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531号室
[病棟の一室。その窓は暗い緑のカーテンで閉め切られ、其処から海が見える事はなかった。ただ、気配ばかりは何処かから滲み侵入してきているようだった。
それを拾うかのように、窓際にある机には花瓶ではなく丸い金魚鉢が置かれ、中には水の代わりに色取り取りの貝殻が半ば程まで詰め込まれていた]
……
[その窓際に、顔を向ける者が一人あった。ベッドの端に腰掛けたその者は、入院着の上に黒いカーディガンを羽織り、更に薄い緑のマフラーを口の上まで巻いていた。更には濃い緑の帽子を被り]
[サングラスをかけて、目元を覆っていた。
漆黒のレンズはその瞳を完全に覆い隠していた。間近で覗き込みでもしなければ、窺える事はないだろう。
その姿は小柄で、一見少年とも思える様だったが、帽子の端から零れる黒い髪には白が混じっていた]
…… ああ、
[吐息めいた声を漏らし、頭を振るように――男は窓際から顔を逸らした。次にベッドの周囲を、壁一面を、順に見ていった。
ベッドの周囲にはイーゼルが幾つも立てられていた。乗せられたキャンバスに描かれた絵は様々だったが、全て過ぎる程に色鮮やかだという点と、全て人を描いた物であるという点が共通していた。
ベッドのサイドテーブルや床には点々と、白いキャンバスや種々の画材が置かれていて]
[壁には額縁に入れられた絵が幾つかと、紙に描かれた絵が数多く、飾られていた。それらもまた、同じ共通点を持っていた。
極彩色。人の姿。
描かれた人々は、皆、目がなかった。そして皆、笑っていた]
……、ああ。
[それらを一瞥してから、男はベッドのシーツに潜り込んだ。帽子を顔の上に置き――やがて、静かな寝息を*立て始めた*]
/*
ウェーイ お邪魔します!
病院舞台とかわくわくわ。不思議仄暗設定わくわくわ。願い願い!! 皆で死のう!
そしてなんか病んだ人になったという。
部屋番号はSMILEのSMIからだったり する ます
――……
[眠りは、浅く。
時計の長針が一回りもしない内に、男は再び目を開いた。帽子を手に取り、暫くぼんやりと仰向けになっていてから、男はベッドから出た。
被った帽子に代わり、傍らに置かれた松葉杖を取る。その両端を前に出し、それを芯に右足を進め、また両端を前に――繰り返す。
男は左足を失っていた。
半ば捲り上げられたズボンから伸びるのは身を覆う白。重度の開放骨折から動かせなくなったその足は、近い将来、真に失われる予定だった]
……
[慣れた様子で歩き、男は病室を出た。かつり。ぺたり。小さく音を響かせ、廊下を進み]
[廊下に人通りは少なく、辺りはしんとしていた。からり。その中で響いて聞こえた音に、男は顔を其方に僅か傾けた。廊下の先に見えたのは、白い人影。病院である此処には当然幾人もいる、医師の一人だ]
……
[そうとまではすぐに把握出来たが、何分サングラスでとても良好とはいえない視界、それがどの医師かまでの判別は]
……、今日は。
[出来たのは、数メートルに近付いてから。かつり、立ち止まり、会釈と共に挨拶し]
[結城という内科医。直接治療での関わりはないが、その名前と所属、新米らしいという事、そして簡単な人となりくらいは知っていた。
そもそも、病院内で全く知らない人間というのは、職員でも患者でもそう多くはない]
いい天気。……そうですね、確かに。
こんなに静かだから。
雨ではないとは、思っていましたが。
そうですね。いい天気です。
[結城の言葉で初めて気が付いたというように、閉じられた窓の方を見た。通る声質だがマフラーで些か篭った声で、ぽつりぽつりと]
……なら。
落とし穴かも、しれませんね。
[独り言のように、直ちに霧散するような淡い言葉を、短く一つだけ落とし]
……
そうですね。もし、宜しければ。
散歩に出てきたつもりでは、ありましたから。
[結城が提案するのを聞くと、少し考えるような間を置いてから、頷いた]
[マフラーに覆われた口元は、サングラスに覆われた瞳と共に、その表情を遮り隠す。笑い声が零れる事もなく、男はただ惑った結城に顔を向けていて]
宜しくお願いします。
[それから、ナースセンターに行くその姿を見送った。彼が戻ってくるまでの間、男は黙って窓の外を眺めていた。結城が戻れば手に持った松葉杖を渡し、小柄な身を任せて、車椅子に腰を下ろし]
[すれ違う人々には会釈や短い挨拶を向けながら、廊下を通り、中庭へと運ばれていく。肘掛けに乗せた手は、時折サングラスを押し上げ、マフラーの端を弄り。
目的地に着き、木陰まで来ると、緑と白の色と気配に満ちた周囲を仰ぎ見るように一望し]
……、いえ。
[結城に覗き込まれれば、ふと帽子の鍔を――元々深いそれを――引き下げるようにして]
大丈夫です。
あまり外に出ないのは、元からでしたし。
体力がないのも、元からですが。
……いい天気ですね。
[答えて後、頭上で揺れる葉と枝を見上げ]
いえ、気にしないで下さい。
いいんです。貴方は違いますから。
違う。多分。……、いいんです。
[結城が謝罪するのを聞けば、其方に顔を向ける事はなくも、代わりに緩く頭を横に振って。零した言葉は、半ば独りごちるよう]
心の、……
先生。
[続けられた話に、ふと一際はっきりと呼びかけ]
先生は、人の心は何色だと思いますか?
先生には、怖いものはありますか?
[そう、二つの問いを紡いだ。マフラーの端を摘み、その辺りに視線を落とすようにしながら]
……人の心は。
極彩色なんだと、思います。
この世界のように。この世界の言葉のように。
[結城の返答を聞くと、一度頷いてからぽつりと零した。
男には、本来無色なる音も、匂いも、色付いたように感じられる。男には世界は酷く鮮やかに見えていた。今はサングラス越しであれ]
そうですか。……そうですね。
私も、怖いものはあります。
怖いものがあります。どうしようもなく。
それは此処まで来ても、逃げられていないんです。
[もう一つの返答には、両手を肘掛けに戻しながら。詳細を質す事はなく、言葉を重ねた]
このまま足がなくなっても、きっと変わらない。
足には何も関係がない事ですから。
[結城が現れた少女に挨拶をすれば、男もその気配に気付き、其方を向いて会釈をした]
今日は。
むしろ、逆、ですよ。
私は……私には、世界はとても鮮やかに見えたから。
その世界を、描き表したいと思ったんです。
自分の見る世界を、人に伝えたいと思ったんです。
[感じ取れる、という話には、少しだけ帽子の鍔を上げ、一たび結城の方を見上げるようにしながら]
それが、どれだけ叶っているかは……
別ですが。……
……それでも、切欠はそうだったんです。
[故に男の絵は、世に出る以前から極彩色を基本としたものだった。現在の「共通点」を持つ絵を描くようになったのは、ある時期を境にして後の事だったが]
どうしたら。……どうしたら、いいんでしょうね。
何処まで行ってもそれは追ってくる。
[呟きには、やはり呟きらしく]
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