天気。
コートを羽織って、鞄を持って。
少し速足で、病院に向かった。]
[病院が見えてきた頃、妙に冷えてきたと思ったら、髪に何かが触れる感触があった。
なんだろう、鳥のふんでも落とされたか。
そう思って見上げると、小さな白い天使が無数に空から舞い降りて。
人の肩に降り立った後、姿を隠す。
そんな、少し早い風景を見る事が出来た。]
寒いと思ったら、雪か
[ふるり、体が震えた。
だが、今は幻想的な風景に浸る時間は無く。
速足で辿り着いた病院で、患者は既に亡くなった事をナースに告げられた。]
そうかい、残念だ
ああ、いや、朝早くとかは良いんだ
文字通り、人の人生がかかってる事だからね
僕の分も、ご遺族にお悔やみを宜しく
[昨日は、ふたりを困らせてしまいました
泣き続けたわたしを、ひろくんはずっと慰めてくれました
それでも泣き止まないわたしを心配して、今日は泊まるよと言ってくれました]
[ひろくんは、かみさまとは違うけれど、暖かくて大きな手で撫でてくれました
大丈夫だから、と抱きしめてくれました
そのひとつひとつが優しくて、わたしはちょっぴり安心しました]
[どうしてここまで優しくしてくれるのでしょう
コイビトでもないはずなのに
わたしは訊ねます
するとひろくんは、ひどく傷ついたような、悲しい顔をしました
けれどすぐに笑って、わたしをぎゅうと抱きしめました
つよく、つよく
そうして、耳もとでそっとささやきました
六花のことが大事だからだよ、と
笑っていたはずのひろくんが、泣いているようにみえたので、わたしはひろくんの頭を撫でてあげました]
[朝おきたら、ひろくんはいなくなっていました
小さな机のうえに、書き置きがありました
いわく、おひるすぎにまた来てくれるそうです
わたしはがらんとした部屋のなかを見渡しました
一人だけです
ひとりでいるには広すぎるくらいの部屋は、おどろくほど何もありません
ベッドと、机と、それから、ひとつだけ
わたしがお願いして持ってきてもらったもの
かみさまがさいごに座っていた椅子と、それから、]
[煙草を吸いに行こうと思いました
けれど、ハイライトの箱の中はからっぽでした
買いに行かなくちゃ
わたしは部屋を出ます
お財布を持って
廊下に、たばこの自動販売機もあったことをおぼえています]
[結果、少し早くなってしまった出勤時間。
時間をもてあましてしまった。
どうしようかと院内を歩き出し、偶然通りかかった休憩室で昨日の男性を見かけた。
若者に手を合わせていた男性は、はしゃぐ子供達を見ながら微笑んでいる様子で。
良い事でもあったのかと、勝手に胸をなでおろした。
全員が自分の担当する患者ではない。
けれど、医師である以上は全ての患者に責任があるのだ。
真実や現実は知らずとも、表情一つで嬉しくなる事も出来る。
若者は、そういう時間が少し好きだった。]
そうだ、せっかく時間があるのだから
いろんな患者さんの顔でも見に行こうか
[本来は、患者に情が湧くような事はしない。
でないと、救えなかった時に苦しいから。
若者は、医師になってからずっとそうしてきたはずなのだけれど。
今日は、不思議とそんな感覚を覚えたのだった。]
[そうして若者は、廊下を歩く。
院内では背筋を伸ばして、堂々と。
普段は猫背で、こんな寒い日は丸まって過ごす若者であるけれど。
病院では、それではいけないと過去から学んだ。
自動販売機の前に辿り着き、今日も微糖を一つ買う。
昨日より、随分熱い気がした。]
っち
[熱くて、取り出した缶を取り落とし。
ころころと、缶は転がって。
通りがかったのだろうか、自販機に何か買いに来たのだろうか。
そんな患者さんの、足元へ転がっていった。]
―自動販売機前―
[かみさまが好きだったハイライト
ときどきマルボロも買っていたけれど、ハイライトを吸っていることの方が多かったと思います
ハイライト、ハイライト
自動販売機の前で、わたしはあの青い箱を探します
みつけた、ハイライト、410円。]
[けれども、困りました
410円、それはいいのです
財布のなかには、小銭がたくさん入っています
だけれど、わたしにはわからないのです
410円を支払うには、何円玉がいくつ必要なのでしょう?
わかりません、わかりません
わたしはすっかり立ち往生してしまいました]
[>>17]
そういえば、前にもこんな事があったな、と思います。
その時は、男の子が手伝ってくれたのでした。
どんぐりみたいに大きくてぱっちりとした、きらきらしている目の男の子。
少し子どもっぽい顔なのに、意志のつよそうな表情が印象的でした。
お友達のお見舞いに来ているのだと、そう言っていました。
あの子はたしか、ぜろくんと言いました。
‥‥?
[そんなときです、足になにかがこつんとあたりました
ひろいあげてみます
コーヒーの缶のようです
手の先からじんわりと暖かさが伝わってきました]
‥‥あなたの、ですか?
[きょろきょろ、まわりを見ます
そこにはひとりの、白いふくの人がいます
その人のものでしょうか
わたしは缶を差し出しました]
ええと、投票はランダムで出たテンマさんでいいんだよね?
間違ってないよね?
ただ人が死ぬだけ
それはわかっているから。
出来るだけ、テンマさんの死を盛り上げたいけれども。
彼は、手紙を出して終わるのだろうか、出せずに終わるのだろうか。
その辺にかかわりたい思う、医師として。
彼が望まなかったら、今日みたいに呼びだされて無駄だったにしよう。
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