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―― 自宅 ――
[贄の参列は天に光を反射し。
暗い当たりを幻想的に仄か照らす。
しかし赤いオーロラ同様、見るものが感じる美しさを、
否定する術は持ち合わせておらず。
黙した人影は暖を投げっぱなしにした自宅へと、
やがてたどり着く。]
―自宅―
[小屋の中へと入る途中。
トゥーリッキの言葉には、じゃらりと杖が鳴るだけ。]
書物についてはいつでもくるとよかろうて。
……まあ、眠れたら、のぅ……
[短い言葉を挨拶代わりに。
ウルスラにも会釈だけはして小屋の中へと入る。
そして、コップを片付けて、暖炉の前に座る。]
さあて……どう動くかの……
[狭い部屋の中一人、くす、と小さく笑みをこぼした。]
[贄の命をひとつ、
乙女のそれより先に奪い血染めの闇、
啼く声に、せめて泣ける強さが有ればいいと、
かの姿に思うも、それすら傲慢だと自嘲の影に
敷く術は始まりを告げる。]
しかし長老は何処までも酷なひとよね。
[燃す火。清めの水。投げ入れるは、
贄の乙女より黙して奪いし身の欠片。
無力ではない証に。知り行くば怒りを買うだろうか。]
孫娘だけでは足りず"ふたり"も。
真っ先に贄に捧げようだなんて。
[「探すもの」「阻むもの」。
そう告げた後、あの場に集う人のことを思い出す。]
でも、まあ。別にいいけどね。私は。
それなりの覚悟は出来てるし。
[言葉短めに区切る手には、なめし皮。
傷つけた手でなぞる血文字は、問う言葉。]
『かの者の 真実は?』
[やがて時すれば浮かび上がるであろう文字。]
[鮮血を湛えた器。焚く自然の実り。
相俟って漂う匂いは、
すれ違いざまに鼻腔へと落ちるあの匂い。]
生き物を殺めるより酷なこと。
それは真実を暴くこと。
食物連鎖なんて…甘い話じゃないわ。
だから私はお守りなんて"要らない"のよ。
誰よりも残酷者ってことは、身に染みているつもりだし。
[全てが整った空間に、並べられた文字は、
自らを抜かした全員の名。
そのうちの一つを血池に放り投げてひと時、
命を削る所業。それは培った覚悟。]
それでもひとは欲するのでしょうね。
自らを生き長らえるために。
真実を一つ得るたびに、
ふたつ以上の犠牲を払うことを知ってか知らずして…か。
[やがて浮かび上がるひとつの答えを得るまで。
やけに静かな時間が*流れる*]
[キィキィキィキィ…―――冷たく溶けない雪の上を進む音が、狼の遠吠えに重なる。ビャルネの小屋を訪ねる道中にまだウルスラとトゥーリッキの姿やすれ違う者があったなら、目礼を添えて通り過ぎただろう。
目指す先には明かりが灯っているから、ビャルネは中にあるのだろうと知る。キィキィキ…扉の前で止まる音に、彼も気づいたかも知れない]
…レイヨです。
少しお時間を頂けませんか。
[マディアスが扉の前で思案した挨拶は置かず、外から声をかけて扉を見る。冷えた手に息を吹きかけて、中から声の返るのを待つ]
―自宅―
[ふ、と笑いをひっこめたのは、キィキィと響く車椅子の音に気づいたから。
小屋の外でその音が止まれば、傍らにおいていた杖を手にして、じゃらり、と鳴らしながら扉へと向かう。]
お主か……お主も冷えておるようじゃのぅ……
[車椅子のレイヨも通れる程度には間口はあいている。
扉を開いたまま、中へ、と促すように杖を動かす。
じゃらり、飾りが鳴った。]
[じゃらり、ビシャルの引き連れる覚えある音が室内より聴こえ、開かれる扉に彼を見上げて目礼。促されるのに遠のいた明かりの列を振り返り、礼を籠めた頷きを置いて室内へ]
他にも冷えた方がいらしたんですか。
[多くの者が列を見送り外へ出ているのも見かけたから、まさか寒そうだった人物が雪の天使を作っていたとは思わない。室内を見回す間に曇る眼鏡をはずし、袖口で拭いながら滲む視界にビシャルを捉えた]
お訊ねしたい事があってお邪魔しました。
―自宅―
[レイヨが室内にはいってから扉を閉める。
分厚いタペストリーが扉を多い、外気の冷たさを遮断している室内は、温かい。]
先ほど、ヘイノが雪まみれでやってきおったからのぅ……
[暖炉の側に行くようにと促しながら、
もう一度茶の準備を始める。
壁に杖を立てかけてから、コップ二つに茶を淹れて。
そのひとつをレイヨへと手渡した。]
ふぅむ……なんじゃ?
[聞きたいことという相手を、じ、と細めた目で見やる。]
雪まみれですか…それは寒そうです。
[キィキィキィ…―――促されるまま火の傍へと寄り、再び曇らぬように眼鏡を温める。本を読めぬ文盲の求道者はつるに歯を立てず眼鏡をかけ直して、本に囲まれて暮らす書士を見た]
貴方は僕の知らない事も多くご存知でしょうから。
書に限らず役立つ知識をお持ちではないかと。
[悴む手を握り感覚を確かめてから、礼を籠めて頷き茶を受け取る。冷えた足の上に組む両手で包み、茶の味より先に温もりを味わう様子]
…――寒いな…
[レイヨの膝掛けを持った侭、ざりざりと杖先で雪をかき、足を進める]
[あん]
[微かな小さな鳴き声に足を止める。
自身の小屋の方向へと顔を向け――
ゆったりと、歩を向けた]
[雪が半ば溶けかけ、水になりかけていた器の中身は薬缶に継ぎ足し。
温かい茶が入ったコップを手にして、レイヨの近くに腰を下ろす。]
わしの知識など、長老には及ばぬがな……
さて、何が知りたいんじゃ?
[書物を読み、伝承をかきとめ――
けれど、そんな生活にはひそかに飽いている。
それを人に見せることはせぬまま、ゆるりと問いかけた。]
―湖の畔―
[松明の灯が見えなくとも、男は湖の畔まで足を延ばしていた。
取り囲む狼たちの気配が強くなる。あまり長居するわけにもいかぬだろう。
だが、この時期にのみ出来る雪原と、そしてそこに捧げられる娘を最後に一目見ておきたかった]
……感傷か。
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