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[やがて。
完全に動きを止めた女の身体の横で、女と同じ姿をした霊体が、ひそりと立ち上がった]
ふふ、………生と死の境界を越えたみたいだけど、
結局何も変わらないのね。
[霊体は滑るように死体に手を伸ばす。
その顔に眼鏡がかかっていないことに気付くと顔をひそめたが、]
まあいいや、なくても“視えてる”みたいだし。
あの眼鏡は他の人にくれてやりましょ。
ソラはどうなったのかな。
もし私と同じになってたら、時計がなくても時間を正確に測れるようになってたりして。
[もしも同じになってなかったら? ――考えたくはない。
いっそ時間を戻せたらいいのに、と。血の気のない顔で想像を廻らせる。
死ぬ間際に聞いた声のことは、既に忘却の彼方]
……あ、
[近付いてくる足音に気が付き、反応する、それとほぼ同時に抱き付かれた。男はゆっくりと振り向く。少女の姿を視界に入れる。かくまって。かけられた言葉が耳の奥で淡く反響する。
――断片]
……ぅ、……
[変な手紙が。怖くて。あたし。続けられる言葉をじっと聞き入れる。目の前で震える姿を、見下ろす。
――断片]
……あ あ。
一緒に……行こう。……
……離れない、ように…… 気を付けて。
[助けて。響く少女の声に、男は軋んだ声で返す。その相貌からは、赤い涙が絶え間なく流れ落ちる。――断片、は、浮上し、沈殿し、変貌し、積載される。
廻る。繰り返す。
幾度でも。赤き無限の輪が折れ朽ちる*まで*]
[すぐ手に取れる場所にあるのは、堕ちたる神に挑んで、力尽きた記憶。
真に挑むべきは――誰だ]
今、何時だ。
[汗をぬぐい、鉱山から“きょうかい”へ、道を駆け下りる。
ラジオ、乃木警官と一緒に燃えてしまった]
時計、懐中時計があれば、正確に時間を計ることができるのに。
[脈拍で数えたらとっくに5分は過ぎている気がするが、まだ日は昇っていない]
[そうして。
霊体は彷徨うのだ。
相棒の姿を求めて。
異界の裡に覗く、さらなる異界との境界を“見る”ことだけを願って。
そうして、輪に囚われたる女の魂は。
永遠に、えいえんに、同じ時間を廻るのだ。
*境界を“操る”ことを願わぬ限り。*]
[さまよう女は答えたか否か。
その問いは、『正しい問い』であったのか]
真に望む結末はなんだ、眠り姫。
[虚空へと、問いかける。
未だ光を宿す己の右腕を、“きょうかい”の床にたたき付けた**]
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