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[色々な言葉が、色が、匂いが、ぐるぐると回る]
[……辛うじてレイヨの姿を認め、ごめん、と唇が言葉の形を作り――]
[意識が途切れた]**
[そこまで強く止めたわけではなかったから、クレストが見るというのなら、彼は邪魔をしなかった。
先に階下へと行くヴァルテリに頷いて]
温かい物はおちつきます。
……僕も、すぐ行きます。
[一応、クレストの様子を見る為に、この場から見送る。
それから、中を見る人を見ると、彼の口がなにかを語る。
――慣れていないから、読み取るのは難しい。だけれど、何度か自分の口を動かして]
……ごめん?
[何故そんな言葉を、と。
意識を失った体を見下ろす。
運ばなければと思うものの、彼の力はそこまでない。
困ったように室内を見て、それからだれかくるまで、その場にとどまることになるのだった**]
[夜半に夢を見ていた。
ひとりの娘の背中が、ゆっくりと遠ざかる。
女はその背を追いかける。
ゆらゆらと白くきれいな光が辺りを満たしている。
追いかけて、追いかけるのに距離は遠くて──、
『 ま っ て 』
そう声を掛けようとした。
けれど音は響かずに、その刹那に夢は破れた]
[階下へと降りたあと。
クレストがたおれた事は知らず。
台所へと向かえばニルスはそこにいただろうか。
居れば上であったことを話す]
さて……
まあとりあえず、湯を沸かすか……
[やかんを火にかけて。
あとは、昨日のスープの残りがあればそれを温める。
ゆっくりと、うごいていた**]
[朝、ざわめく気配に身体を起こした。
夢はいつもの不吉な夢。
遠ざかっていく背、ちらと横顔を見た気がした。
胸騒ぎをおさえて身支度をし、恐る恐る扉を開く。
女の部屋は姉妹の部屋のすぐ傍ら、
今は丁度イェンニと共にドロテアを挟むかの形。
だから廊下に溢れる噎せ返るほどの血の匂いは、ひどく、濃い]
あ…、あ。まさか、
[レイヨが中を見ないように言う。
けれどイェンニが中にと聞けば、放っておけない。
お願いと小さく願って覗いた部屋は、異様であった。
血塗れのドロテア、
嘆き悲しむイェンニの姿、
意識を失って倒れ伏すクレストの姿。
呆然とした女の手から杖が離れて、
支えを失った女の身体も床へ崩れる。
長いスカートが場違いなほど、ふわりと床に広がった]
イェンニ…、イェンニ。
[それ以上を言えず、妹を失った彼女の名を呼んだ。
床を這って向かおうとする、その手前に意識を失った男がある。
無意識のように手を伸ばし、クレストの額へと触れた。
息をしている様子に少しほっとして、
そのまま動けずにイェンニへと再び顔を向ける。
泣きじゃくる彼女と目が合えば、涙が零れた]
…ごめんなさい。
引き止め、られなくて……ごめん、ね。
[夢で引きとめたとて変わらなかったのかも知れない。
けれど謝罪の言葉を紡ぎ、女はイェンニへと腕を伸ばした]
…ウルスラ、様。
どうして、
[名を呼ばれ向けた血と涙に濡れた顔はひどいもの
それでも問いを投げられたのは
ふたりが立て続けに倒れた事に驚いて
意識がこちらへ戻ったかのようだった]
どうしてウルスラ様が、
謝られるのですか。
…引きとめる、とは、
一体どういう事、なのでしょう…?
[伸ばされる腕を拒絶せず身を寄せて
だけれども浮かぶ疑問を口にした]
… え、 ?
[女は、女の理屈で言葉を口にするだけだった。
だから己の言葉が、どんな疑念を呼ぶかも思いもよらず。
ただ少し混乱するまま、イェンニを見返した]
ゆめ……、で
[躊躇うような戸惑うような間のあとに、ぽつと零れる。
揺れるまま、曖昧な言葉たちが]
ゆめで見たの…ドロテアを。
私には止められなかった。
引き止めたくて……、でも……。…だから、
[ふると首を振る]
…ゆめ?
ウルスラ様、ドロテアと…
夢の中で、お会いになったのですか。
[頭を振る様子に首を傾ける。
それはどういう事なのだろう、と
言葉の先を促すように濡れた瞳で見て]
ドロテアは…――
何か、言ってはおりませんでしたか。
…共に眠るといったのに、
一人でいると…壊れた扉の部屋に入った、
わたしのいもうとは。
[曖昧な言葉を拾い、問いを投げた]
でも…、きれいだったわ。
この子、とてもきれいな光を纏っていた。
だからきっと…、……いいえ。
ごめんなさい、イェンニ。こんな話を、
[問われるままに言葉を紡いで、はたと口を噤んだ。
死を予感する者は疎まれるもの。
親しい死を前にして、気分を害しただろうと瞼を伏せた]
……こんな、辛いときに。
きれい、だった…
そうです、か。
[腕に骸抱く手にぎゅ、と力を籠めて
一度顔をその髪に埋め―― ゆっくり顔を上げた]
いいえ、いいえ。
ありがとうございます、ウルスラ様。
私には見えないドロテアの様子を
教えて下さって…――
[困ったように眉を、下ろして。
震える口許に、笑みを作ってみせた]
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