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[緩く掲げた手の指先に引き摺られるように、周囲の瓦礫が宙へ浮く。鉄錆の浮いた拉げた鉄線が、鋭い紡錘型に縒り合わさる。]
……――――…
[ズキリと痛む其れは何かは不明。手首を捻り、掌を下向きから上向きにすれば、硝子と鉄線で出来た凶器も浮いた。
高く手を掲げ、]
[ひゅっ―――――]
[逃げる態勢を取ろうとしていた有翼人に投げる。
選んだのではなく、目立っていたから。]
[化け物が尚も腕を振るってくるなら、次の一撃を仕掛けようかと――完全に意識をそちらへ向けていた一瞬。
衝撃が思わぬ所から来た]
あがっ――!?
[左の脇腹を抉るように。
硝子と鉄線を寄り合わせた歪な槍が、激突し通り過ぎた]
痛、あ、痛ああああぁぁっ!?
[バランスを崩し、無様に翼をばたつかせる]
お、落ち、落ちる訳には――!!
[敵の眼前だから、ではなく、有翼人の矜持として。
白き衣装が赤く染まっていくが、激痛を堪え飛行を安定させようとする]
化物じゃない化物じゃない化物言うな!
[力任せに振った手には手応えがあった。手には血痕。もう一発殴ってやる、と思ったところで、鳥から新しい矢が放たれる。
避ける事もせず、もう一つの手で防御する。新しい傷口から血が噴き出す。]
痛いよう、痛いよう。
[異形の顔が痛みで歪んでいた時、横から鳥めがけて、歪な槍が飛んできた。マティウスの槍!]
……美味しそう…―――
[有翼人の血の匂いが鼻腔を擽る。
投擲し終えた侭の手首が、弧を描き、ゆるりと大きく円を描く。先のズキリとした頭痛は一瞬のものだったらしい。]
美味しい、の、か、な、
[今度は、大小ばらばらのコンクリート片と、硝子片が浮かび上がり、切っ先などない、太い棒と言った方が良い塊の槍が形成された。]
[有翼人の悲鳴が、
ある種の心地良さを持って耳朶を擽る。]
美味しい?
[投擲。喩え当たったとしても、貫通は出来ず物理的な衝撃と言った方が相応しいだろうか。]
くあっ……
[どうにか化け物の手が届かない高さで飛行を安定させる。
跳躍されたり、飛び道具があればそうもいかぬだろうが。
何より、最も警戒すべき相手は――]
誰っ!?
有翼人様を傷付けたのはどこのどいつよっ!!
[脇腹の出血が酷いが、手で押さえては武器が使えない。
呼吸を乱しつつも、先程までの余裕が消えた表情で群衆を見回す]
――そこかっ!!
[視線の先には見覚えある姿、目を覆った男が槍らしきものを形成していた。
素早く弓を引き、額を狙って矢を放つ]
[血に塗れた首袋を片手に、意気揚々と屍の中を走る。
混沌とした状況のためか、追手は不思議といないようで
急ぎつつも、どこか風景を楽しむかのように
女は機嫌良く歩みを進めていった]
…アイヤ、豚の化け物が暴れてるヨ。
それに有翼人やよう分からん異形まで…。
触らぬ神に祟り無し、ネ。
関わらないように行く良いヨ。
[遠目で行われている鉄火場にそう呟き
避けるようにその場を後にした]
知るか。
でもきっと、地上人の汚染肉よりかはマシだわ――!
[コンクリートと硝子を固めた棒状の武器。
こちらの矢よりも発射はやや早かったか。
貫通力は低そうだが、まともに受ければ骨も内臓も一溜まりもなかろう]
――――っ!!
[左手の弓を体の前方へ。今はその強度を信じるしかない。
そして同時に、全力で翼を前方へ叩く。
体は逆に、大きく後退を開始する。
そして激突の瞬間、その身は弓もろとも後方へぶっ飛ばされた]
[切っ先。総毛立つ感覚に突き動かされて、その場から転がり逃げた。肩口の肉を深く貫き抉りながら、浄化の光に満たされた矢は穢れた大地に突き刺さる。]
うぅ……―――
[片膝立ちで、地面に突き刺さった矢を引き抜き、]
あああああああああああああ
[咆哮と共に、「纏めず」に周囲の大小の瓦礫を「そのまま」、有翼人へ向けて押し出すように向かわせた。瓦礫の中に、わざと紛れ込ませた訳ではないが、引き抜いた矢も返送する。]
[体を仰け反らすようにして、棒槍を受け流しつつその下方へ回る。
受け止めた衝撃で胸が軋み、咳き込みながら翼を下に落ちる。
意識は一瞬飛んでいたか――しかしそれも、咆哮により引き戻される]
なんなのよ、あの力……無茶苦茶……
[浮き上がる大小の瓦礫に半ば呆然と。
それでも、そのままではされるがままだと、痛みを押して再び羽ばたく]
ナメんじゃ、ないわよ……!
[身を捻り、左側へ回り込む形で避けようと、右の翼で大きく宙を打つ。
多少の瓦礫がぶつかるのは耐えるしかないと、そう判断した、が]
あ、
[悲鳴は小さかった。
風切り羽根の付け根辺りに、それは抵抗もなく突き刺さった]
ああああああああ――っ!!
[絶叫が響く。
紅い羽根を数枚散らして、弾かれたように高く高く飛び上がり、それっきりその場を去った**]
[ひら、ひら、と甘い匂いのするものが鼻先に落ちてきた。舌を伸ばし、朱い羽を絡め取る。]
[くちゅ]
[軸部分を口の中で折るようにして咀嚼した。地上とは違う、汚染されていない血の味だが、汚染されていない事を考えるだけの意識が今はない。]
――――……
[喉を鳴らし、羽を嚥下。
ふら、ふら、と危なげな足取りで、
血の匂いを頼りに、ベルンハードの元へ向かう。
辿り着けば、とすん、と膝を付いた。]
けが、血、痛い、の?
[そして、拒まれなければ、矢で貫かれた傷痕へ向けて、口づけるように流れ出た血を舐めようとするだろう。]
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