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[駆け寄ってきたアイノに不思議そうに首をかしげ、告げられた言葉と、同じタイミングで聞こえたウルスラの声にう、と詰まりながらもしぶしぶと頷き]
結局怒らせちゃったからなあ……
[耳打ちされて苦笑を浮かべ]
んー、たぶん居ても大丈夫だよ。
俺が迂闊なこと言わなきゃ、きっと。
[あはは、と笑うしかないのだった]
[宿に居たのは見慣れた面々。見慣れるつもりはなかったのに、いつの間にか覚えてしまったな、と嘆息する。
街へと向かう旅の途中、一夜の宿を取るだけのつもりだったのが。飾り道具が壊れ、その修理を頼むのに四日。更に土砂崩れで足止めされて三日。自らの運の悪さを嘆くほかない。]
……そのうえ、人狼? 田舎町らしいというかなんというか……。
[口上の練習をしているときに耳にした、化け物の名を口にしてみる。
馬鹿馬鹿しいとの思いをこめたそれは独り言のつもりだったけれど、近くにいた人は聞きとがめたかもしれない。]
……あららー。
まだまだ、修行が足りないわねぇ。
[頷くベルンハードの様子に、くすり、と笑う。
アイノの耳打ちの内容までは聞き取れないものの、その後に続いた返事で何を言ったかの察しは大体ついた]
[ともあれ、ドロテアの事は、年の近い少女同士に任せておけばよいかと思い。
巡らせた視線は、一週間前から滞在している手品師見習いへと]
ため息つきたい空気かもしれないけど、つきすぎると、幸運逃げちまうよ?
[嘆息する理由には思い至らぬものの、軽口めいた言葉を投げかけ]
……田舎町だから、ってのは、関係ないと思うけどねぇ。
ほんとほんと、怒らせないようにするって。
[いぶかしげな顔をするアイノに何度もうなずいてみせる。
ドロテアはアイノの行動を見ていたけれど、ベルンハードには視線を向けなかったから此れはかなり怒っているなあと、苦笑をもらす。]
修行っていってもさー……
しょうがないじゃん、こればっかりは。
[ウルスラの言葉にがっくりとうなだれながらカウンターに座れば、アイノの注文をこなす父親にすら情けないという視線を向けられ深い吐息をこぼす。
そんななか、ふとラウリの言葉が聞こえて軽く瞬き。]
ラウリは人狼なんかいないと思ってるんだ。
まあそう簡単に信じられる話じゃないよな。
[わかるわかると軽く頷きつつ、ドロテアには聞こえないような小さな声なのは当然なのだった。]
ま、これも修行の内と思ってがんばりな?
[うなだれるベルンハードにさらりと言う。
一体なんの修行なのかは、説明はせずに。
明らかに面白がっている様子に、あんまりからかうな、と宿の主人に釘を刺されたなら、はいはい、と笑って頷いた]
手品師さんは
“こわーい人狼に帽子を被せて、指をパチンと鳴らして鳩に変えちゃいます”
みたいなのは出来ないの?
[水の入ったグラスを両手で持った姿で、カウンターの方へ顔を向けている。]
ええと。それはその。
[>>11聞かせるつもりはなかったから、聞かれたとなるとばつが悪い。]
……街の近くには狼がいない、狼を見たことのない人が多ければ、人狼の信憑性だってなくなる、それだけです。
[あまりフォローになっていないフォローを返した。]
僕は旅が多いから、狼も見たことはあるけれど。人に化けられるような狼が居るのなら、人を食わずとも牛でも鳥でも食べればいいでしょう。狩と違ってお金を出せば食べられるんですから。こんな風に。
[最後の言葉は、肉を焼く音のする調理場を指してのもの。
宿屋の息子と緑髪の少女が、黒髪の少女を宥めていたなんて知らないから、声は普通の音量だった。]
うう……がんばる……
[ウルスラの激励だかからかいだかわからない言葉にはあ、とため息をつき。
普通の声量のラウリにあわれんだ視線を向けた。]
あー……そんなこというと……
[ドロテアが怒る、という前に。
少女ががたりと椅子をたって声高に人狼を見たと主張をし始め。
あーあ、と額に手を当てた。]
[ドロテアは、人狼を否定する...の言葉に、「人狼はいる」「見たもの」との言葉を返してきた。]
……「見た」って言われても。
[緑髪の少女に「人狼を鳩に変えられないか」と問われれば、]
僕はまだ見習いですから。師匠ならきっとできるでしょうね。
[そう言ってポケットからカラフルなボールを取り出した。それをドロテアに向けて。]
いいですか、お嬢さん。ここに取り出しましたるは魔法のボール。種も仕掛けもございません。
さあテーブルに置きましょう。ボールはここにあります。貴方は確かに「見」ましたね?
[大仰な動作で、周りの注目を集め、シルクハットを帽子に被せる。]
確かに確認したのなら、この帽子を被せましょう。ここに確かにボールはある! だって貴方は見たのだから。
[ドロテアが頷いたのを確認して、にやりと笑う。それはずいぶん意地の悪いものだったろう。]
はい、ワン・ツー・スリィ!
[シルクハットを取り去れば、そこにボールは跡形もなく。
あっけにとられたドロテアと、拍手を待つ手品師が残るのみ。]
[ドロテアをとめようとした手は空を切る。
ラウリとドロテアの間で繰り広げられる小さなイリュージョンは、しっかり目に入った。]
消えた……
[ぱち、ぱち、とまばらに拍手。]
―― 宿の一階 ――
ドロテアはラウリの手品にあっけにとられてぼんやりとボールがあった場所を見つめていました。
アイノに手を引かれて、「謝って」と諭されても口をへの字にしてラウリを睨みます。
「ほんとうに、見たんだから……
信じなくて人狼に襲われたって、知らないんだから!」
叩きつけるように叫びました。
そしてドロテアは絶対謝らないとばかりに背を向けて、元の席へと戻るのでした。
[叫んで背を向けたドロテアの様子にやれやれと肩をすくめ。
幼馴染のペッカが静かに一部始終を眺めていたのなら、もうどうしようもないというような意味を込めた視線を向け。]
どーしてあそこまで信じ込めるんだろう……
女の勘ってやつなのかなあ…
[ひそひそとドロテアに聞こえない程度の声でぼやくのだった。]
いるわけないじゃない。
[小さく小さくつぶやいて、ドロテアの座る席へ戻る。
ベルンハードとドロテアの顔を一度ずつ見てから、テーブルに並ぶパンケーキにナイフを入れた。*]
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