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…だから、私にそんな話を聞かせては駄目。
あなたが死んでしまうかも知れないわ。
だから気をつけるように、言いたかったの。
けれどこんなこと、皆の前で言えば…こわい。
人狼だって、まだ目覚めるとは決まっていないというのに。
きっと変な女だと思われてしまうから………
… ごめんなさい。
彼女は、――
ほかならぬ君に食べられるなら、抵抗なんてしないと思うけど。
怯えも、慌ても、していなかったように僕には見えた。
君が来てくれたら、嬉しがるかもしれない。
あさましくなんてないよ。
[イェンニに囁いて、扉を開ける。
小さな扉を開く音が、人狼の耳には届くだろう。
ドロテアの部屋の戸が見えるくらいまで扉を開けて、部屋の中からそっと廊下を覗く。
人がきたら、すぐ警告を、声ならぬ声で伝えるために]
[囁くように謝罪を告げて、目を伏せた。
ただの妄想と笑われるかも知れず、
もしくは人狼と疑われるのかも知れない。
けれど親切にしてくれた彼には、言おうと決意した。
なにもなければとのヴァルテリの言葉が脳裏を過ぎる。
惨劇の前、女は儚い希望と恐怖の予感に震えていた*]
[返る言葉に返す言葉は 高音と低音の二重
一度あげる呻き声は 喉の奥で
グルルルと――獣の如き 響き]
そう、でしょうか。
ありがとうございます。
…レイヨさんは、優しいですわ。
[獣の血が女の輪郭を揺らがせていく
力を奮ったのはほんの一瞬だった
その凶悪な爪が彼女の体を引き裂いたから
赤色に塗れて「食事」を、した
咀嚼の音がきっと音として漏れ伝わる
喰らうのは肉と血 それよりも――人間の命]
―回想―
[縄を外してもらえたら、腕をさすりながら]
あ、ありがと……
[何度も何度もくどいというくらいにその場にいる皆に御礼をいって、久しぶりに両手で危なっかしい食事を取った]
[それからは、ヴァルじいの旅の話を静かに聞いていた。
人狼云々を忘れることで、心の平衡を取っているような……そんな過ごし方をした]
[部屋割について言われれば、一階の一番狭い部屋がいいといった。
また今朝のように迷惑かけるわけはいかないし、広い部屋だと落ち着かないのだ。手を伸ばしたらすぐ何かに触れられるところ―― 結果、男は1階の使用人控室で休むことにした]
―ゆめ―
いいはまうるい
るなだ血らほて
まいけなていっ
はいしいっさこ
いなか繋がいの
たいかるいちが
つないだ手だけ
海の音が近い
いつまでも帰れない
[力が満ちるのが、知らずともわかる
食事は取っていたはずなのに
空腹が 渇きが 満たされていくのがわかる]
嗚呼、これが――
人間の あじ。
[細めた目は恍惚の色を灯し
夢中で貪る間は長く
それでも ひどく短く感じた]
―翌朝―
[誰かが呼びに来るまで、男が自らベッドを起き上がることはない。どんな騒ぎすらも遠い音。、自分のことで手いっぱいな男にはどうしようもなかった]
ぃ、たぃ ぃたぃたぃたぃたぃたぃたぃ…
[布団をかぶって小さく震えている。
水差しに中身がない。水はもうどこかにかけてしまって中身がない。
痛み止めの服用し忘れで悲鳴をあげながら、とびきり痛いところを、それで痛みがなくならと掻き毟り続けている]
[目元の包帯が、破れ落ち、まるで獣の爪に蹂躙されたかのような顔が露になって*いた*]
[食事が終わり 顔を上げて辺りを見渡すと
血の海の中に自分が居る事を知る
真っ赤な部屋
供儀の少女の死体
その血に塗れた自分]
…どう、しましょう。
このままでは、バレてしまいます。
[考えなしで夢中になってしまった]
[伝わる声に、彼は廊下を見ながら、嗤う。
歪んだ笑みだった。
邪魔をするような不粋な事はしない。
もうすぐ朝を知らせる時間。我に返ったような彼女の言葉に、
彼はそうだね、と答えた]
君が彼女の部屋に行くのは、不思議じゃない。
悲鳴をあげて、抱きしめて、泣いていればいい。
君は親しい人を亡くした被害者になる。
[ヴァルテリは逃げるしかないだろうけれど、と。
彼もいるようなら、そんなことを囁いて]
こっちのドア、閉めるよ。
大丈夫、誰も通らなかったから。
[いつしか 姿は元に戻っていた
噎せ返る程の血の臭いの中
アルコオルに酔ったように顔を染めて
吐く息は 生々しい匂いがした]
ありがとうございます。
レイヨさん、本当に、
ほんとうに、ありがとう。
[返る声に、穏やかに温かい声を返す
ヴァルテリがいて部屋へと戻るならば
その身体から血を拭い足跡等残らぬよう。
尽力するつもり]
[ドロテアの部屋の扉が開いたまま
少し緩い蝶番にゆらゆら揺れていた
ひどい血の臭いが廊下へと噴きだし
見ずとも惨劇を伝えている]
誰か、どなたか……っ
ドロテアが、
わたくしの妹が……っ!!
[高い悲鳴じみた声が漏れる。
その血が自身に移る事も気にせずに
息絶えた少女を胸にかき抱いた]
[食事を作ったあと、イェンニに手伝ってもらいながら居間へと運ぶ。
食事ができたとつげるのは女性たちに任せ、静かに食事を済ませる。
マティアスをつれてきたニルスの言葉にゆるりと瞬き。
反対意見がでないようなら、何も言わずに頷いておいた]
夜までの間、ちぃと話でもするか――
[そうして語り始めたのは、遊牧の間にみたとある街の面白い風習だったり。
動物たちの滑稽な行動だったり。
ある程度時間がたてば、ゆっくりと立ち上がって]
部屋で休むとするよ。
[そういって、居間を出て行った]
[個室に入ったあとは疲れたような吐息を一つ。
ベッドに入ったあと、朝まで眠り。
イェンニの悲鳴に、ゆるりと瞳を開いた]
[深夜、聞こえる葛藤に小さく笑う]
食べてしまえばいい。
誤魔化すのはあとから考えれば――
[助けを差し出すレイヨの声を聞きながら囁く。
ヴァルテリがはいった部屋からゆっくりと現れたのは、灰色の狼の姿]
[イェンニがドロテアに口を付けた時にゆっくりとドロテアの部屋に入る。
彼女の食事を見つめて]
そう、それが、人のあじだ……
うまいだろう?
[咽喉を鳴らして声を返す。
ドロテアの腕を一本、うばって齧っている。
イェンニが食事を終える頃には、ある程度満足していた。
小さな少女だから、二匹の狼の飢えを満たすにはたりないことぐらい分かっている]
ああ、イェンニが悲鳴を上げるなら。
わしはかえろう。
[血を拭うのを手伝ってもらい。
狼から人の姿に変じて、ドロテアの部屋を出て行った]
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