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――きっと、憂鬱、ね。
[相手の言葉を繰り返すにとどめ、"だが"で途切れた先があるのなら聞かずに立ち去ることはなく、先なくも幾ばくかの沈黙が流れようか。]
憂鬱だろうと、愉しかろうと、当事者がやることは一緒。
お前は"傍観者"になるつもりか?
感情なんてその実感がなきゃ理解も出来ないだろ。
無理にわかろうとする必要はない。
どのみち"憂鬱"なんて、消極的な感情だ。
[吐き捨てるように告げる言葉は自分へ宛てたようでもあり、供儀の娘を想えば苦笑しか浮かばない。
静寂を映す赤い空を見上げ、白い息を*吐いた*]
[遠吠えが止んでからも、
しばしその場に佇んでいた]
――これからが『本番』ってことなんだろうね。
[決意する。
捧げられた命の結末を、この目で見つめようと。
それは、これから自分たちが行う事の、
犠牲となるものの行方の確認作業であった]
―自宅前―
[狼の遠吠えが、途絶えた。
それが意味することを察して、瞳を閉じる。]
――しかたないのぅ……
[ぽつり、呟き。
しばしの間外に立ち尽くす。
冬の女王の手が伸びる前に、一度は小屋に戻るものの。
朝を迎える時間にはまた小屋の外へと出てくるだろう。]
―自宅―
[木でできた粗末な小屋。
戸を開ければ、織り込まれた絨毯の上に何冊かの本が散らばっている光景が目に入るだろうか。
洒落ているのは帽子だけ。男は自身の身辺に関しては、存外に無頓着な方であった。まずはその帽子を脱いで、壁の適当なフックにかけた。
一冊の本を取り上げ、開こうとし――やめる。
頭をどこか重そうに数度振って、部屋の奥の寝床に横たわる。
一度額に手を当て、呻く。数度の瞬きののち、意識は浅くどろどろとした眠りに引きずり込まれていった。
時間がくれば、例え外が白まずとも男は目を覚ますだろう**]
…………
次は誰を…―――
[ビャルネのところで温まり始めていた身が冷え切るころ、掠れる声が零す呟き。キィ…―――膝の上に置く手は膝掛けの変わりに服を握っていたが、再び車椅子の音が響き*始めた*]
―― 長老のテント前 ――
…
赤マント、お前は。
[どうかしたのかなどと言われれば、激さずも
感情豊かな蛇遣いでなくとも思うところはある。
佇むアルマウェルの胸板をごつりと拳で押して]
お前は――ほんとうに、
やつあたりし易い面をしているよな。
[狼の声は止んだが、天の凶兆は依然消えない。
彼の役目が生まれるらしきを僅かに知らせると、
行け、とばかりに脇へ避け…ししゃを*見送った*]
……やつあたり。そうか。
し易いと言うのなら、仕方がない事だな。
[トゥーリッキに返す言葉は、やはり淡々と]
……
[ただ、次に及んだ話には、僅かに目を細め、常から険しくも見える眉を、少しだけ顰めるようにした。声を発しはしないまま、テントの前を離れる。紅いオーロラが舞う下を、紅いコートの裾を翻しながら、歩いていき――
いずれ伝える任に赴く。確かめられた惨状を、男の記憶に刻まれたそれの事を**]
[キィキィキィキィ…―――明かりを持たず祭壇へ向かう途中、いきとかえりの足跡が交差する中。不吉な紅いカーテンが映し出すのは、踏む事を避けて通られた人のかたち。
獰猛な、残酷な、容赦のない、獣の晩餐が行われた祭壇から遠くないところで、見開いた眼差しは大地に抱かれた娘のかたちを見つめた。眼鏡の奥で、瞳が、揺れる]
…………っ
[供犠の娘が息絶えたのはここではなく、狼が取り囲み、踏み荒らし、食らい尽くした娘はない。眼鏡をはずさずも滲む視界―――冷え切った頬を伝う雫はやけに熱くて、項垂れるように俯いた]
………一言…、くらい…―――
[ぽつ、ぽつ―――温い雨を降らせど、押し殺した震える呟きの続きはない。キィ…―――車椅子は音を立てるも祭壇へは向かわず、住まう小屋へと引き返す跡だけが*残る*]
…彼女の命で長らえた命…―だな…――
[止まった狼の遠吠えはそういう事なのだろう、と、想う。
唇を一度舐めるのは、彼女の「存在」を思い出す為]
…ところで、知って居たら…ひとつ聞きたいが。
取り巻く「狼」に話しをすると、「操る者」にも聞こえるのだろうか…?
[答えがあっても無くても。
近い位置、カウコを視るを叶わぬ男は顔だけ向けて、問いを置き。
暫くの時の後、その場を後にする――*]
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