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[緑のネクタイは幾分くたびれている。
抱えた書類袋を持ち直して、路地の先を見る。
会話をしていた二人のうち、一人が紙片を取り出した後歩き出すのは視界に入った。
約束を果たしたいという男の声がようやく耳に届く。
他に路地を行く人もいるのが見える]
……寂れた路地だと、聞いたのだがな……
[人っ子一人いないイメージがあった。
思ったよりも人が居るのをみやり、噂の聞き込みをするか否か。
*しばし考え込んだ*]
[目に入った駄菓子屋で
大人買いした駄菓子を店先でぱくつく。
ヨーグルトのミニチュアのようなそれを
木べらのスプーンで口に運ぶ]
これもなっつかしいよなー。
よく一緒に食べに行ったっけ。
こういう場所、今じゃまず見ないよな。
[周囲の景色。
もしここにきた理由が違っていたら
目的を忘れていたかもしれない]
「もぎゅ もぎゅ もぎゅ…」
先刻、芸人が居た駄菓子屋の店頭には
茶店よろしく古びた縁台が出してある。
今は、1本30円のスルメ串片手に居座る男がひとり。
「とんでもない、サボってなんかないもぎゅよ。」
隠す気があるのかないのか、咀嚼音混じり。
手にした携帯電話の向こうと、頻りに話す。
「了解、了解。
ご都合がつくようでしたら、
またいつでもお待ちしておりますもぎゅ。」
にこやかな声をした、福々しい男の横を
誰かが通りすぎていく―――そんな*風景*。
[鉢合わせて、見上げる。
落ち着いた瞳の、背広の男。]
――ごめんなさい。
少しだけ、よそみをしていたの。
[取り落とした紙片を拾い上げて、
ふっと思いついたように、彼の瞳を見つめ直す]
ねえ。あなた。
このあたりに、詳しい?
では、お相子です。
僕も余所見をしていました。
[世慣れていない雰囲気の娘が見上げ来る
その視線を受けながら、背広姿は返答する。
彼女が何か拾うらしきを
一拍待って、首を傾げた。]
…「詳しかった」んですけどね。
今は、うろ覚えです。
行き先はどちらで?
そう。
[理解したのかどうか、少女は首肯する。
なら少しは判るのね。そう呟いて]
私の、行き先は。
[そこまで言いかけて、口を一文字に結ぶ。
紙片を握る手に赤みが差して、
息を吐いて、また吸って]
そうね。
……大通りまでの道は、知っている?
[瞬きも少なく、相手の逡巡を容れる。
視線は、娘が口を開けば其処へと戻り]
ええ、知っています。
[言いながら、背広姿は辻の中央へ進み出る。]
床屋さん、
荒物屋さん、
牛乳屋さん、の順に辿っていけば
大通りに出られますよ。
辿れればですが。
[手にした黒い鞄は、重いまま。]
焼き鳥屋で、
砂肝を7連続で注文すると
[やがて横丁を抜け、雑踏に紛れる間際。]
「思い出屋」の裏メニューが…
というのは、ハズレ。
[まるでビジネスマンという
記号のような男が口にする、そんな*ひとりごと*]
とこやさん。あらものやさん。
ぎゅうにゅうやさん。
[異国の言葉のように繰り返す。
覚えきる前に、歩き出す男]
ありがとう。あなた、紳士なのね。
[ひよこのように、ついていく]
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