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[黒い翼で慈悲かける翼人の報告は
果たして『カレワラ』のもとへ届くか。
其の人が両手に掬い上げた蠢く「何か」、
持ち主が斯く成り果てた顛末の全ては。
街で散見された蛇が戻っていった先、
宿に部屋を取っていた筈の娼婦の行方は。
様々に紛れ、カウコへと齎される報は
――――少しずつ数を減らしていく*。]
[其れは、生傷の裡へ手を突っ込み
五指の先滑らせて撫でさするような。]
どこが、 …痛い?…
[探り当てられたのは、己か、双子の刺客か*]
[コン、コン――
単純かつ常識的なノックが二度。
隠れ得ぬ匂い、クレオソートの刺激臭。
身に染み付いた其れは、真の毒を隠す*。]
[ぴん、と空気が張り詰めるのは、まるで、尖らせた神経の先のよう。
幾度かの争い混じる音もあったか、それが次第に近づき、
それは仕舞に、規則的で単純で、あまりに『普通』のノックの音となる。]
――どうぞ。
[同じく『普通』が、それに返される。
『知覚』を多く失った中枢に、毒を招く。
人ならざる香りが、たった一人を予期させる香りが建物を包み漂っていた。]
[冷たい壁がむき出しとなる部屋。
瓦礫の山や、情報屋の持ち込んだ機材、その他武器など納められる箱も積まれてはいるが、人同士が戦いを繰り広げるには十分な広さと高さがある。]
……こんばんは?
[ドアが開けば、口を開く。
先に分かれてそれほどの時は経っていない気がしたが、久しぶりに会うような、不思議な感覚での、挨拶。
白い帽子を緩く傾ける。
その両脇に、同じ顔が武器を構え、同じ貌が来訪者を睨みつける。]
ふう ゥ…
ああ、
[深く、呼吸。喉鳴りはしない。]
[―――直後、ひるがえす長身は]
[カツン]
こんばん はァ ?
[双子の好む無着味のポップコーンの如く、
一度床を弾き――カウコの目前まで疾走した。]
[風圧は軽業師に遅れてやってくる。]
脇を抜かれた双子の面持ちは如何か――
振りかぶる片腕、五指は掴むかたち*。]
[紅く粘つく指を男の身の内から抜き取る。
体内の温もりを存分に堪能したその手は、手首まで染まっていた]
ああ、あたし、こんなにも愛されてる。
[指に柔らかく絡み付く臓物の感触を思い出し、うっとりと目を細める。
そうしている間にも、鉛玉が頬を掠めていき]
あらあら、どうしたの?
危ないからそんなものは置いておきましょう?
[弓を構え放たれた一撃は、慈悲深くも相手の利き手の手首から先を喪わせるだけだった]
――もしかして、
[腹を貫くべく下段に構えられた大振りのナイフを、弓で上方に弾き防ぎながら]
「かんげい」してくれているの?
[天青石色の髪を揺らし、小首を傾げる]
それなら、挨拶に行かないとね。
この街の「頭」に――
[肯定の返事はなかった。
愛すべき同胞となった地上の住民に微笑みかけると、地上の流儀でこちらも挨拶を返す。
残念ながら、その声を中枢まで届ける者はごく少数だったが]
[炎に踊る乾いた実の様に弾く跳躍は、瞬く間に距離を詰め。
『情報』以外を口にしない双子は手にする獲物をそれへと向けた。
砂塵の街を渡る子供から生まれる、刃の風切る音と、火薬の破裂音。
風圧が中枢の主へと届く頃、
白い帽子は僅かに身を屈め、振りかぶられる片腕に掴ませようと鞘に納められたままの大降りのナイフを突き出す。
人の人でしかない反射がそれに間に合うか。]
[>>2すぅ、と開いたのは――――……、]
[いろのない眸。硝子珠でもない、無窮の眸。
布の合間、暗渠の谷に在りて、軽業師がその眸に気付く事はなかったか。嗚呼何時かの記憶>>4:41、あの自縊を試みた日にも覗いた眸は。]
[熱さと痛さ、生と死の境を渡り、『とびこえて』――――。]
[歌を歌わぬ世界の果てで、
狂夢すら死に絶えさせん意思が芽生える。
命と熱と粗全ての細胞が奪われ、
生命のくびきから開放される。]
[男の身体は骨のみとなっていた。
耳朶に付けられていた耳飾りは肉がなくなった事で地面に落ちていたが、其れがひとりでに浮かび上がり、打ち鳴らされた。]
[レーメフルトに渡された番号>>4:39は、
わざわざ用意したものではない。
『番号』は在ったが、名前を削らざるを得なかったのだ。]
[身体を持てぬが故に。]
[鼻先をつき合わせる紙一重、永遠が過る。]
… 痛かった、 よ ?
[瞬くひと駆けの終わり、僅かな対空時間――]
[掴みかかる手より、真上への腕がより疾い。]
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