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― 辻医院・自宅部分 ―
演壇? 円団? ああ、縁談。
[母親と漢字で器用に会話する。
驚いても、眠たげとも言われる表情はあまり変わらない]
私がですか?
はぁ、そうですね。確かに真面目そうな男性です。
[写真を見るもすぐに閉じ、神社の方へ向かう]
― 神社の木陰 ―
[ブラウスにロングスカート、そしてサンダル。
そんな格好でいつものベンチに腰掛けて、手紙を確認する]
悪戯なのかな。
[『辻有紀』という文字を指先でなぞっていると、背後で*物音がした*]
[引っ張り出したのは、手紙。
差出人不明のこれが、いつのまにか自宅に届いていたのだ。
その中には、複数名の名がしたためられていた。
そして、赤で消されたアンの名前]
『向井』の表札がかかっている門を出て進む。
向かう先は、アンの家。
そう、彼女の顔を一目みて、…安心しようと。
道行けば、手にしたままの例の手紙がはためいて*]
― 自宅 → ―
[カリカリカリ][カリカリ… ガリッ]
[鉛筆が折れ芯が行方不明になった。]
ぐッ
ああ、くそう
こうじゃない こうじゃないんだ
[がり、と頭をかき気付くのは、
机の上にある手紙。その風を乱暴に破く。]
何だ 手紙だ? こんな時に!
名前の一覧?
なんだ、知った名前があるじゃないか
赤線? …ほう!興味深い!
[ペシッ、と手の甲でその手紙を叩くと、
上着を羽織り、*外へと向かう*]
[カラン コロン]
[どこか遠くで下駄の音]
(人の身体がほしいな)
(人と遊びたいな)
(お話というのを、書いてみたい)
(でも人の感情なんて)
(僕には わからない から)
[とある作家はその時に、
後ろの影に気付けなかった]
(この人を”貰って”
解りそうな人を、連れて来るとしよう)
[さぁて、*君の目的は、いったいなんだい?*]
………何、お父様。
見合いの話なら聞かないわよ。…え?手紙?
って、なに勝手に開けてるのよ!
差出人が書いてないからって、私宛のを勝手に…っ…
?何よ、これ。変な手紙ね…悪戯?
…?どうしたのお父さ……あ、本当。アンの名前に線が……え?その下?
“次は 誰に しようかな”…、って…なに、これ。
アンちゃんが神隠し?え?行方不明?それ本当?
[自宅で祭りの仕度をしていたら、急に母親に声をかけられた]
『そういえば…』
[今朝届いた手紙。その中に書かれていた、幾人かの名前と、綺麗な赤で線を引かれたアンの名前]
ちょっと出てくる。学校の方で詳しい話聞けるかもしれないし。リウちゃんたちも心配だし。
[母親に声をかけて、下ろしたての下駄に足を通した。鼻緒の色は綺麗な赤]
『と〜どろっきわたる〜お〜たけびは〜』
[居間のテレビから流れてくる曲を背に、からんころんと音を立てて家を飛び出して行った**]
アーンーちゃん あそびましょ
(あれ てをひいたの ぼくだっけ)
おにごっこ する ?
かくれんぼに する ?
(どっちでも いいかな ねえ)
(ずっと たんすのなかだなんて もう おしまい)
[慣れた手つきで帯をしめる]
まったくもう、なんで着物屋の息子だからって今時和装なんですか。
[文句を言うのは立派な座敷の鏡の前。口元は困ったような柔らかい笑み]
よし、と。
それじゃあ、行って参ります。
[手には人名連ねた手紙を持って]
はい、はい。
また子供扱いを。寄り道ってアンさんのところとお祭りと……全く心配性なんだから。
[まあしょうがないか、と頭をかいて。(06)年前に川でおぼれてそれ以来は]
――けれどこれ、いったい誰が送ってきたんだか。
[つぶやいたのは、神社の脇。
少しだけ唇をとがらせて下駄を蹴上げた*]
(いっぱいいっぱい おもいのつまったものには)
ねえ きこえる ?
(おもいが やどる つくもがみ)
きみも いっしょに あそばない ?
(ながねん だいじにされた きものと)
(しんじゃった むすこへの おもいと)
(それから それから えっとねえ)
ふふ
ぼくはおでかけ うれしいな
はい、一丁上がり。
夏祭りにはこれ位華やかの方が映えますぜ、姉さん。
[紅筆をおき、来客と共に鏡を覗き込む。
蒸し暑い空気に蝉の鳴き声が追い討ちを掛ける。]
――は? 神隠し? このご時世に?
いや、幾ら此処が田舎だからって、
この高度成長期の真っ只中に有り得んでしょう。
さ、支度は出来たんだから出掛けてらっしゃい。
[軽口で流して客の背中を見送る。
白粉の匂いが残る手で郵便受けを開けると、
奇妙な手紙が視界へと飛び込んできた。]
― 村の中 →ンガ宅 ―
『おーにごっこすーるひーと
こーのゆーびとーまれ』
[子供たちが遊んでいる声が聞こてもフンと眉を寄せ睨むだけ]
ガキは暢気で羨ましい
まあ、良い
鬼か 鬼なァ この手紙
「次は誰にしようかな」
[手紙の文句を思い出すと、口元は笑った。そのまま友人宅へと向かう*]
おいンガムラ!居るだろうな?
お前ン所にも手紙届いて無いか?
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