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[封緘。朱印は茶封筒に合わさり、光に翳せば血のような色合いを見せていた。]
差出人は書かれてないな。
これは何処から?
[ピリッと小さな音を響かせ、封を切り始める。
塩昆布にジャムをかけたお茶請けも、最初食べた時は信じられない思いだったが、慣れれば旨いとノギは思っていた。アンへ、ジャム添え煎餅とお茶と、苦笑じみた身近な者へ向けるような気さくな笑みを向け、]
「…。おまわりさーん!」
[…リリ。
封筒を千切る手が止まる。]
【 『ジャム煎餅』がアーカイブに追加された。 】
[男はそのうちに村の一端へ辿り着いた。傾斜した地に形成された小さな集落。其処此処に背の高い木々が生い茂り、薄暗く見通しが悪い。これまで見てきた村の様子とは違い、人気が少ないというよりは、本当に誰もいないようだった。恐らくは過疎が進んで住む者がいなくなったのだろう。古い家屋の間を歩いていき]
……あれは……火の見櫓か。
[高い位置に建てられた塔らしきもの――火の見櫓を遠く視認する。あれも今は使われていないのかもしれない。
それから、無人の家屋を*覗き込み*]
[勢い良く駐在所に駆け込んできたシャツ姿の男。
所謂企業戦士の装い。四辻村では目立つ姿だ。]
そんなに慌てて、どうしましたか?
[首元のネクタイを緩めて走っていた所為か、酷く慌てた様相にノギには見えた。]
[こんな村へ一人で?とも思ったが口には出さず。
山が暮れるのは疾い。男―瑞原剛―を、駐在所で宿泊させる可能性を脳裏にめぐらせながら。]
失礼だが貴方は?
俺はノギ。この村の駐在警官です。
[帽子のつばに触れ、小さく会釈。]
[少年は無人の村役場に潜り込む。
学校にも通わぬ少年は、こんなとき慰めになる
ありきたりなわらべ唄のひとつさえ*知らない*]
[「 ―― ピッ ピッ ポーン ―
―― 15時 ちょうどを ―― 」
[時刻を伝えるラジオ音声。
それを聞くや、ギターを置き。やかましい足音をあげて階段をかけ下りた。]
[机上のラジオカセットレコーダーの傍、ペンと、何冊かの月刊トワイライトが残された。
開かれたトワイライトの投稿ページには、「ペンネーム・ミズホ」の字も載っていた。]
― 民家・茶の間 ―
みんなっ 知ってるかーーっっ?
18時までー 残り3時間をきったぞ! いぇあ♪
[右手の人差し指を天井へ高々と掲げ、左手を腰へあてて叫ぶ。
常からこのテンションなのである。]
[茶の間のガラス戸越し、裏庭に見えたのは、弟だ。
何かとうるさい姉に頓着せず、金属バットで素振りを黙々と行っている。]
ねーねー、あんた。
おまわりさんにもちゃんと伝達したんでしょーね?
村で重要な事があるから、18時に集会場へ行くように って。
[サッシ戸を開け確認をとれば、弟が頷きを返す。]
[そしてまた弟は素振りへ戻った。
ブン――。 ブン――。 バットが空をきる音。]
…
そろそろ。ネギヤくんを探そっかなっ。
あとはよろしく、弟よ。
んじゃ♪
[今の時間帯なら、彼、まだ放送局かな。
呟くと、スニーカーを履き、地を蹴った。**]
[二人の若い女が、道を歩いている。
二人は首都の大学に通う学生で、専攻は違えど同じサークルに入っている]
「すみませーん、村役場ってどっちにありますか?」
[二人のうちの一人、眼鏡をかけていない方の女が、民家の庭先に立つ老人に、にこやかに笑いながら声をかけた。
老人は無言で道の先を指差すと、二人をじろりと一瞥してから家の中へ引っ込んだ]
「……なんか、やな感じ。」
[ぽつりと零しながら、教えられた方へと歩き出す相棒の横に並ぶ、もう一人、眼鏡をかけている女は。
たしなめるような台詞を、表情を感じさせない声色で口にした]
警戒してるんじゃないの? よそ者、を。
こういう閉鎖的な村にはよくあることよ。
[だから気にしないに限ると、言外に含ませれば、相棒はむくれながらも頷いた。
これでいい。暴く者が細かいことを気にしていたら、はっきり言って仕事にならない]
さ、行きましょ。役場が閉まらないうちに。
まずは村のパンフレットを手に入れなきゃね――。
― *→村役場* ―
交番?
嗚呼、昔の…。
[僅か困惑したような色がノギの眸から覗く。]
あの交番はもう使ってない筈だが、
そこに誰か居たのですか?
……ズイハラさん、ここは山深いから、
動物を見間違えたんじゃないかい。
[とはいえ、頭に過ぎるはこの村の宗教施設。
宗教の名は、何と言ったか。天から墜ちた神を奉っているとか何やら聞いたが……。]
「ザッ...gigigigigigi....ピ…ォォ ン
―― 15時 ちょうどを ―― 」
[木造の村役場に人気はなく
窓から入った少年を咎める者は誰もいなかった。
事務机の上には広げられた帳簿やノートがある。
まだ払われぬ消しゴムの滓、
フタが開いたままの朱肉…
何もかも途中にして放り置かれた態の、室内*。]
[と、其処へ不意に見知らぬ者の訪れがあり――]
おばさんたち、どこのヒト
[呼称へ異論はありやなしや。――ともかくも]
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