情報 プロローグ 1日目 2日目 3日目 4日目 エピローグ 終了
[瞼を開くと、短く苦笑した]
スマン。
ぽっぽ焼きくらいなら、食べられる時間。残ってると思ったんだけどなぁ。
カミサマは、思ったよりケチだったみたいだ。
とびきりの弁当か。そりゃ食いそびれて残念。
なんなら、後から持ってきてくれてもいいんだぜ。
何十年後になるか知らんけどさ。
[そこで一度口を噤んで、真剣な表情でワカバを見詰めた]
[目の前でくるくる変わる表情]
[ふくれっつら]
[柔らかい微笑み]
[ああ。どんな表情も可愛いって思ってたんだっけ。伝えたことはないけれど]
[意識がどんどん遠くなる。
教室一杯に広がった満点の星空が、身体を透かして見えそうなくらいに。もう身体を留めていられない。
最後の力を振り絞ると]
それじゃ、また後で。
……逢えたらいいな。
[それきりだった]
[中庭の笹の葉。
ひときわ高いところに括りつけた短冊が、はらりと落ちた。
表にはインターハイ優勝!
裏には目立たないように、短冊と同じ色で書かれた言葉。]
――もう一度だけ。ワカバと会いたい
しかし神さんも思い切ったこと、
決断しましたなぁ。
たった一日だけ、生きていた世界に戻すって。
――酷じゃ有りませんの?
[七夕の夜、約束の大門の前で魂の還りを待つ。
少しだけ体力を奪われたもの達は帰し、
約束の時間までもう少し。
果たしてふたつの魂は無事戻ってくるだろうか。]
あ、そうそう、神さん。
あの二人が戻ってくる前に。
自分、あんたさんに無理を承知でお願いした事、
あるんですけどー…。
[茶目っ気を湛えた口調とはうらはら。
視線は至って真剣なもの。]
ひとつ、七夕の願いを聞いてくれませんか?
今から還ってくるふたり…
ナオさんとヤスナリでしたっけ?
あの二人、自分の存在と引き換えに。
元に戻してやってくれませんかねぇ?
いや、無理承知で言ってますし、
本人達が望まないなら、
それはそれで良いですけどね。
ただ――
[手渡された髪飾りをきゅっと握り]
自分、彼らの願い事、叶えてやりたいんですよ。
駄目なら一年に一度だけ。
向こうに還られる様に。
だめ、ですかねぇ?
[へらりとした笑顔で、懇願した**]
うん、よかった。
ホント、よかったー……
[短冊を追いかけるマシロを不思議そうに見る]
何て書いたんだ?
[次々に響く花火の音。
頭の奥で何かが焼きつくような感じがして瞬いた。
県展に出ていた書道部の女の子のこととか、ひときわ背が高かったバスケ部の男子のこととか、そういう他愛もないある日の記憶が、ふとよみがえる*]
[初めて自分に向けられる、真剣な表情に。
逃さぬようにのばした手は星空を掻いた]
……あ。
[抱き留めたのは温度のない宙のみで。
何もない腕の中を見つめる。
唇をかんで、そっと目を閉じた]
[涙はでない。
もう、散々泣いたのだから]
ひどいよ。
ちっとも私の料理、おいしくないみたいじゃない。
少しくらい、長居してくれてもいいのに。
[ハンカチを握りしめて、歩く。
本当は、とっくに気づいていたのだ。
ヤスナリが、この世の人ではないことを]
[だって自分は彼の葬式に出て、恥ずかしいくらいにわんわん泣いて、次の日は目が腫れて学校にいけなかったのだから]
ヤスナリくんの馬鹿。
せっかち。
薄情者。
うっかり屋さん。
[唇をとがらせて、文句を言いながら。
花火があがって、後夜祭を楽しむ人混みの中を、地面を見つめたままずんずん進む]
[ぱたり、立ち止まるのは、色とりどりの短冊がつるされた笹の前]
ええと、どれだっけ。これか!
[ぶち、と自分の書いた短冊を引きちぎる]
もう、私のお願い事、かなえてくれなかった! 神様の馬鹿。
[それは、一年前にもした勇気を出すためのおまじない]
[くしゃりと短冊を丸めて、ぽけっとにつっこんだ]
楽しかったとかありがとうとか、言いっぱなしで返事聞かないんだから。
[もそもそと口ごもりながら、笹の葉を、その向こうに見える天の川を見上げて、ちょっとだけ思いだし笑いして]
情報 プロローグ 1日目 2日目 3日目 4日目 エピローグ 終了