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アンー、アン子ー。
ねー、ソフトボールやろうよ。
[降り注ぐ太陽の下、来海 蛍子(くるみ ほたるこ)は、プールサイドで叫んでいた]
何回も言ってるけどさー、先輩引退しちゃって全然人数足りないんだわー。
一緒にグラウンドで青春の汗流そうよー。悪いようにはしないって。
[クルミの心を知ってか知らずか、アンは悠悠自適に背泳ぎしている]
[はぁーーー、と長くわざとらしいため息をつくと、プールサイドを跳ねるように歩いて出口へ向かう]
アン、水泳って何が楽しいの?
[『知りたかったら飛び込んできなさいな』
そんな声が届いてきたけれど、クルミはプールに飛び込むはずもない]
[眩しさに目を細め、プールを離れていった]
今日も、野球部に混ぜてもらうしかないかなー。
[“耕一”が机に突っ伏すようにしている。
校舎の窓から飽きもせず、校庭を見下ろしていた。プールサイドの方から響く声にくすりと笑う。なんだか知った声のような気がした]
……元気だ。
[その日、結城 奈央(ゆうき なお)は木陰に腰を下ろして、編み棒を繰っていました。指に糸をかけ、掬って、通して、外して、引いて、締めて、一目ずつ、一段ずつ、ゆっくりと、着実に、空色は長くなってゆきます。
部活に励む生徒達の声や、バットが球を打つ硬い音、遠くからは、プールサイドに響く笛も聞こえてきます。木々の合間から注ぐ陽射しは夏真っ盛りだと言うのに、それは、まるで相応しくない光景でした。
そんな喧騒にも構わず、様々な音色を耳にしては、ナオはひとりで、楽しそうに笑うのでした。]
ん。
今日もいい天気。
[走り込みをしている陸上部の男子が通り掛かる一瞬、呆れたような眼差しをこちらに向けるのに、ひらひらと手を振ります。
ナオという少女は、変わり者として有名でした。]
[野球部の少年が放ったボールは、クルミが飛び跳ねても届かぬ位置に弧を描き、校庭を転がっていく]
あ、ごめんね。
[ボールは、ナオの足元にたどり着いていた。
どこかぎこちなく謝罪の意を口にして、とぼとぼと歩み寄る]
[足下に転がるボールに、ナオは視線を向けます。編み物の手を止めて傍らの袋へと仕舞うと、手に取って、近づいて来る少女に向けて軽く放り投げました。]
気にしない。
こんなところで、こんな事してる僕も悪い。
[何処となく覇気のない彼女へと、笑みを返します。]
[投げられたボールは、それがまるで決まった道筋であるかのように、手のひらに飛び込んできた]
ありがと。
[目の前の笑みは、伝染してクルミの顔を綻ばせた]
冬に向けて編んでるの?
[それ、と視線を向けたのは、編物が仕舞われた袋]
[立ち上がってスカートを払うと、緑がぱらぱらと舞い落ちました。緩く首を傾け、それより淡い色の髪を揺らします。]
そうだね、そうかな。
気が早いって、皆からは言われるけれど。
それに、編み物なんてしている場合じゃないだろうって。
[拾い上げた紙袋を一度見てから視線を戻して、まるで言う様子は、まるで他人事。
本来ならばナオは、勉学に励まなければならない時期なのに、当人は至ってお気楽に過ごしているのでした。]
君は部活? いいね、青春。
[言葉から、ナオの立場を推察する。
するけれど、それ以上どうということはなく]
青春。
[その言葉は、セーラー服の上から背中を人差し指でなぞられたような、曖昧なくすぐったさをもたらした]
勉強、好きじゃないし。
[照れ笑いを浮かべ、ボールをくるりと手の中で弄ぶ]
あ、よかったら一緒にソフト部……、て、何でもない。
そう、青春。
青い春って言うね。夏なのに。
[ナオの指先は、セーラー服のリボンを弄っていました。]
ん。
確かに君は勉強より、運動が似合っていそう。
ああ、人は見かけによらないかもしれないね。
失礼な事、言っちゃった。
[言いながらも、顔に反省の色はなくて、むしろ、楽しそうでした。
それから、少女の零しかけた言葉に、ナオは緩やかに瞬きました。まじまじと見つめてから、薄く弧を描く口元へと指を移します。]
……野球部のマネージャーかと思ってた。
ソフト部の子なんだ?
部活には入れないけれど、面白そうだね、そういうのも。
[眩しい夏の日差しをうけて、「こはる」は目覚めた。教室で本を読んでいたはずが、いつの間にか眠っていたようだ。グラウンドでは賑やかな声が響いている。]
あつ……。
[知らず、汗が伝ってきていた。無造作に袖口でそれを拭う。]
あ、でも赤点取ったりはしてないよ?
そこまで勉強投げ捨ててはいないから。
[図星な部分があったのだろう、どこか言い訳めいていた]
夏で、先輩引退したら人数激減しちゃって。
野球部に混ぜてもらわないと、守備練すらまともに出来ないんだこれが。
[くすくすと笑って、手にしていたボールを一度頭の上まで放り投げた。
グラブに収まる小気味良い音が響く]
ん、と。
それじゃ、戻るね。
[練習、と言って、空いた方の左手を軽く振って*元いた場所へと*]
……何も言ってないよ?
でも、やり込めるものがあるのは好い事じゃないかな。
[浮かべる笑みは少しだけ意地悪なものでした。
明るい色の髪の上、爽やかな色の空の下、宙を舞う球を、ナオは目で追います。ボールやクラブに染みついた運動場の土の匂いが、すぐ傍に感じられる気がして、眼鏡の奥の目を細めました。]
ふぅん。
そっか。
大変だね。
[左手に袋を抱え、右手を振り返して少女の後ろ姿を見送ります。]
いってらっしゃい。
また、いつかね。
ふあぁ。
[大きな欠伸をひとつして。その後、教室の中、ぐるりと視線をめぐらせる。]
はぁ。誰も見てなかった。
[広げていた本を鞄に仕舞いこむ。暑さのせいなのか動きが緩慢だ。グラウンドの方を羨ましげに眺める。]
元気だなぁ。みんな。
[そう言えば名前を聞くのも忘れていたと思い出しましたけれど、ナオにとってそれは、あまり重要な事ではありませんでした。
天へ向けて片手を伸ばして、思い切り伸びをします。運動した訳でもないのに、汗が肌を伝い落ちてゆきました。服が張りつく感覚に、眉を顰めます。]
……んー。
図書館にでも、行こうかな。
[独り言ちて、くるりと踵を返すと校舎へと足を向けます。
古びた建物は、元は白かった壁は薄汚れてしまって、よくよく目を凝らすと所々に皹まで走っていていました。夏休み中に業者の人が着て補修をするのだと教師が言っていた事を思い出します。今のままでは、夜には何が出て来ても可笑しくなさそうでしたから――学校には付き物の“七不思議”はここでもやはりありましたし――丁度いい機会なのでしょう。]
出たら出たで、面白そうなんだけれどな。
残念。
[昇降口から中へ、明るい外から薄暗い室内へと、*入ってゆきます。*]
こんのノーコン!!
[またもあらぬ方向へ飛んで行ったボールを追い掛ける。
本当に触れたいのは、もう一回り大きな白球であるのに。
そんな思いは、時折クルミの顔に影を落とした]
……こはるやーい?
[校舎の窓辺に、見慣れた顔を見つけた。
校庭の片隅で、両手を伸ばして存在を誇示する。
クルミの顔には、安堵感のにじむ笑みが*浮かんでいた*]
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