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……え? アンさんが……?
[瞬き、当惑したような声を零した。歩いていたところを話しかけられ、アンが死んだという事を告げられた。連絡を伝えた者は緊張したような顔で頷き、潜めた声で言葉を継いだ。
アンは人間によって殺されたものらしいと。そして、すぐに集会所に向かうように、と]
誰かに、殺された……なんて。
……、わかりました。今から行きます。
[返事をすると、まだやるべき事が残っているからか、連絡者は何処かへと歩いていった。汗が一筋伝う程度の間、思案するように佇んでいてから、男も歩き出し]
……今日は。
[程無くして集会所に辿り着くと、既に集まっている幾つかの姿に挨拶をした。詳細や対応の如何は村長から話されるとの事だったが、まだその姿は見えないようで]
大変な事になりましたね。
アンさんが……
[呟くように言って、少し俯いた]
有難う御座います。
[卓袱台の近くに座り、茶が入った湯呑みを一つ取り上げた。茶の表面が揺れるのを見つめて]
そうですね、あれきりになってしまいました。
様子がおかしかった、……
……もしかすると……アンさんは、何かを察していたのかもしれませんね。
[ホズミやセイジの言葉にそう返す。一口茶を飲み下すと、長い瞬きをして、息を吐き]
[眉や湯呑みを持つ指先を時折僅かに揺らしつつ、神妙な表情で村長の話を聞いていた。話が終わると、ゆっくりと一呼吸してから]
……私達の中に、犯人が。
[呟くようにその内容を繰り返した]
そして、疑わしきを殺す事は、神が赦し望まれる行為だろうと……お告げ、が。
……、
[湯呑みを強く握り締め、また、暫く黙っていて]
……。わかりました。
色々と……考えなければ、いけませんね。
話し合わなければ……
[やがて落ち着きのある、しかし何処となく沈んだ声で言った。村長から開放の旨を伝えられた後も、集会所の片隅に座ったまま、周囲の様子を眺め、話を聞いていただろう。話しかけられたなら、返答も*しながら*]
昨日の夜は、家にいました。
日が沈んでからは誰にも会っていません。
[皆に昨夜の行動を尋ねるワカバに、そう答えた。己以外が答える言葉は静かに聞き]
……私のような者もいますから、ね。
[セイジの疑問とそれに対するワカバの返答には呟いて頷いた。周囲を一望し、目を伏せる。誰もが等しく容疑者であるのだと、再確認したように。
ホズミの言葉を聞けば]
禁忌を犯した理由、なんて……
本人に聞かなければ、わからない事でしょうね。
……尤も、その本人が誰かというのが、問題なわけですけれど。
この中に犯人やその協力者が複数いる、という可能性は……あまり考えたくないですね。
六人の中で一人いるらしいというだけでも、多く感じるくらいですから。
[セイジが口にした「可能性」の話には、否定するわけでもなく、希望のように零した。アンを喰らわねばという声にはただ頷き]
可能性といえば……
……アンさんだけで済むとも、限らないのですよね。
むしろ、……
[小さく呟いて、首を横に振った]
[ワカバとセイジが連れ立って去っていくのを見送った。続けてホズミが去るのも見送り]
本当に……若かったのに。
ええ、集められた方も、皆さん若くて……
私くらいならまだ、仕方ないですけれど。
[ダンケが漏らすのに同意した。男自身も三十を越えて程無いまだ若い範疇ではあったが、容疑者の中では最年長であったために]
若いから。……
そういう理由だという可能性も、なくはないでしょうね。
無事である事を祈りましょう。
出来るなら、これ以上被害を出さないように。
[マシロに柔らかい声色で返す。全く普段通りではなかっただろうが、出来る限りそうなるように。ダンケには、ほんの微かに笑ってみせて]
ええ、知っていますよ。
村で人が死に、その犯人捜しが始まるという話は、たくさんあります。
有名なものでは、人に化ける人狼という怪物の話がありますね。遠い何処かに伝わる話で。人狼は架空の存在でしょうけれど……状況は、良く似ています。
そういう時は、大抵、怪しくない人間程容疑者であるものですけれど……
この状況では、誰が怪しいとも言い難いですからね。
……そういえば、この村にも、そういった話が残っていました。確か……
[そこで一旦言葉を止め、三和土の方を見やった]
ホズミさん。お帰りなさい。
……どうかしましたか?
[呟きはよく聞き取れなかったが、その様子に首を傾げた。また同じような言葉が聞こえたならば、困惑したように眉を下げただろう]
いえ。
[マシロには小さく首を傾けて微笑み返し]
ええ、勿論。行ってらっしゃい。
気を付けて下さいね。
[集会所を出ていく姿を見送った]
ホズミさん。
無実なら……そんな事を言ってはいけません。
[ホズミが呟いた内容を繰り返して聞かせていたなら、そう言っただろう]
今は……犯人を捜さないと。
[内容を知れていなかったとしても、それだけは口にして。いつの間にかすっかり冷めた茶を飲み干すと、ゆっくりと立ち上がり]
少し、外に出てきます。
また後程お会いしましょう。
[そのように言い残すと、男も集会所を後にした。何かを考えるようにしながら、道を歩いていく。時々すれ違う村人は、複雑そうな視線を男に向けてきた。言を憚っているのだろう、話しかけられる事はなく]
確か、あの話の終焉は……
[断続的に独りごちながら。あてつけているかのようによく晴れた空の下を、*進む*]
[村の片隅。木陰の下の岩に腰掛け、周囲を見るともなく眺めていた。人通りが少ない道。時たま通りがかる村人は、此方を一瞥するだけで、やはり避けるように歩いていく。村は何処か静まり返ったようだった]
……
[男自身もまた、黙って]
――ワカバさん。……大丈夫ですか?
[現れた姿を見て、その名を呼ぶ。少し間を置いてから続けて問いかけた。土で汚れて見える白衣と、沈んだような様子に向けて。尋ねる男の声もけして明るくはないものだっただろうが]
大丈夫なら、良いのですけれど。
……こんな状況で、平気かどうかなんていうのも、妙な話でしょうけれどね。
[眉を下げて僅かばかり笑み]
私を?
……セイジさんの、お母さんが。
[続けられた問いかけには、瞬き、驚いたような顔をした後、困惑したような表情になった。じっと、思案するように沈黙していた後]
……本当のところは、知りません。
実際に何があったのかは。
ですが……
[何かしら躊躇うように、呟くように零した]
不慮の転倒による死亡。
……それだけにしては、奇妙なところがある事故だったという事は、覚えています。
当時は私も若かったですし……あまり真剣には考えませんでしたが。
……
もしかしたら、あれは……
「事故」では、なかったのかもしれない。
[曖昧な言葉は、しかし神妙に]
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