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[悲鳴の気配に、調理場近くで足を止めて階上を窺う。
悲鳴の声がイェンニのものであると分かれば何があったのかは想像に難くなく、>>55下りてきたヴァルテリから事情を聞いても、そうか、と短く返して頷くのみ。
悲しみに暮れる者がいる分だけ、しっかりとせねばならない。半ば使命感のようなものを感じながらニルスは小さく息を吐き、使用人控室へと戻る。
>>74 容赦なくマティアスの肘が当たった箇所は痣になっているだろう。ニルスの表情はそれでも、常と変わらないままだった。]
水を持っていたよ。
それと痛み止めは……君の鞄を探っても構わないかい?
[流石に無断で鞄の中を覗くのは憚られて、問い掛ける。了承があれば鞄を探り、痛み止めを探すつもりで。]
[>>86 了承を得て鞄を探れば、お目当てのものはすぐに見つかった。
他にも怪我の治療に必要な諸々のものは入っている。
しかし包帯などは上手く巻ける自信はないし、何より血で汚れた箇所を拭いてやらねばなるまい。
そのようなことを考える内、聞こえた声にニルスは僅かに目を伏せた。
そしてゆっくりと立ち上がり、マティアスの傍らへ。]
口を開けて。
[水の入ったコップをマティアスの手に持たせ、薬は飲み損じることがないように口を開けさせて、入れてやる。]
……どうして、そう思うんだ?
[問い掛けにしては確信めいた声であったように、ニルスには思えて。
思わず、問い掛けていた。]
[コップから零れた水が、マティアスの布団に染みていく。
コップが床に落ちる前に掴み、ニルスは小さな溜息と共に眼鏡のブリッジを押し上げた。
マティアスの、目に見える動揺が何ゆえにかを測りかねるのは、獣の爪に掻かれたかのような傷跡の所為か、ニルス自身がマティアスに抱くイメージの所為か。
ともあれ、長老がマティアスに告げたことが事実であれば、人狼は殺せる存在であるということは確かだ。
それをしっかりと記憶に留めて。]
もし君が疑われることを恐れているなら、私に関してはその心配は無い、と言っておくよ。
勿論、それが永久のものでないことも言っておかねばならないが……少なくともドロテアの件では、君を疑うつもりはない。
[わざわざ安心させるように言葉にしてから、空いた手でマティアスの肩をポンと叩く。]
……長老殿は、他に何か言っていたかい?
……獣が。
[>>101果たして、そのようなことはあったろうかと記憶を探るも、思い当たる節は無い。
ただ、獣が騒ぐと聞いてニルスの視線は、さっとマティアスの顔へと向いた。
獣の爪で掻かれたような傷跡。]
君の怪我も、騒いだ獣の仕業……だったりしてね。
[あくまでも冗談めかした口調で呟いて苦笑いを浮かべてから、マティアスが抱える汚れた枕を引っ張った。]
まあ何にせよ、君は血を拭って包帯を巻き直すべきだ。痛々しくて、見るに堪えない。
[言葉と共にニルスはコップを持たない手でマティアスの腕を引き、布団から離れるように促す。
そしてマティアスが立ち上がれば、彼の鞄の中から包帯を持ち出して、彼と共に居間へと。]
[マティアスを伴って居間へと現れるのは、ウルスラとイェンニが現れるより少し後のこと。
居間に人が集まっているのを見れば、僅かに安堵の息を漏らす。これだけいれば、上手く包帯を巻ける者もいるだろうと思ってのこと。]
……誰か、包帯を巻ける人はいないか?
御覧の通り、マティアスが少々無茶をしてしまって。
出来れば包帯を巻き直してやりたいんだが、私では心許なくてね。
[マティアスの顔は血に汚れ、包帯も剥がれてしまっていた。ニルスは、居間に集まる面子を見回して、問う。]
[>>126マティアスが暴れるのではないか、という危惧はニルス自身にもあった。
故に、包帯を施す傍から離れることはしない。
>>123 イェンニの問いは、ニルス自身も気になっていることだ。
ただ、>>124 マティアスが震え、口籠るのを見れば、イェンニに視線を向け、それ以上問うのを制するかのように緩く首を横に振った。]
……それは何とも言えない。
が、意識が目覚めるのであれ、身体が目覚めるのであれ、自覚が無いという可能性は低いだろう。
食うということは即ち「腹が減る」ということだ。単に殺すのとはわけが違う。
空腹を認知しない、というのは普段ならば、余り無いからね。
ただ……夢遊病のような状態、というのも有り得るだろうな。
つまり意識とは別に身体が動いている、という可能性だ。
……まあ、どれも推測だがね。
[資料がないことを遠回しに告げて、眉を寄せた。
やはり推測では記録に勝つことは出来ない。苦々しい表情で、息を吐く。]
[>>131 クレストが目を覚ますのに気付かないまま、>>132ユノラフの言葉に、得心したように頷く。
>>136 マティアスの声にも頷きを一つ落としてから、>>137 眼鏡のブリッジを中指で押し上げる。]
もしマティアスが人狼だったとしても……特殊な能力でも無ければ、状況的にもドロテアを殺すのは不可能だろうね。
目が見えない状態で2階に上がるなんて危険だろうし、何より一度転びでもすれば、物音で誰かを起こしかねない。
そうなれば、皆まずはドロテアの身を案じるだろう?
[此処にドロテアが来ていた意味を知らない者はおるまい。ニルスは自らの推測を口にして、>>143 イェンニが視線を逸らすのを見た。]
[>>148 ヴァルテリの手から包帯が失せ、マティアスの傷が元通り包帯で覆われたのを確認する。]
ありがとう、助かったよ。
[感謝の言葉は、ヴァルテリとイェンニの二人に向けて。
続いて>>149 ユノラフの声が聞こえれば、視線をそちらに向けて苦笑いを浮かべる。]
まったくだ。今回ばかりは流石に厳しい。
せめて人狼の特徴の一つでも分かっていれば有難いんだが。
……ああ、そうだユノラフ。君はなるべく一人になるなよ。なるべく、信用できる相手と一緒にいるようにしてくれ。
[友として案ずるのが半分と、彼が唯一の武器である可能性を鑑みるのが半分。
それだけを告げて、ニルスは居間を出るべく扉へと向かう。]
…………ドロテアに会ってくる。
[そう言えば、自らが何処へ行こうとしているのかは自ずと知れるだろう。言い残し、扉を出て居間を後にした。]
[>>161 聞こえてきたイェンニの声に、自らの発言が些か無神経であったと気付くも、既に遅い。
振り返ることはせず、>>162ユノラフの言葉も背中で聞いた。
居間を出て、階段を上った先の廊下でレイヨとアイノを見つける。
辺りに漂う血の香は強く、思わず眉を顰めた。]
……どうしたんだい、こんなところで。
みんな居間に集まっているよ。……君たちも、早く行くといい。
[二人を居間に行くように促しながら、ニルス自身はドロテアの部屋へと足を踏み入れる。
目的は二つ。遺体を見ておく為と、それから―――。]
さて、思惑通りに人狼は動いてくれるかな。
[誰にも聞こえない大きさの声で呟き、小さく溜息を吐いた。]
[ニルスはまず、ドロテアの遺体の前で膝をつき十字を切る。夥しい量の血は部屋の床を濡らし、ドロテアが寝かされているベッドをも汚していた。
籠る血の匂いを逃がそうと窓に手を掛けるも、嵌め殺しになっていて開かない。]
余程私たちを逃がしたくないのか、
……それとも百年前に使われたままになっているのかな。
[百年前の舞台もこの屋敷であった、というのもまた、ニルスの推測にすぎない。
星詠みに出たからといって全員を閉じ込める為の大きさの屋敷がそう簡単に建てられるわけがない、と思ってのことだ。
次にニルスは蝶番が緩んだ部屋の扉を閉める。壊れてはいるが、閉まらないわけではないようだ。
それは何かを確認したいというわけではなく、単純に一人になる、という状況を作る為の動作であった。]
[ニルスの頭の中には、試してみたいことがあった。
人狼はどのようにして、人を殺すのか。それは直接であるのか、間接であるのか。
他の全員は、しばらく居間から動くことはないだろう。
間接的なものであれば今、人狼にとって最も殺しやすいのが誰かは言うまでも無い。
もし直接的なものであれば、自らの企みは成就しない可能性もあるが、何にせよ考慮の余地は生まれるはずだ。
それに、……。]
余り、人が死ぬのは見たくないからね。
[身代わりに、などというのは柄にもないから口にせず。
血が抜けて随分と白くなったドロテアの顔を見下ろし、ニルスはまた、溜息を吐いた。]
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