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願うだけなら、ね――……
せいぜい口にはせんようにする。
[からかう声に少し拗ねめく気配。]
"殺し"の意味――生かす意味がわからなきゃ
わからないんじゃないかね。
トゥーリッキは……
[口に出し、言葉は飲んだまま。
今はイェンニとマティアスを見て*いる*]
[青年の胸へ載せた脚は、鋭い動作ですぐに引く。
溢れる赤が新雪をよごすと、蛇遣いは眉を顰めて
粉雪塗れのレイヨを咎める如き面持ちで見遣った。]
…あまり、それを零すな。
おおかみを遠ざけるに難儀する。
[差し上げましたと口にする彼へ、それでも鷹揚に
頷いて――厚い毛皮を首元へ掻き寄せ背を向ける。]
いざという折に力が出ぬでは…
庇ってくれたカウコに、申し訳が立たん。
…イェンニに、会いにゆくのだ。
約束を果たしたなら、訪ねよう。
[横殴りの風雪、激しくなりゆく吹雪。
ぐず、と鼻先へ音を立て蛇遣いは足を早めゆく。]
礼の仕返しと、
時が足りぬかどうかは――その折に*。
この、下種……──!
汚らわしいにも程があるわ!
[舐められた手首に、彼には見えなくとも、誰にも見せたことのないほどの嫌悪の表情をさらして。
鉈を持つ手に力は入らない。
ドサ、と音がするのはそれを落とした音。
得物を失った手は彼の頬をはたこうと再び振り下ろす]
姉様…姉様、姉様……!
本当に…―――
………困ったものです。
[差し出したものと同時に貰いうけたものを想えども紡がず、車椅子から転げ落ちた求道者はわらわない。冗談めかぬ口調で訥々と夜気に零し、トン、と宥めず労う態で胸元から引き上げる足を叩き、苦しげに息を吐いた]
………はい…
早く行って下さい。
[のろのろと緩慢な動作で身を起こし、指摘を受けた指先を口に含む。紅い、鉄にも似る、ちの味]
いってらっしゃい。
[再会を願う見送りの言葉を添え、トゥーリッキを引き留めはしない。暫くは空けぬ夜の下、車椅子に寄りかかり紅いオーロラを仰いでいたか*]
[ぱああん、と、冷たい空気の中
頬を叩かれた音がやけに響く。
彼女の嫌悪の声に 男は
口元に歪んだ笑みを、浮かべた]
…――女の悲鳴を、近くで聞くのは、
――ひさしぶりだ…
[くくく と 喉奥で音を立てる。
叩かれたままの角度で頭を止め]
[いつの間にか戸外に出てきたマティアスの犬は。
円な瞳を輝かせ――ころころと転がるように駆ける。
あん
――ひと鳴きと共に、跳躍。
ひとの血肉の味を覚えた仔犬が、喰らいつこうと
おさないながらに鋭くも鈍いその牙を向ける先は]
[女の手首を舐めたばかりの、*盲男の紅い舌*]
カウコ…―――
[去ったトゥーリッキの紡いだ名をなぞり、彼の死を未だはっきりとは知らずも、舌の上に広がる血の味に想う事。地を踏まず腕だけでやっと車椅子に戻る折、そこに小さなナイフを見た]
…………
…もう申し訳は立たないんじゃないかな。
[狼を遠ざけるのに難儀すると零したトゥーリッキをいかせ、車椅子に座す求道者は呟く。キィキィキィキィ…―――血の滲む指先は冷えて感覚も鈍いのは幸いか、激しくなる吹雪の中を長老のテントへ向かい進む]
[あまりの嫌悪と、屈辱感と痛みと。
ぎりぎり歯軋りする表は別人の如く。
息をすることすら忘れる程の感覚で、意識はそのまま飛びそう。
甲高く響く子犬の声が聞こえたか否か*]
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