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ああ。
もう夕焼けですね。
緑から、橙へ。クリーム色から、焦げ茶へ。
[変わりゆく空を、それにより共に移ろっていく周囲の様子を、一望して頷いた。冷たさを増した風に、カーディガンの開いた前を少し狭める。
途中、結城に教え示されて、上階を、其処にいる姿を見上げた。歌い手たる女。日々この病院に通う彼女の歌は、それだけによく耳にした。柔らかな色が重ねられた、良い歌声だと思っていた。
彼女に向け、男もひらりと手を振って]
有難う御座いました。
また。
[やがて病室まで送り届けられれば、去っていく結城に散歩の礼を言い、その姿を見送った。それから男は病室へと戻り――筆を取って、キャンバスに向かった]
[キャンバスに筆を走らせる]
[緑が駆ける。
赤が叫ぶ。
青が引き裂く]
[柔らかな色が、響く]
…… 、
[ふと。先程聞いたばかりの歌声が、また聞こえたような気がした。またその色が見えたような気がした。筆を浮かせ、男は暫し、閉ざされた窓を見つめていた]
[やがて、その絵は完成した]
[中庭の印象を根本とした、極彩色が溢れる混沌。中央には、両手を空に捧げるように高く掲げた人間の姿が一つ。シルエットのそれには、目はなく、ただ笑った赤い口ばかりがあった。
シルエットは、青みに寄ったパステルカラーの彩りで描かれ浮かび上がっていた]
[その絵はイーゼルに置かれたまま、部屋の中央、尤も目立つ位置――男は一番新しい作品を此処に配置するのだった――動かされ。
高く高く、その手を掲げ*続けていた*]
/*
始まったぜ!
落ち先ランダム指定されるのとかもうやりたかったのでわくわくどきどき
いつ死ぬかな! 最後まで残ったら ……まあそれでも死ぬには死ぬよね!
[追われている。あれらが、追ってくる。追ってくる。追ってくるそれらから、自分はひたすらに逃げる。逃げても、逃げても、距離は変わらず、それらは消えず]
……っ、……
…… あ、
[飛び起きた男の顔には、薄らと汗が滲んでいた。サイドテーブルのサングラスを取ってかけ、深呼吸をして、ようやく落ち着きを得る。
肩に届くか届かないか程度の白髪混じりの髪を指で梳き]
[帽子とマフラーはまだ傍らに置き。男はベッドの足元近くに位置している、昨日描いた絵に顔を向けた。パステルカラー。聞こえた響きに誘われた、柔らかな色彩。
その響きの主が、シルエットの元ともなった女が、もう亡き者となっているという事など、男は知る由もなく]
……
[程無くして、朝食の時間が訪れた。
慣れた病院食を、美味いとも不味いとも言わず、美味そうでも不味そうでもなく食す。食事が終わってから、男はベッドの上で暫しぼんやりと*していて*]
[ベッドの上でぼんやりとして――いつの間にか、眠りに落ちていた。男の眠りは基本的に浅い。幾分深くとも、精神は度々疲労を強いられる。
故に男は日中にも眠りを挟む事が多かった。
男が再び目覚めたのは昼食の時間だった。朝食と同様の按配でそれを食べ、男はイーゼルに向かった]
……、
[いつものように、キャンバスを色で染めていく]
……
[ただ目の前のキャンバスのみに集中して、ひたすら筆を走らせて、男は午後を過ごしていった]
[男が作業の手を止めたのは、夕刻になっての事だった。不意に聞こえてきたノックの音と呼び声に、男は扉の方へ顔を向けた。
前日の中庭での約束を、幾つかの会話の断片と共に思い出しながら、男は筆とパレットを傍らの台の上に置いた。かた、と僅かに水入れの中の混沌が揺れ]
――どうぞ。
[帽子を深く被り直しつつ、訪問者に*返した*]
結城先生。今日は。
来て頂けて嬉しいです。
[病室に入ってきた結城の姿を見ると、まずそう挨拶をした。それから、置いていたカンバスの上の絵を見つめる様を、サングラスの下から見つめて]
女神。
そうですね、それは……
そうなのかもしれません。
[訊ねられれば、少々迷った風に言葉を発した]
昨日、中庭で見た景色をイメージしたんです。
それで、描いていたら……
……なんだか、歌が聞こえた気がしたんです。
あの……オトハさん、の歌が。
だから、その歌の色になったんです。
だから。
女神に見えるのなら、きっと彼女が理由でしょう。
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