高校二年の春、レンから手紙が届いた。
帰宅途中、見知らぬ男に手渡されたハート型の折り紙がそれだった。
『世界を変えてみない?』
その子どもじみた文面に、私は自室で声を出して笑った。
あの男が何者だったのかは未だに知らないし、レンが誰にそそのかされたのか、あるいはレンこそが首謀者なのか、それも知らない。
あれは、目覚めてから十九日後のことだった。
私は一人、様々な楽器が置かれている研究所の一室に呼ばれた。
ピアノ、トランペット、ヴァイオリン、ギター、果ては太鼓まで、無秩序なラインナップ。
「イヴは、ヴァイオリンと相性がいいみたいでね」
しかし、そこには選択の余地はなく、私はただ与えられたプログラムをこなすだけだった。
古今東西、人種も時代も曲も関係なく、ありとあらゆる音源を聴き、演奏VTRをインプットし、模倣した。
初めてヴァイオリンに触れてから百日後、私は質問を投げかけられた。振り返れば、あれが人生で最初の選択だったことになる。
「どんな演奏がやりやすい?」
つまり、演奏に「私らしさ」をもたらそうという試みだったわけだ。
その問いに私は酷く困惑した。どのように答えても構わないことは理解していた。誰か演奏家の名前でも、作曲家の名前でも、抽象的な単語でも、何か言えばいいだけだとはわかっていた。