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あら。ざんねん。
[言葉尻に笑うのが癖かのように、屈託げもなくまた笑う。残念なのは、帽子を奪い返されたことか、それとも人狼ではないことか。]
バク…夫。バク夫殿ね?
わたくしチカノ。近場で野宿するなんてってお父様が怒るから。
家名を汚さぬように通り名ですのよ。
あ。テントの事は、女将さんには内緒にしてくださる?
[内緒にしようもない、広間の隅の黄色いテントを誇らしげに見やる。]
…それではバク夫殿。
わたくし、テントの中を整えないとなりませんから。
[名残惜しげにもう一度もっふもふの手触りを楽しんだ後]
覗いてはなりませんよ?バク夫殿。女のテントは宇宙ですの。
覗いたら…怪我して火傷して後悔しますわ。
[そう言い置いて、もそもそとテントの中に入っていった。**]
女将 ゲッカは、ここまで読んだ。[栞]
村医者 ユウキは、ここまで読んだ。[栞]
……やれやれ、困ったもんだな。
[これで幾度目やら、先刻の来訪者から届いた手紙を開いて目を通す道すがら。]
人狼とはまた、何とも。
[帝都で激務に追われていた頃、作っていた雑誌に、欧州のそういったあやかしの伝承を紹介した記事が掲載されていた事も幾度かあり。]
まさか本邦でこんな話を聞くとはなぁ……。
[感慨に耽りながらも、やむ事のなかった歩みは、召喚状に指定されていた宿屋の前で止まった。**]
[村医者に顔の赤みを指摘され]
その説はありがとうございました。
か、風邪はもう大丈夫…
[隠し仕草で深々と頭を下げる。
消える語尾は新たな誤解を生むやも、気付く筈もなく。]
や、ど?
[聞き慣れた筈も違和感溢れる行き先に、はっと頭を上げまばたきひとつ。]
わたくしで宜しければ、ご一緒に。
[同伴を申し出る言葉を紡ぐ頃には、いつもの柔い笑みを眦に浮かべ、隣へ歩み出た*]
近場じゃなくても怒るだろー
ていうか俺が怒った方がいいのか? まさかゲッカさんが許したりは……
[チカノが黄色いテントの中へと消えると、呆気にとられた顔を引き締め直してぼやいた。
広間での葛藤はどれほどか。
ゲッカが姿を見せれば、ぴしりと姿勢を正し]
あ、はい。いや、ええと……
[「ご、ごめんなさい」口の中でもごりと、緊張した面持ちで、言う*]
― 宿屋前 ―
懐かしいなぁ、この辺は。
あのケヤキの傷までそのまんまや。
[宿屋の隣、今は他人のものになった生家を見遣る。
胡乱な西国訛りは、村を出てから染み付いたもの。
10年前、まだはたちにもならぬ頃のことである。
砂利道を踏みしめる下駄の歩みを、いくらか緩めた。]
この村は、ちいとも変われへんねぇ。
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