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― 小屋 ―
[やがてトゥーリッキと語らいを終え見送れば、工具の中に紛れる少し趣向の違うナイフと隅に置いた鏡。]
こーゆー赤でも喜ぶんかね、アイツ。
[ためらいなくざくりと刃を入れたのは左腕。
ボタタ、と音を立てて鏡面に落ちる赤ごしに映る姿はカウコ本人のものでは*ない*]
…「狼使い」を…俺は、この群れに来る前に見た事がある。
――殺したことが、ある。
お前らが、普通に「殺せる事」を識っているし、
だから、俺はあんたらに 害成すぞ。
[男は口の端に、歪んだ笑みを浮かべた。
びっしりと鳥肌に覆われた首元、
どくりと喉仏が一度、上下に動く]
…――見えぬは、こういう時は…
―…多分、感謝すべきなんだろう…
[ひとつ、狼が威嚇するようにか遠吼えた。
男は一歩下がりつつ
柵の向こう 遠くに蠢く狼の影を見据えて居る]
[酒杯と共に、時を傾けながら交わした会話。
カウコの宣言めく態に>>105、蛇遣いが応じたのは
室内をあたためる火が爆ぜるのを見計らった後で。]
その類の話は、
この前にしたものとばかり思っていた。
[籠められた思いを一蹴するのではなく――
とうに容れたことだとばかり、グラスの縁を舐め]
"そうじゃないかもしれない"でも"果たす"のか?
今日すべき話は、そちらだろ。
…お前は躊躇ってるか、躊躇ってほしいか、だ。
気づいていないのなら、教えておくよ。
[定かでない話へは、聴いておく、といずれ
公に齎される折を待つ態でみじかく口にした。]
"手伝う"と"大丈夫"なのだな。了解した。
お前がそういう気持ちなら、
…お前もきっと"大丈夫"さ。
[借りた毛布へと、体温残すままに畳んで――
椅子の上へ置く。ちらと見遣るは、同じ鏡。]
[行く旨を告げて、扉へ手をかけながら肩越しに。]
3人めは…あたたまれたのだかな。
[見遣る先に在る>>110悩み声の男の面持ちへ言う。]
――カウコ。
いちばん、と言うときは
二番三番をつける相手の顔を
思い浮かべてからにしろよ。
[伏せるへ無論、否もなく。
拗ねるが恨まんよ、と添えて酒精漂う小屋を出た。]
…気配や声でわからんものは
――きっと目を見ても、判らんのだろうな…
[呟きつつ、さくり、雪に挿す杖の先は自身の後ろ。
体重預けるようにすれば、トナカイの角と蹄でできたそれは
ミシと小さく悲鳴をあげた]
――寒いな…――…
[小屋の外へ出ると、酌み交わした酒で
思いのほか身体があたたまっているのがわかった。
止んでいた狼の声がひとつ、
威嚇するように>>112遠吠えするのが聴こえた。
蛇使いは一度足を止めて、そちらの空を見遥かし…]
… 茶番とは、言うまいよ。
[――彼ゆえに。
ひとつの声がひとつであることを確かめてから
通りに姿の見えたイェンニの元へと向かった。]
[歌声はしろい吐息の帯となって、イェンニが歩く
みちすじへと痕を残しているように見えた。
穢された祭壇のほうから、枝先へ焔を連れてくる
彼女へと、蛇使いは数歩駆け寄り…声をかける。]
――イェンニ !
[妹分たる彼女の唄は、途切れたろうか。
彼女が此方へ姉様と常の呼ばわりをする前に――
ばしン 、と夢見る如きイェンニの頬を*叩いた*。]
… 聴こえたかね?
[村の柵を挟んで、群れへと狼遣いを呼ばわった
マティアスの言についてか…ふと他方へ声が上る。
…狼遣いを殺したことがある、と耳には届いた。]
そんなこともあるさ、とは言ってやるも妙だな。
…………
[キィ…―――聴こえるやんでいた筈の狼の遠吠えに、前髪に隠れる眉を顰め車椅子は止まる。声のした方へ顔を向けて、冷えた手が膝掛けのない足を摩る]
また…―――
見つけるまで待ってくれるはずもないか。
いくつか、伝えておくか。
件の白髪頭――
ビャルネは、あたしが狼遣いではないと
イェンニに言ったそうだよ。確かめるが。
此方のことを知っているのか知らないのか、
かまをかけてるのか詳しいことはわからんが…
まあ、嘘を武器にするつもりらしいのはわかった。
[トゥーリッキが去った後の部屋。
包帯を巻く手は器用なもの。
包帯の端を口にくわえ、右手で抑えた点からくいと引けば完成。
服を着てしまえば見えない位置しか切らない。
ふ、と止める手。けれどすぐゆるりと首を振る。]
――"狼使い"なら、んなこともないか。
[血の香は消せないから、狼の鼻を一瞬思えど気にせず。
赤が好きだと言った女が香までスキかどうかも知らない。
とさり、と椅子ではなく床に座り、壁もたれて目を閉じた。
トゥーリッキと部屋で交わした会話には曖昧に笑っただけ。]
ドロテアを、見捨てたんだ――……
躊躇うわけにはいかない。
[彼女に言葉として一言も返さなかったもの。
静まり返った自室での、ただの独り言。
それはのしかかる罪悪感と義務感と――。]
――かなわねぇな。
[見透かしてくる知己への感想を一つ。
言葉にしなければ躊躇ってしまいそうだから。
したとて、変わりはしないのかもしれない。]
[拗ねる"順番"へはやはり当人へは答え返さぬまま。]
前提が、違う――困るやつと、嫌なヤツの。
[狼使いだったら、という仮定なら全員分した。
当人のいない場所で今度は拗ねるのは自分――。
彼女が置いていった毛布に手を伸ばし、引き寄せる。
"自責は何も生まない"
聞こえた遠吠えに、告げた男を思い出す――
左腕の鈍い痛みを感じながら暫し*意識を落として*]
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