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[考え事をしながら舞台衣装の裾をなびかせて、ゆっくり階段を下りてくる]
―あの夢って…。―
[階下の人々の事は見ていないようだ。そのまま厨房で数人分のコーヒーの用意をするとテーブルに付き周囲にそっけなく勧める]
良かったらコーヒーあるわよ。
随分と立派なドアになったもんね。劇場みたいじゃない。
…貧乏臭さがちょっとは消えたかもね。
[具合を尋ねられれば大丈夫だと答え、周囲に目をやりながらコーヒーを飲む]
あ…れ?あなた…。
[その眼が一人の青年の上で止まった]
ハー…ヴェイ…?
―夢の中の顔が 本の著者名が 雪の中倒れる自分の目が 最後に見た 悲しそうなつらそうなあの顔が 誰かの血に染まった腕が
《なんで君がここに!!!ああ、なんて事を…!!!》
雪が真っ赤な血に染まる
フラッシュバック
記憶の津波に飲み込まれた――
あ、あ、あ、い…いやぁーーーーー!!!!
[戻った記憶のショックで混乱して泣きじゃくっている**]
…あ。
[分厚い唇をもごもごと動かし、
何事か言いかけるも、]
──、…
…、いいえ。なんでもねえです。
[途中でハーヴェイからかかる声に、
男は、かける言葉を譲るように、
遠慮がちに顎を引いて、口を鎖した。]
………、
[受取ったコーヒーカップ。
かたかたとテーブルの上で、微かに震える。]
『なんで君がここに!!!ああ、なんて事を…!!!』
[叫んだ。あれは。誰の]
[ダレ、の───]
[ 白雪に ──真紅が舞う ]
『──…全員死ねばいい…!』
[……あれは、誰の呪詛だった?]
『今日の処刑は―…。』
[石像めいた、つめたい宣告。]
[違うはずだった。違うはずだった。違うはずだった。]
[正しかった。正しかった。失敗しただけだった。]
『なんで、きみが──…!』
[血に染まった、うで。]
[──必要なくなったドレスと──、小さなセーター]
[……なくしたのは][だれ]
……ッ!!!
[がたん!と、コーヒーカップが返る。
熱い液体が、手を濡らしてテーブルの上に広がる。]
[手が濡れる。
──あの日、手を、……を浸したあかのように。]
………ロル…。
[思い出してはいけない。聴いてはいけない。思い出してはいけない。聴いてはいけない。思い出してはいけない。聴いてはいけない。思い出してはいけない。──聴いてはいけない。]
[──おんがくを]
────…………。
[そうして、泣きじゃくる彼女に手を貸すことも、
自らの手を拭うことも出来ずに、ただ口元を*覆って立ち尽くしていた*]
─集会場、テーブルのある広間─
………
[悲鳴が上がって。そうして、椅子が倒れ
テーブルの上に染みのように珈琲がひろがる。]
……、…
[びく、と肩を揺らした男は、
固まった青年を伺うように──目を向けて]
[台所から、布巾をそっと摘んできた男は、
悲鳴を上げたキャロルと、黒い珈琲と
固まっているハーヴェイの手を順繰りに見て]
書生さん…。
それ。
[布巾を珈琲の上にかぶせると]
あんたさん
…手ェ、お熱く…、ないですか。
[──湯気をくゆらせている珈琲を見下ろして、
ぽつりと尋ねた。]
―集会所・暖炉の傍―
[メイとユージーンが何らかを話しているのをぼんやりと見つめる。恐らく、彼は問われた事には包み隠さず正直に答えただろう]
私は、どのように死んで行ったのかしら…
これが汚れたまま墓地で落ちていたというのでしたら、私は墓地で死んだという事ですけれど…
[暖炉の前に居るというのに寒そうに身を縮こまらせ、赤黒く汚れた十字架を見る。その汚れは、血液]
いやですわね…
御霊を主の御許へ。数多の幸いへ祝福を。それが私の使命だと信じて参りましたのに…。
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