情報 プロローグ 1日目 2日目 3日目 4日目 エピローグ 終了
―駅前公園―
[さて、公園には誰か残っていただろうか]
……はー……
[六花が戻って来たと思えば、チカノの行方が知れないと言われ。
こちらでは初めて顔を見た瑞原とは、碌に話す間もなく。
急に様子を違えた穂積が出て行けば、入れ違いのようにして戻ってきた祐樹が姿を消し。
それを前にして焦燥していた菊子も、やがて公園の外へと出て行った。
ワスレモノを取り戻すために]
何だかなー。
[髪を掻き上げて、息を吐く。
心配しながらも同行しなかったのは、邪魔になってはいけないという思いと、もう一つ。
多分自分のワスレモノは、探し回って見つかるものでもないと思ったから。
だってこの街に、自分の思い出はない]
[疲労感を覚えて、噴水の縁に腰を下ろした。
先程穂積が何かを“見て”いた、丁度その辺りに]
何にも見えねーんだもん、……ヒント少なすぎだっつー。
[今までに得たものと言ったら、音楽プレイヤーに1つだけ入っている曲と、海を見た時に聞こえた子供の声だけ。
10年前の街並みを見ても思い出すことはないし、見えるものもなかった。
つまりは自分のワスレモノは、此処にはなくて。
なのに今ここにいるのは、たまたまこの街で何かを忘れている人たちの傍にいて、一緒くたに巻き込まれた、だけなのかも知れない]
……。
[はあ、と先程よりも大きく溜息を吐いた]
[今抱いている感覚は以前感じたものと似ている。
さっき、泣いている先輩を前にして何もできなかった時と。
或いはもっと昔――幼稚園の頃、他の子と仲良くできなくて怒られてばかりいた時と]
あー……
[苛々と頭を掻く。嫌になる程の疎外感を何とかしたかった。
手近なところではそれしかなかったから、ポケットに手を突っ込み、とりあえずプレイヤーを取り出そうとして]
[何かを弾いたような高い音が一つ、響いた]
え?
[顔を上げる。
続いて流れてきたのは、歌こそないけれど何度も聞いたあの曲のメロディ。
けれどイヤホンは未だポケットの中にある]
何?ドコから――
[音の源を探して、視線を巡らせ。
程なく自分の後ろ、噴水の水の中に、それを見つけた]
『……。』
[そこには小さな男の子が映っていた。
怒っているような仏頂面で、けれどよく見れば何かを堪えているようにも見える表情で]
『……これ。』
[振り絞るような小さな声で、手に持った何かをこちらに押しつける。
そうして踵を返して、一目散に駆け出して行き――]
[水面は揺れ、元通りの光景を映し出した。
けれど目を見開いたまま、暫くの間は動けずにいて]
あれ、
[不意に違和感を感じて、ポケットの中を探る。
そこにあるのは音楽プレイヤーと、携帯電話と]
これって、たしか。
[小さな小さな、ワスレモノの欠片**]
―風音荘―
あーもしもし?オレだけど。
……うん、いやわかってるって。
成績?……今はいいじゃん。
[こちらに戻ってから、まず最初にしたことは実家への電話。
すかさず繰り出されるお決まりの文句を受け流そうとし]
はいわかった、わかったってば。うん。
……それでさ、送ってほしいものがあるんだけど。
[逆に説教を受ける羽目になってしまい、本題に入れたのは<<07>>分後だったけれど、さておき]
[それから少しして、それは届いた]
おー懐かし。
捨てられてなくてよかった。
[目を細める。
もう覗くこともなくなった幼い頃の“たからばこ”の中にでも埋もれていたのだろう。
塗装はすっかりはげてしまっている]
……さて、と。
[向こうで手に入れた“欠片”――鍵は、昔のまま綺麗な銀色で、比べてみればちぐはぐにも思えた。
けれど鍵穴に差し込めば、たしかにぴたりと嵌った。
そのままゆっくりと、右に回して]
[かちり、と音がして、蓋が開いた。
同時に流れ出すのは、幾度も聞いた曲のメロディライン]
あーそうだ。コレだった。
[あの空間から戻った後、音楽プレイヤーは元通りになっていた。
タイトルの分からないあの曲は、何度確認しても見当たらなかった。
とは言え、耳にはしっかり残ってしまっているが]
……と、あった。
[その箱の底から、紙を引っ張り出した]
[そこには「またあそぼうね」という言葉と、すっかり忘れていた初めての友達の名前。
まだきちんと字を習う前だから、鏡文字になっていたり大きく歪んだりはしているけれど、確かに読めた。
傍には親が書いたのだろう、新しい住所と連絡先も書かれている]
せっかく貰ったのに、鍵なくしちまうんだもんなー。
[大切にするつもりでポケットの中に入れて、何処かに落としてしまって。
連絡が出来なくなったと随分嘆いたことすら、ついこの間まで忘れてしまっていた]
……あれ、つーかこの住所って。
[それからもう一度見返したところで、気付く。
記された住所が、よく知る街の名前であることに]
もしかして、こっから近い……?
[顔を上げて、窓の外を見る。
その耳にあの音色が届いた、気がした**]
―雷電堂―
ちわ。
今大丈夫っすかね?
[あの一件の後。
人の少ない時間帯を選んで、入り浸るようになった場所があった。
最初は買い物のついでに少し話す程度だったのが、いつからか話すことの方がメインになっていた。
時には猫を構いなどしつつ、いつも他愛ない話から始めて、けれど最終的には]
そーだ、さっきお菊サンが……
[先輩の名前を口にする時、傍目には分かる表情の変化も、本人にはまだ自覚はない**]
情報 プロローグ 1日目 2日目 3日目 4日目 エピローグ 終了