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早く行って下さい。
[のろのろと緩慢な動作で身を起こし、指摘を受けた指先を口に含む。紅い、鉄にも似る、ちの味]
いってらっしゃい。
[再会を願う見送りの言葉を添え、トゥーリッキを引き留めはしない。暫くは空けぬ夜の下、車椅子に寄りかかり紅いオーロラを仰いでいたか*]
[ぱああん、と、冷たい空気の中
頬を叩かれた音がやけに響く。
彼女の嫌悪の声に 男は
口元に歪んだ笑みを、浮かべた]
…――女の悲鳴を、近くで聞くのは、
――ひさしぶりだ…
[くくく と 喉奥で音を立てる。
叩かれたままの角度で頭を止め]
[いつの間にか戸外に出てきたマティアスの犬は。
円な瞳を輝かせ――ころころと転がるように駆ける。
あん
――ひと鳴きと共に、跳躍。
ひとの血肉の味を覚えた仔犬が、喰らいつこうと
おさないながらに鋭くも鈍いその牙を向ける先は]
[女の手首を舐めたばかりの、*盲男の紅い舌*]
カウコ…―――
[去ったトゥーリッキの紡いだ名をなぞり、彼の死を未だはっきりとは知らずも、舌の上に広がる血の味に想う事。地を踏まず腕だけでやっと車椅子に戻る折、そこに小さなナイフを見た]
…………
…もう申し訳は立たないんじゃないかな。
[狼を遠ざけるのに難儀すると零したトゥーリッキをいかせ、車椅子に座す求道者は呟く。キィキィキィキィ…―――血の滲む指先は冷えて感覚も鈍いのは幸いか、激しくなる吹雪の中を長老のテントへ向かい進む]
[あまりの嫌悪と、屈辱感と痛みと。
ぎりぎり歯軋りする表は別人の如く。
息をすることすら忘れる程の感覚で、意識はそのまま飛びそう。
甲高く響く子犬の声が聞こえたか否か*]
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