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―テントの前―
[――さくり。
踏んだ雪が立てた音は、状況の重さと相反するように重い。
息を吐く。虚空に放たれたそれは、刹那しろく凍った後に霧散した]
[どこに行くまでも無い。
その場に立ち、腕を組んで瞳を閉じる。
人間の肉は――特に己の肉は強靭では無いから、ずっとここに居る訳にはいかないのだけれど。
今は、静かにそうして居たかった]
……時間が無い、か。
[耳の底に響くのは、紛れも無い狼達の遠吠え――**]
― テントへ向かう途中 ―
[紅いオーロラの舞う夜空の下、一人の男が歩いていた。この状況では不相応とも言えるかもしれない、真紅のコートの裾が揺れる。線が細い長身の男は、ゆらゆらと、風に吹かれる旗のように、一見おぼつかないような、独特の歩き方をしていて]
……。
[前方に見えてくる一つのテントに、下がりがちな眉を、更に下げた。村と他の村とでの、また村の中での各種伝達を任とする男は、今回の異変にあたって挙げられた容疑者達に、呼び出しの件を伝えてきたところだった。
とはいえ、伝達を聞かずに向かった者もいたかもしれないが]
……嗚呼。
[――男自身もまた、容疑者の一人だった]
紅いオーロラ。紅いオーロラ、だ。
不吉な。凶兆は現れたり。
狼の群れに囲まれて。嗚呼。
これが目論まれたものであると言うのならば。
[芝居のようでも、詩のようでもある呟き。
共に吐かれた息が白く昇り、消え]
長老は仰った。
集まれ、探せ、でなければ。
でなければ……
悲しきかな。
終焉は。猶予もなく、耳元へ。……
粛正は望まれるだろう。
いわんや、談合をや。
……行かなければ。
[遠く聞こえる狼の遠吠え。テントまでは、もう少しばかりある。ゆらりと、*向かっていき*]
―テントの中―
[天空に揺れる赤い光。不気味な狼の遠吠え。
テントへと向かう途中で目にし、耳にしたそれに僅かに眸を細め。
今はテントの中、供犠の娘が静かに長老の側に座っているのを見ながら、テントの出入り口近く、長老から離れた場所に腰を下ろし、じゃらり、と飾りのついた杖を抱え込んでいる。]
――…
[静かなテントの中で息苦しさを感じるように僅かに吐息をこぼし、さて後どれだけ容疑者が集められることやら、と視線はテントの出入り口へと向かった**]
―「家」の内―
[男が伸ばした手で冷たい家具に触れた時
足元に柔らかい毛の温もりが絡まった。
分厚い包帯に遮られた視線を向けてから、
腰を屈めそちらへと手を伸ばす。
ぽふり、と、触れた高い体温は、
トナカイ橇と共に進む犬橇用の犬の生まれたばかりの子。
ぱたぱたと振られる尾の音は、
雪に音を奪われた場では耳に届く。
擦り寄る頭をそっと撫でてやった時、
外から聞こえたのはアルマウェルの足音だった。]
[用件を伝えたアルマウェルが去ってから、
男はまた家具に触れる。
呼ばれた先はテントらしい。
またひとつ、あん と鳴いた子犬の頭をぽむと柔く叩き、
立てかけられたトナカイの角と蹄で作られた長杖を手に取ると
足元を確かめながら、慣れぬ「家」から外へと出た。
引かれた分厚い布に あん と鳴く子犬の声が閉じ込められ
ざくりと踏む雪音は、長老へのテントへとゆっくりと進んで行く*]
― テントの中 ―
[狼の遠吠えが聞こえたのはいつだったか。
赤いオーロラが見えた時さえ、空を睨むように見上げただけで小さく息を吐いて自分のやるべきことを成し。
ほどなくして、狼を操るものがいると告げる長老により此処へ来たのはいましがた。]
よぉ。
[中で一番に見たものは、出入り口を見ていたらしきビャルネ。
にこりともせず短く告げる挨拶を置き、出入り口の近くの位置に腰をおろし、やがて集まるだろう面々を確認していくの*だろう*]
―― 長老のテント ――
なぜ、すぐに襲ってこないんだ?
[ぐず と洟を啜る音がして、その後に声。]
あの忌まわしく取り囲む狼どもは。
いや、襲ってきてほしくはないが。
[カウコがやってきて程なく――――
テントの中央で燃える焚き火の向こう、
毛皮の小山と見えたものがごそりと動いた。]
長老さまが、
あやつる者が在る所為だと仰せなのも頷ける…
[テント上部の煙出しへと、煤が昇りゆく。
被った毛皮をずらして顔を見せたのは蛇遣い。
数年前――夏の興行へ訪れたこの地が気に入り、
住み着いた者。今でも、冬の極寒には慣れない。
この季節、浅い冬眠に入っている相棒の大蛇を
冷やさぬよう、首元へ巻いて常に温めている。]
あんたはどう思うね? 白髪頭。
[装飾的な杖を抱き座るビャルネへ水を向ける]
[ぐず とまた鼻先に音を立てて身じろぐ。
淡褐色の毛皮の中で、両腕を組み直しながら
焚き火の焔越しにカウコを上目遣いに見遣った。]
あの小洒落た帽子の兄さんは
まだ外にいたかい、カウコ。
いい加減、戻らないと足から凍りそうだが。
[テントの外へ出たままのラウリを指す態で、
そう口にする。自分で呼び戻しに出る気も、
カウコやビャルネに頼む気もまたない様子。]
あたしはトナカイの氷り脛を割って、
骨髄を啜るのはだいすきだけどな。
人間の脛へしゃりしゃりに
霜柱が立つのは、考えるだにぞっとする――
[ずー。と鼻先の音がひときわ長く漏れる。
流石に面映かったのか、
蛇遣いは誰にともなく肩を竦める。
ちらと見た供犠の娘が、僅か笑んだ気が*した*]
狼……ねぇ。
[使者の語る話に、ふうと深い息を漏らす。
そうしている間も狼の遠吠えは止まない]
(状況は分かるんだけどね)
(だけどトナカイたちをほっとくわけにもいかないじゃないか)
行くのは行くからさ、先に行っててくれないかね。
こっちにも準備ってもんがあるからさ。
[容疑者扱いされるのには納得いかないけどね、という
言葉は心の内にしまったままで]
[オーロラは、夜空に靡き続けている。
凶兆のしるしと謳われる、真っ赤なそれ。――実際、凶事は村にやってきてしまった]
逃げる事は――……
時期が悪すぎたか。
[やれやれと頭を振り、帽子の唾を軽く指ではじく。
寄せ合うテントの向こう、雪原の先を一瞥した後、静かにテントの中へと足を踏み入れた]
― →テントの中―
―テントの中―
噂をすれば?
何か、話していたのかね。
[自然に足は声をかけた蛇使いの方へと向かう。
小洒落た帽子――数年前に行商人に大枚をはたいて買い取ったもの――を脱いでしまえば、その下から現れるのは平凡な、微かに幼い雰囲気を残した男の顔。
産まれて20年は優に超えているのに、未だその顔立ちは変わる気配を見せない]
…オーロラは見事だが、狼の声が煩いな……
[そして、ゆっくりとその傍に腰を下ろした]
狼の声は、ここからでも聞こえるが…
オーロラはまだ紅いか?
…他所から来て居着いたあたしには、
あの凶兆とやらも綺麗に見えてたのにな。
[躍るほのおの紅を見遣るままに眉根を寄せ]
今は…
水にさらした傷口が、あんなふうに
血の帯を吐いていたかもしれんと思うよ。
…足の話をしていた気がする。
[外気を連れて傍に来た青年を、目礼で迎える。
やはりオーロラのいろが儘にあかいと聞かされて、
蛇遣いは鼻白む態で胡座の片膝へと頬杖をつく。]
迷信が迷信ばかりでないから、
この地がすきになったのだがね。
こんなときは困るな。
…あの狼どもを、村の男衆と犬とで
幾らかでも追い散らしてしまえないのか?
― テントの前 ―
[男は身切り裂く程冷たい空の下、テントの前に立つ。
中から感じるは数人の気配と温度、それに話声。
緋いあかいオーロラを見る事叶わぬ男が空を見上げれば
頬に冷たい氷が触れるばかり]
…――、
[手にした飾り気無い杖で、足元の地面を探る。
コツリ、小さな石が転がった]
足、ね。
…ふむ。
[少し指先の感覚が無くなりかけていたかもしれない。
暖のある方向へと、わずかに身を向けた]
迷信が現実に顕現することも、まま在る場所だからな。
…凶事が起こる時は常に、オーロラが紅く輝いている――偶然と断じる事も出来なくはないだろうが。
…狼どもを?
一匹なら、出来るかもしれん。しかし集団となると……
奴等は存外、賢く――協調性を重んじる生き物だからな。
[少なくとも私は無理だ、と自嘲気味に返した]
―長老のテント―
[入り口を見ていればやってきたカウコに軽く頷き返すことで挨拶を返し。
ちらちらとテント内を照らす炎に視線を戻せば、その奥にあった黒い影がうごめく。]
長老の言葉を否定できる根拠はないのぅ。
群れで行動するのが狼とはいえ――未だに襲ってこないのには、理由があるんだろしねぇ。
[蛇を首に巻きつけたままのトゥーリッキにちらりと細めた瞳をむけ。
じゃらら、と飾りがなる杖を抱えなおしながら。
考えるように言葉を口にする。
蛇遣いの嗜好には答えを返さぬまま、踊る炎を見やり。]
[新たな冷気をつれてきた男へと視線を向ける。]
紅い輝きは常に惨事とともにあるのぅ。
[長いこと村の皆に読み書きを教えながら、今でも読み書きできない者の代筆も行う男はぽつりと呟く。
ゆったりとした口調は年寄り臭く、男の年を実年齢より老けてみせる。]
さて、追い払えるものなら、とうに追い払うだろうて。
――狼どもの数次第とはいえ、響く遠吠えを聞くに村の男衆が全員でかかったとしても――どれだけが無事で居られることやらのぅ。
わしとて、狼一匹と渡り合うなら負けるつもりはないが――な。
[万が一、火を恐れない狼だったら無理だが、と呟いて。
炎を見つめて暫し、沈黙した。]
…また、誰か来たかね。
[厚い雪を、地表まで掘り下げ建てられたテント。
入り口付近で凍った小石>>21が転がる音がした。
毛皮に埋もれる蛇遣いは入口の厚い幕へ目を遣る。
すぐに視線は火へ当たるラウリの身動ぎに戻って]
そう、足だ。温まるといい。
しかし、狼を村へけしかける者かもしれんのか。
狼使いならば凍えておけ。…こうだな。
[冬は、火の傍でのみ饒舌な蛇遣いが一人で頷く。]
この地でなくとも、
年寄りのいうことはきいておけとは言うものだが。
長老さまの言、盲信でなく
納得してしまえるのは幸いかもしれん。
…ああ、そうか…
旧きに学べということなら、文献にもだったな?
[ラウリの後を接ぐように口を開いたビャルネへと
うなずいてみせる。ぐず、と鼻先に音を立て溜息。]
追い払うのは、どうにも無理か。
カウコも同意見らしい。
痩躯を気に病む必要はないようだよ、ラウリ。
[場の男たちが意見を同じくするらしきへ、
先刻声に自嘲を混ぜたラウリへ薄情に言う。]
ではやはり、狼使いとやらを探して
やめさせるが最善というわけなのだね。
あの赤マントは、まだ戻らないか。
何人が集まって…何が始まるのだかな。
[眉を顰める。狼使いを探すという術を想う。]
容疑者を集めて、テントごと燃やす…
なんてことにならんらしいのだけは、
彼女のことひとつ取ってもわかるが――…
[複雑げに、長老の孫娘を肩ごしに*見遣った*]
― 長老のテント ―
[伸ばした杖の先が、入り口の分厚い革布に触れる。
遅れて手が其れを捲り、目に包帯を巻いた侭の男が姿を現した。
――数年前に、行き倒れる所を長老に拾われ、遊牧の民に混じるようになった男。
だが男は今まで、過去を語った事は無かった]
…邪魔を、する…
[低い低い声を発する。
中の暖かい空気の中、匂いと音で数人の気配を感じ取り、ひくりと鼻を動かした]
――"49"か。
邪魔にはならん、座るといい。
[目元へ包帯を巻いた男が姿を見せると、蛇遣いは
"49"――彼を、マティアスをそう呼ばわった。
確かに、彼の両耳へ揺れるプレートにはその数字が
刻まれている。その由来は未だ語られないけれど。]
まだ、何もしてはいないのだ。
まだ、村のために、気の毒なドロテアのために
ここにいる誰も、何も出来てはいない。
肝心な所で役に立てない男衆で、すまんね。
[軽く冗談めかして、蛇使いの言葉に答えた。
テントごと燃やす。ドロテアが居なかったら、その言葉はかなりの真実味を帯びて聞こえただろうか]
狼遣い、か……。
……やあ。
其方も呼び出されたのか。
――災難だったな。
[物思いに耽りかけたが、新たに入り込んだ冷気の主に、続けてそう声をかける]
気の毒…
――だが「必要な事」…
[蛇遣いの声に顔を向けるのは、視力あった頃の名残でしか無い。
数字で呼ばわれる事には、最早慣れもして]
[杖で地面をゆるく撫で障害物の有無を調べてから
手を付き地面へと腰を下ろした。
飾り気無い杖をコトリと倒しつつ、聞こえたラウリの声にも顔を向ける]
…災難かどうか、
――…、判断しかねる…未だ。
[低い声で返事ををぽつりと落とした]
こんな夜に呼び出される事自体が、私にとっては災難だがな。
……。
[口元に薄く笑みを浮かべて、軽く息を吐いた。
眼帯の男には、こちらの表情までは分からないだろうか。しかし吐いた息は、笑みを含んだそれとなっていただろう]
狼さえ居なければ、雪原に出てオーロラ見物と洒落込みたい所だが……
[『オーロラを眺めていた』。
実際、村に異変が起こった日、男はそう言って遅れた訳を説明したのだった]
そうさなぁ。
長老のいうことが納得できるから、といって――今回の儀には納得できんけどのぅ。
[長老の傍らに黙して控える娘にちらりと視線を向ける。
長老の前でどうどうと異を唱えようとも、すでに決定したことは覆らない。
新たにやってきた男に、じゃらりと鳴る杖を抱えたままゆるりと会釈を向ける。]
お主もか、マティアス……
狼使いが名乗り出ることもないだろうからのぅ……最終的にその可能性もあるだろうて。
[テントに火をつけて、という蛇使いに否定することはない。
それが今すぐ行われるか行われないかの違いだと考えているから。]
なに、肝心なところとやらが
きっとまだ来ていないだけさ。
[ずっと洟を啜って、ラウリへ応じる。
例えばビャルネの言葉通り、村の男衆が銃も使わずに
トナカイを襲った狼を射殺すところを蛇遣いは以前に
実際目にし知っていた。頼りには、しているのだ。]
むしろあたしこそ、何も出来やしない。
…蛇を操れるのだから狼も操れるのだろうと
言われてしまうかもしれんと予想する程度だ。
…
報いるのも、「必要なこと」だ。
[薮睨みめく視線は、男の包帯の奥へは届かない。
届くとしたら、苦い砂を噛むような間だけだろう。
不謹慎めくラウリへ、苦言を呈することはしない。
ただ火の中へ、おもむろに白樺の小枝を差し込む。
端を摘んだまま炙ると、やがて…ぱちんと弾ける。]
[溶けた熱い樹脂が、角度違わず――ラウリの頬へ
跳んでいったのは果たして偶然だっただろうか?]
…
[素知らぬ態の蛇遣いは、
儀に、犠牲に――納得していないとこの場で言う
ビャルネの呟きへ同調する態で重々しく*頷いた*]
『肝心なところ』が来ないまま、冬が明けてくれる事を願っておこうか。
ただ戯れに村を取り囲んだだけなら良いのだが。
[誰ともなく発せられた言葉は、しかしビャルネの言葉に同調するかのような響きを持っていたか。
火の中に投げ込まれた枝の様子を見つめていたが、ふと頬に弾かれたような感覚があった]
……やってくれる。
[軽く頬を指で押さえて、蛇使いに向かって微笑んだ*]
[ラウリの息に笑みが含まれるを感じ取り
男は見えぬ目乗せた顔を其方へと一度、向けた。
そして別なるビャルネの声に、深く頷く]
――早々何も無く立ち去ってくれる事も、
無さそうな――空気だ、がな。
[ぽつりと落とす言葉の後
蛇遣いの「必要」に、また、頷いた。
後頭部で包帯の結び目が色味薄い髪と共に揺れた*]
[ぱちり、と白樺がはじける音が聞こえる。
同調するかのような周囲のものたちに眸を細め。
マティアスの言葉にゆるりと視線を向けた。]
そうだの……立ち去るつもりがあるのなら、もう居なくなっているだろうて……
期待するだけ無駄じゃなあ……
[深い吐息をこぼして、炎へと視線を戻す。
ゆらゆらとゆれる形を見ながら、僅かに伏せた眸のおく。
異変があった夜に遅れたのは――仕事途中の手を止めて動きたくなかったからだと、長老には伝えていた。**]
[姿勢良く、しかし俯いて焔を見つめたまま、左手で帽子を目深に引く]
……お気の毒様。
[細い声を零した口元は、一瞬だけ薄く笑みを形作っていた。
もう片方の手は長老の衣へ触れ、その裾をゆるく握り締める*]
[…キィ―――来訪を告げる声に、間を置き響く音。報せを運ぶアルマウェルの言葉に耳を傾け、パチと薪の爆ぜる音に連動する間合いで眼鏡の奥で瞳を瞬かせた。
遊牧の民でありながらいつからか歩くのを止め車椅子に座す求道者は、彼を見上げ暫くの間は口を開く事も無く思案するらしき面持ち。やがて訥々とした口調で幾つか確認をして、納得がいけば肯定を示す沈黙を置いた]
………
支度して向かいます。
[言葉を探すらしき物言いたげな間を自ら打ち切り、示すともなく燃える焔へ視線を向ける。キィ…キィキィキィ―――車椅子に座すも淀みない動きは、長年の生活で培った慣れを感じさせるもの。
アルマウェルの去って後も暫くは、火の傍で揺らめく焔を見つめていた。遠吠えは今も聴こえているというのに、早急に長老のテントへも向かわず。此処には過ごす時を咎める誰も居はしないけれど、居たとしてもそんなひと時も当人にしてみれば支度の一環と嘯くだろう]
[空に靡く不吉な紅いカーテンと、地を這う狼の遠吠えはどちらがどちらに呼応するとも知れず。キィキィキィキィ―――聴こえる声に応えずも、重なる車輪の音は車椅子に座す当人よりは雄弁。
膝掛けの下に仕舞う足の代わり、明けぬ夜に溶かされぬ雪の上に続く二本の足跡。キィキィキィ…―――ォオーン―――深と冷たい大気を震わせる幾度目かの遠吠えに車椅子の音はやみ、冷えた手を擦り合わせ息を吐きかける]
……きこえる。
こえが、きこえる…
[悴む手へ繰り返す呟きの篭る呼気に眼鏡は曇り、視界は白く染まる。役目を果たさぬ眼鏡をはずし見遣る、明けぬ夜の世界―――滲む視界の向こうに靡く紅は、返すべき言葉を見つけられず碌な労いもせず見送ったアルマウェルの後姿も想わせる。
思い返すまでもなく彼の来訪があったからこそ、支度を済ませた今こうして彼の後を追うように、外出をしている。目的地はまだ見えず、狼の姿もまだ見えない]
おおかみ…
[感覚を確かめるべく握る手に掠れた呟きを落とすも、震える理由は決して寒さだけではない。冷えた眼鏡のつるにいつもの癖でカリと歯を立てるも、膝掛けの端で曇った眼鏡を拭いかけ直した。
再び明瞭な輪郭を持つ紅いカーテンに彩られた明けぬ夜を前に、眼鏡の奥で眼差しを細める。キィキィキィキィ―――車椅子は、また軋んだ音を立て動き出した]
[キィキィキィキィ―――テントに着く頃には、もう随分と人が集まっていた。テントの入り口付近で止まり誰と目を合わせるより先に眼鏡の奥の瞳は、供儀の娘を捉える。
彼女が先に>>43零した言葉も、折に浮かべた口元の描くかたちも知りはしない。ただ娘の手は長老の衣の裾を握っているのは見えたらしく、眼差しを細めた]
…………
[目深にかぶられた娘の帽子に視線は交わらず、決して短くはない間に言葉はなく、薄く曇る眼鏡を再びはずす折に視線はそれる。眼鏡のつるをカリと齧りながら、遅くなった事を詫びるでもなく集まる面々を見回し―――眼鏡のない霞んだ視界に瞬いた。
曇る眼鏡を再び膝掛けの端で拭いてかけ直し、長老へ顔を向ける。説明は繰り返されずも報せを受けたと示すようにか、遅くなった事への苦言を零させぬためにか、添える浅い頷きは座す車椅子でなく当人が軋む音を立てそうな所作]
…申し出る者はありましたか?
いえ、先導している者ではなくて。
贄ならば疑わしき者ではいけないのですか。
彼女も疑わしいと仰るなら、別でしょうけど…
[悴む手の強張る理由は肌の感じる温度にでなく、無意識に膝掛けを握る。長老の決定に声高に反対するような力強さもなければ大きくもない声で訥々と語りながらも、輪郭を取り戻した視線は長老を見て、集まる者たちを順に見て、長老の傍らの供犠を見た。
明けぬ夜に冷えすぎた眼鏡はまた薄らと曇るけれど、供犠の娘と交わされる事のない視線を今度はそらさない。娘が口元に幽かな弧を浮かべたなら、前髪に隠れる眉を潜め瞬きには長い瞑目の間に深い*溜息を零した*]
ハイハイ、その日は仕事してましたよ、
って言っても信じないのは百も承知ですよ。えぇ。
長年寒い中で暮らしていると、頭まで硬くなりそうですからね。
いっぺん[6時間前]の狭間で寒中水泳でもしてくるといいんですよ…
あ、いえ何でもありませんよ。
では残りのトナカイを撫ぜてから行きますんで。
石頭…もとい、長老には先にそう伝えていただけると助かりますが。
え? 何故撫ぜるのかって? 日課ですよ、日課。
私こう見えても寒がりなんで。
ハイハイ、では後ほど。逃げやしませんよ。
[そう言って半ば追い払うように、使者を見送った。]
――って言ったものの長老の事だから、
きっとあのよぼけた頭抱えて悩んでいそうだしねえ。
それに召集しただけじゃあ、だ何も判らないだろうし?
[そう言って天を見上げる。
毒とも鮮やかとも称されるオーロラがうねっている。
脅える馴鹿を宥めるように、喉首の毛を逆撫ぜては一息。]
さて。長老の血圧が上がらないうちに行くとしますか。
遠吠えの主のことは…我々が何とかするからね。
また私を暖めておくれ。
[別れを惜しむように一頭へ顔を埋めると、
長老の居住まうテントへ向かった*]
[冷たい風が頬を撫でる。
開いた扉、キィという独特な音は、
視力無き男の澄んだ聴力でなくとも直ぐ判る。
告げられる言葉に、ゆっくりと顔を向け]
…――、疑わしき者、とは。
[紡ぐ、低い声]
[ぱちり、薪が爆ぜる。
か細い声音に、伏せていた眸を上げれば娘がちょうど帽子を目深にかぶったところ。
そのくちもとが描いた笑みは見えぬまま――声はかけずに視線をそらす。]
レイヨか……
[車椅子の音とともに現れた男に、小さく呟く。
順繰りに見渡す男の視線に、ゆるりと会釈を返す。
ドロテアのかわり、と言い出す言葉には、強く杖を握った。
じゃらり、音がする。
彼女を憫れめど、儀に不満をもっていようと。
代わりに自らの命を、と言い出すことはない。
そのことを突きつけられたようで、唇をかみ締めた。]
……お前も含む此処に居る…――
[人間だ、と。
消えた語尾は簡単なひとこと。
含む意味も、簡単な 其れで]
…――
[男は重い口を噤み、炎の温もりへと顔を向けた*]
[しばらく炎を眺めていた。
ドロテアの唇が、何か言葉を紡ぐのを聞いたかもしれない。
――次に顔を上げたのは、再びの冷気と共に、車椅子の音が耳に入ったから]
彼女の代わり、ね。
確かに、君の言う事は最もかもしれんな。
[贄となるのは御免だが、そこまでを口に出すことはない。じゃらりと鳴った杖の音に、視線だけをそちらに向けた]
[視線こそなくとも向けられるマティアスの顔と、低い声。疑わしき者の所在―――彼の言葉に彷徨いそうになる視線を留め、声の主さえ見ずにじっと燃える焔を見る]
…そうですね。
僕たちの中にいるなら…―――
[…ィ―――含む意ごと語尾を消すマティアスへ顔を向けると、身動ぎに軋む車椅子。じゃらり、会釈をくれたビャルネの杖の音が、一際大きく聴こえた気がして言葉の半ばで*口を噤んだ*]
…………
[そのうちに、任を終えた使者の男も、長老のテントに辿り着いた。す、と中へ入り込み、集まってきている面々を見やった後]
……アルマウェル、戻りました。
[そう告げてから、奥に進み、長老の近くに腰を下ろした]
……
[常から思わしげに映る瞳は、静かに周囲の様子を眺め]
[ラウリの、レイヨの会話を聞いている。
身じろぎをするたびに、杖がじゃらりと音を立てる。
新たにやってきたのは、人を呼び集めていた使者で。]
――これで、全員かのぅ……
[ちらり、テントの中の人々を見やり、ポツリ呟く。]
[アルマウェル。
任を終えたのか、と男が長老の近くに座るのを見届けた。
全員。
ビャルネの言葉に、ゆっくりと周囲を見回した。
そして、手元の帽子に視線を落とし、軽くそれに触れた]
[長老の孫たる娘はこの状況でも気丈に見えた。
テントの内を眺める視界の端で、動いた娘の影が俯き加減に帽子を深めるならひとつ瞬き、やがて彼女の口元が動いたのには気付いただろう。
僅かに目を細めたけれど、やはり言葉はなく。]
ドロテアの代わり、ね。
[訪れたレイヨの言葉に呟く声は感心も何もない。]
ドロテアが潔白だとして、己を差し出す意味は?
――容疑者から長老や第三者が選ぶ事になら
意味があるかも、な。
[そう至るまでの想いや理由は言わぬまま。
思考の先にある自身の結論を置くだけ。]
[呟いてからはその話から興味が消えたように炎を見つめ、アルマウェルが戻ったらしきにはお疲れさん、と一言。]
[炎を見つめていた瞳は伏せられ、遠く聞こえる狼の声に耳をすませてまた開けばまた揺らめく赤が映る。]
それにしても、随分と吠える。
全く、奴等は疲れる事を知らないのかね?
[テントの外から、村の外から聞こえる狼の遠吠え。
苦笑じみてそう言葉を発するも、目まで笑わせる事は不可能だった]
―長老のテント―
[ばさり。
入口を塞ぐ布が音を立てる]
……話は聞いたよ。
狼遣いがいるっていうのは――
いや、聞くまでもなかったね。
[狼がいつもとは様子が違う、それだけで十分だった]
操られてる、ってことなら
分からないでもないかねぇ。
あいつらが自分の意思を持たない、
生き物のかたちをしたモノだというなら。
そうだというなら、本当に我が身なんぞ気にせず
命ぜられるままに動くんだろうさ。
死ぬまで、ね。
[疑問を呈するようなラウリにはさらりと答える。
時折、言葉の狭間に獣の声が響く]
[熱く灼けた樹脂をラウリの頬へ飛ばしたあとは、
しばらく皆の紡ぐ会話と、挟まれる沈黙とを聴く。
僅かに届いた細いこえ――
確かにドロテアが笑みを含んで零したそれに瞬き、]
… ドロテア?
[名を呼んで顔を上げるも、供犠とされた彼女の
手元を見るとそれ以上を問えずにくちびるを結ぶ。
その後に車椅子で場を訪れた青年レイヨが、彼女の
身代わりについて言及した折も…蛇使いの面持ちは
変わらなかった。それ以上、苦くならなかったから]
赤マントも、戻ったか。さっきはどうもね。
[自身のところへも知らせを運んできた使者へと
くだけた声を向けたのは、その苦さを潜めてから。
蛇遣いは、暖を取ることに集中したいかのように
毛皮を被ったままじっと火の前から動かない――]
全員ではないのか。あとは誰が…
――と。
ウルスラ先生だったか。これはまた…
[折に姿を見せたウルスラの姿に、眉を下げた。]
[じゃらり、抱えた杖を鳴らしながら、やってきたウルスラに会釈を向ける。]
そんな化け物相手じゃあどうしようもないのぅ……
狼使いとやらがこの中にいるのなら……それこそ始末せねばならぬだろうが――
はて、誰がそのようなものなのやらのぅ
[新たに増えた獣医に、そのあとからヘイヨはやってくるだろうか。
最終的に何人になることやら、と僅かに嘆息をこぼした。]
何しろ、数が多い。
代わる代わる吠えるなら、疲れもなかろうよ。
[――命ぜられるままに。死ぬまで。
ウルスラの言は、胸裡に湧きかけた思考と混ざる。
改めて、先に言葉を発したカウコを焔越しに見て]
…あたしは、逆を思った。
なぜドロテアが供犠にと選ばれた?
若い娘なら、少ないが他にいなくもない。
長老の孫だから、なんて理由じゃ残酷過ぎる…
味が変わるわけでもなかろうに。
[先に来ていた蛇遣いも、書士も既に尋ねたこと。
長老から返答は得られず…今に至る苛立ちが滲んだ]
…すまない、やつあたりだ。
操られている、か……。
[獣医の言葉を反芻するかのように呟く。
思いついた心の内が、気がつく前に外に漏れた]
あれだけの大軍を操れるのなら。
その者は、極北の覇者と言っていいかもしれん――その正体がばれぬうちは、だが。
―――…、本当にいいのですか?
[膝掛けを握り周囲の言葉を聴きながらどれくらい沈黙してからか、長老へ向き直る。そうして苦渋の決断をした長老にではなく、孫娘の祖母へ向ける態で静かに問うた。
―――沈黙。
トゥーリッキの問いにも返答をせぬ老いた長老の瞳に何を聴いてか、前髪に隠れた眉根を三度顰める。けれどもう供犠の娘の事に触れはせず、現れたウルスラの手を振る姿に目礼した]
先に分かっていれば、別に余計なことをする必要もなく
狼遣いだけを狙えばいいんだろうけど……
結局は分からないんだろうねぇ。
知るのは本人ばかりなり、さ。
この中にいると言われてもねぇ。困ってしまうよ。
[余計なこと、とは即ち贄を捧ぐということ。
ドロテアのことを思えば直接的な表現を使う気にはなれなかった。
ビャルネの言葉には深いため息交じりで答える]
―― 長老のテント ――
ハイハイごめんなさいねえ。寒いから其処、空けて頂戴。
[テントに入るや否や火の近くへと進み、
薄い隙間に無理やり入り込もうとする。
通り過ぎた後には、キンと冷えた外気の匂いと、
草食動物の臭いと、どこか甘い香り。]
あら、ドロテアも。他も結構集まっているじゃない?
[辺りを見渡し挨拶代わりの会釈と声掛け。
会話が飛び交う最中には、孫娘に状況を手短に聞き、
内容を整理する。]
狼が現れるまで、トナカイの様子はどうだった?
先生。
[獣医たるウルスラに尋ねるのは、彼女が日頃診る
トナカイたちの、かの闇夜の様子。首を傾げて――]
この地があまり長くないあたしでも、
トナカイたちの図抜けた臆病さは知っている。
人懐こいのは、
荷曳用に去勢された雄トナカイだけだ。
世話をしてくれる人間にだって、気を許さない。
[餌の干し苔を食べさせようと、常より一歩だけ
余計に近づいたときの――瞬時に血走った眼。
垣間見たトナカイの本能を、思い起こして言う。]
囲まれるまでトナカイたちが
騒ぎ出さなかったのも、普通じゃないな…
あの数は――異常だね。
今までだってあんなの見たことないよ。
周りがあんな毛皮に囲まれているなんて前代未聞さね。
よくもあれだけの数が集まったもんだよ。
[トゥーリッキとその相棒に視線をやる。
ウルスラからしてみれば害を与える狼を敵視する理由はあれど
害を与えることもない誰かの相棒を
嫌う理由も遠ざける理由もなかった]
[遠く聞こえる遠吠えはこの辺りを囲むだけ。]
……何とも嫌な気分だ。
[吐き捨てた其れは独り言。]
集めたからには話があるんだろう――
供犠の理由まで話してくれるかはわからんが
[長老に向けた声は今は返答を期待せず、先ほどのドロテアの様子にかはたまた他のことにか、思考は刹那逸れ言葉は止まるけれど]
……話を聞いてから、だ、な。
[想いは多く語らず、炎を見つめる冷めた瞳を今はただ伏せると、暫くはそのまま待つ*つもりで*]
[現れる人々にあわせて地味に動いていれば、いつのまにやらテントの中ほど、隅のほうへと移動している。]
増えたのぅ……
[長老のテントにはそれなりの広さが確保されているとはいえ、これほどの人が一時に集まれば流石に狭くもなってくる。
じゃらり、と飾りがなる杖を邪魔にならぬよう抱えなおしながら、蛇使いと獣医の会話に静かに耳を傾けた。]
そうさねえ、相変わらずってところかね。
病気のもいたから、余計に大人しかったもんさ。
だからこそ、狼が来るなんてことは
思ってもみなかったんだけどね。
そこらへんがまた、不気味なもんだ。
[あの日狼の気配に気づいたトナカイはいない。
それなのに、突然取り囲まれていた異常性。
それを思い、眉間に少しだけ皺が寄った]
[小洒落た帽子に触れていたラウリの指先をちらと
思い返すように見ていると、そこへ新たにヘイノが
体を割り入れてくる。むっとした面持ちで見上げて、
動かずにいるが体格差で押し負け渋々場をずれる。]
…いちばん暖かそうに着込んでおいて、
何がハイハイごめんなさいだ、きさま。
獣臭いは構わんが、
その甘い臭いはきらいだといつも言っているだろ。
[遠慮無く文句を垂れて、大蛇を首へかけ直した。]
……
[止まぬ遠吠えと、集められた者たちの会話。キィキィ――…纏う香りにヘイノの現れるたのを知れば彼の言葉に、ずっと入り口付近から動かずにいた事に気づき端へ寄る。
群れて村を囲むも襲って来ない狼、騒がない臆病なはずのトナカイ、集められた理由―――…ビャルネの言葉に改めて人の多さを確認するように、順に人の顔を見ていく]
[とんだとばっちりを受けた蛇遣いの文句に、
悪びれた様子も無く]
だって寒いんだもん。着込まなきゃやってらんないわ。
年がら年中変温動物ぶら下げてる人には解んないでしょうけれどもね。
それに甘ったるい匂いの文句は、ミカちゃんに言ってよね。
[怠慢な動きをする蛇の頭を見遣り、
同意を求めるように首を傾げる。]
んじゃあ、センセーも今回はお手上げって感じ?
[獣医と蛇遣いの会話を聞きかじり、相槌に似た問いを。]
[レイヨの視線を感じると、隅に寄る姿に肩を竦め]
考え事したそうだけど、もう少し暖を取ったら?
こーんな蛇遣いなんて隅にやっちゃってさ。
[自らが寒いと人も寒いという、自分基準。]
[テントの中の会話を、やや俯いた角度のまま、聞いている。
軽く握った右拳は膝の上
左手は脇に床に置かれた飾り気ない杖の上]
…多いな…
[聞こえるのは狼の遠吠え。
終わらぬ夜の間中、何時とも問わず聞こえる其れ]
まあ、そういうこと。
さすがにあれだけ予想外のことばかりで
その上あの数の狼。
どうにかできる方が凄い、
っていうかおかしいって思うけどねえ。
[お手上げと声をかけられたヘイノには率直な回答。
少し大げさに首を振って見せる]
[夜空を彩る紅は未だ消えることなくあるだろうか。
テントの中に居ればその変化は見えることはない。
狼の遠吠えはテントの中にも届き。
じゃらり、杖を握りなおして静かに息をつく。]
あの異変の夜にこれだけの人間が遅れてきたんは、たしかにおかしいのかもしらんのぅ。
[マティアスの呟きに、同意するように言葉を発する。
獣医達の言葉にも耳を傾けながら。]
[ヘイノが入ってくるのにも、軽く礼をして]
……幕は開かれるか。
兆こそが、幕となりしか。
ならば、見据えん。
……恐れるべきかな。
[炎の揺らめきを見ながら、独りごちた]
うんうん、センセーも大変そうだしね。
ホント、これで如何にか出来たらセンセー、
本当に地球外生物になっちゃうわよねえ。
…前々から薄々考えてはしていたけど。
[大きく身振りされた姿に、至極まじめな顔で頷き]
あー、センセーがとりあえず地球人でよかったわあ。
ね、そう思わない? ドロテア。
[少しでも彼女を取り巻く緊迫した空気を和らげようと。
下らない冗談。笑えない話。]
………ありがとう、外よりは温かいですから。
トゥーリッキのお連れさんも温かいといいです。
[周囲の会話には耳を傾けども思案に沈んでいたから、ヘイノの言葉に反応するのには間を要した。この状況で軽口を叩き合う二人にか、僅かにだが面持ちを和らげる。
マティアスの言葉が集まる疑わしき者を指すのか、狼を指すのかは判らなかったけれど、意識は外へ向く。ウルスラがヘイノに問いかける声に、村を囲む狼を想い眼差しを細めた]
そうだな。数百キロ四方から集めてこないと、
あんな群れにはならないんじゃないか?
[厭わぬ態でこちらを見るウルスラと言葉を交わす。
相棒たる大蛇が、丸呑みしたクズリを喉へと
詰まらせて難儀しているのを救ってもらってから
蛇遣いはウルスラを先生と呼び敬意を払っている。]
狼使い、か。
そんな奴が、どうしてこの村に紛れていたのだか…
否。なぜこの村を狙わせているのか。
ああ、わからないことばかりだな。
[話を聞いてから、と黙り込むカウコへは咎めもせず
緩く瞼で頷いた。自らは黙ることもないけれど――]
…あたしだって寒いから、火の傍にいる。
今の季節の変温動物の冷たさを知らんだろう。
見ろ、きさまが勝手をするから
白髪頭もあんな隅に追いやられてるじゃないか。
[立て続けにヘイノへ剣突くを喰らわせながら、
それでもある程度暖かな場所は確保したままで]
ミカ=ヘンリクは匂いが好かんと言ったら、
わざわざ寄ってこないだけの分別はあるぞ。
[口数少ないマティアスとビャルネの遣り取りに、
蛇遣いはひとつ溜息をつく。軽く眉根も寄せて]
…あたしは、遅れて出てきたわけではないよ。
だが、隣小屋のエートゥが
あたしをすぐには見てないと言ったんだ。
[ヘイノの視線から庇うように、大蛇の頭を
片手で首元へ引き寄せながら蛇遣いは憮然と言う。]
理由は知らん。一発入れてきたし、
文句なら長老さまにも言ったから、もういい。
本当に。
わからないことばかりですね。
[トゥーリッキの言葉に同意して、先とは別の意味で多くを語らない長老をちらりと見た。アルマウェルの声に、下がる眉は前髪に隠れども情けなさまでは隠せない面持ち向けた]
見据えられるといいですけど。
正直なところ僕はとてもこわいです。
見据えて――伝えるか?
["それとも、いだくか?"
アルマウェルの独白を掬うのは短いつぶやき。
ヘイノの減らず口の矛先がずれたのを察してか、
蛇遣いはまたぐずと鼻先へちいさな音をたてる。]
…相棒は、あたたかいさ。
[ぽつとレイヨの気遣いへ応える声は幾分柔い。]
あたたかいから、こうして身じろぎもする。
[しろい鱗が、浅くざわりと波打つ膚へ触れた。]
ふむぅ……それでも容疑からはずれはせんのだなぁ……
長老にしかわからぬ基準でもあるのかのぅ。
[蛇遣いの言葉にちらり、長老へと視線を流す。
それでも喋らない長老にゆるりと瞳を伏せた。]
[ウルスラが狼を殴り倒している図を想像しながら]
確かにこの多さは以上よねえ。
[マティアスの呟きに同意を重ね、
ビャルネた洩れた言葉には]
言われてみればそうよね。てことは、何?
狼だけでなく人の何かも操作できるのかしら?
[ふと湧いた疑問をひとつ。]
いや、外より温かいとかそんな基準ってどうなの。
[ひと時の間は気にせずとも、レイヨの返答には首を傾げ、その蛇遣いのお連れには優しい眼差しを向けるも]
冷たいなら布で包んであげればいいのに。
アンタがそんなに火のそばに居たら、
この子がこんがりなっちゃうんじゃないの?
[視界から抜けて言った姿を見送り、
白髪頭はさて誰だろうと探す素振り。
配慮が足らないと指摘を受けると、少々大げさに溜息を吐き]
ミカちゃんは蛇が苦手なんじゃないの?
で、そのミカちゃんから大事なものを預かってきたから、
いつも以上に甘ったるいのよ。
[言った指先は懐から小さな包みを取り出すと、
まっすぐドロテアの手の中へ。]
恐れるべきかな。
恐れるからこそ。
求められるは、方策なり。
[レイヨの方を見て、返す。自身の心情は乗せない肯定。次に、トゥーリッキを見]
伝えるべきだ。
しかし、伝えんと言うのならば……
抱かなければならない。
抱かれ、抱かなければ。
[雛鳥を扱うかのように、ヘイノに渡された包みに触れる]
お守り?
[力なく笑って首を振る。
両手を太腿の上へと置いた**]
[まだ閉じている目を開く時間ではなかったでしょうか。
寒さの中でも人は眠るのです。
悲しい中でも何かを食べるように。
あぁ、でもそろそろおきなければならないでしょうか…]
[トゥーリッキの連れる蛇は白く、別物とは知りながらも長く見続ける雪を想わせもする。幾分か柔い声と膚に触れる鱗に、眼鏡の奥で瞳を瞬かせた]
…寝返りですかね。
[的外れな呟きは凍えぬ蛇を知れば、トゥーリッキとは違えども声音は幽かに柔らか。こんな状況でなければ、穏やかな微笑みも浮かんだかも知れない。
人も操作できると言うヘイノの言葉にまた思案するも、遅れて返される自分宛らしき声。首を傾げる彼につられて、同じ方向に少しばかり首が傾いた]
どうでしょうね…
ただ人も多いですし、僕は大丈夫です。
疑いは、晴らすさ…
[低く呟いて、長老を見遣った眼を伏せるビャルネの
面持ちを少しの間、仔細に観察するように眺めた。
場をずれた際に、深く被っていた毛皮もまたずれて
いて――ずらさせた当のヘイノの指摘でかけ直す。
むつりとした面持ちは、守りは不要とばかりに首を
振るドロテアの様子に気づいたか…束の間で落ちた*]
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