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漆(うるし)はさ、
燃やした煙を吸っただけでも
木の近くを通っただけでも ひどく体に障るから
四辻村では 御湯治場の神さまに祟られることを
「うるしさまにかぶれる」って
そう言うようになったんだって
[電話をかける声は、土蔵で聞いたことがあるが
現物の扱いなど知らず――当て所なく語りかける]
こんな言い伝えも 知ってる人たちは
みんな死んで おばけになっちゃった
―― 地上 ――
[まだもう少し、夜は続く。
月明かりの元、無遠慮に袋の中身を取り出した]
漢方薬とか、そういうのにありそう。
[端から見れば、赤い涙を流した半屍人が、ひからびた小さい大根のような何かを掲げて首を傾げている図]
あなた誰?
[銀時計を手に佇むオトハの姿が目に入り、小首を傾げた。
思い出したように、金属バッドをちゃきーんと*見せびらかす*]
[キシ..リ...ィィ..ィ]
『――…れて』
[其れは変貌。背中から生えた、
萎れた『翅根』が切っ先まで広がりゆく音。]
――…はっ…あはは、あああ、******** ***********
[嗤う听う*う]
『かぶれてしまいますよ…――』
[声ならぬ声、咆哮のようなわらい声をあげる。]
[異界は裡に満ち乃木を呑み込む。顔の下半分を捩れさせ出現させるのは、両側に突き出す昆虫めいた穢れた色をした外骨格と複眼。人の形をした両目から血の涙が外骨格と複眼を赤く濡らす。]
[両手を胡乱に両側に広げ、上半身からぐぅるりとズイハラを振り返る。続いて捻るように下半身もそれに続き、翅根が震えた。]
[髪留めを失い、幽鬼の如く垂れている髪。
廃屋の壁へもたれ、回復を待っていたけれども]
あ。
[草がすれる音。
足下の草むらでふいに垣間見えたのは、特徴的な生物のフォルム]
ま。ままままさか。
つ つちの こ…?!?
[確かめなきゃ。必死の形相で、強張る身を伸ばした所で…力尽きた]
[過去をうつし留めたこの村では、未だにツチノコブーム中だ]
[持ち主の手を離れてもなお正確に時間を刻む懐中時計を手に、呆然と赤い水が流れる川に視線を彷徨わせていたが]
……うっかり落としちゃっただけかもしれないじゃない。
いや、きっとそうよ。
[根拠もなしにそう決めつければ、気分は少しだけ楽になった]
ただの観光客よ。
この村にはツチノコを探しに……――
[答えかけてから相手を改めてまじまじと見ると、赤い涙を流し、金属バットを装備していた]
……物騒ね。
[率直な感想を述べる声に張りはない。
少女から距離をとりながら、早足で教誨所へ向かおうとする]
[見ぃつけた、の声はかけず。
少年の幽霊は倒れ伏す美津保嬢のそばに在る。
弾痕を一度摩る仕草をして、立ち上がった。]
…教えてくれるなら、子守唄がいい
[トリスウイスキーの瓶にも似た生き物の影が、
草むらに蠢いて去る頃には、幽霊の姿も消える*]
[赤い闇に沈みゆく民家の片隅、
視線が一枚の広報紙へと落ちる]
『幻の珍獣 ツチノコが発見される』
[大々的に躍る文字を背負い、
モノクロ写真が見開き二ページに渡り、
掲載されていた]
[それから視線は、集会所の片隅へと落ちる。
ひとのざわめき越しに中心部を覗くと、
祝言の準備だろうか。
慎ましくも華やかな色彩が、
村の女達の手で飾られていた。]
[――ぱん。
銃声が、聞こえた。異形の女を撃った音の残響、ではない。もう一つの音が、響いた。何だ、と思う。一瞬、時が止まったように思えた。緩慢に思考を巡らせる間が、あった。――その空白は、弾けるように終わった]
…… っ あ、
[長身が、駆けていた勢いのまま、ぐらりと傾いだ。膝が地面に付き、そのまま全身が崩れ込んだ]
……っい、……ぐ……
[日もとっぷりと暮れた頃、
女は自分の存在に漸く気付く。]
あたしという人間はね、
そもそも何処にも存在しないんだよ。
そう、どこにもね?
人の何かを"知りたい"と思う気持ちが形作った、
ただの思念に過ぎないんだ。
[女は誰に語りかける訳でもなく、
言葉を紡ぐ]
知ってるかい?
この村には二つの時間が存在する事を。
それらが微妙にすれ違い、混ざり合い、
交し合い、奇妙な歴史を積み上げていくんだよ。
同じ時間軸で平行に進む二つの世界ってのも、
有るかもしれないねえ?
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