暑いなあ……。
[日差しの強さにため息をつきながら]
食べたいなら自分で買いに行けばいいのに。
[目新しいもの好きな母親に頼まれて
洋菓子店へ行った帰り道。
日陰になる並木道の下は蝉が大音量で*鳴いていた*]
―― 日中・並木道のベンチ ――
あ、流れ星。
……っなわけないじゃん。
[制服姿で、ベンチに体育座りで空を見上げていた。
箸が転がったかのように、高い声で笑う]
あれ、ニキちゃん。
お祭の浴衣決まったー?
くそあづい…
[上着のフードをすっぽり被った暑苦しい少年が日の下を歩いている。日陰で話す女子たちを見やり、ため息。]
夏なんか早く終わればいいのに。
[しゃりん、しゃりん……
遠く聞こえる、星の砂の崩れる音。
瞬いて振り向いた先に見えたのは]
……冬じゃないよ、今?
[>>2蒸し焼きになりそうな少年に目を丸くした*]
[並木道を抜け、畑に囲まれた道へ。そこまで来るとようやく少年は上着を脱いだ]
ぷはー。生き返るぅ。
[道の端にある、動物とも、人間ともとれない形の道祖神に手を合わせこの夏何度も呟いた言葉を繰り返す]
―神様どうかあいつらを、この世界から消し去ってくださいっ!
[少し歩くと可愛らしい建物が見えてくる。扉を開くと冷たいクーラーの風に寝そうになる]
ふおぉ。えーと、何だっけ。
「こーひーぼーる」、まだある?
[お店の中には、見知った顔があったかもしれない*]
──あっつ……。
[右、左、右。並木道に繋がる階段の最上段を、丁度右足で踏み締める。12段。
折りたたみイーゼルに30号ほどのキャンバスが入ったカーテン…もとい、手製のバッグを肩に引っ掛け、手には筆洗い油入りのアルミ缶、筆と絵の具が限界まで詰まった工具箱が握られている]
…太陽、爆発しろ……いや、したらあかん…。
[えっちらほっちら、荷物を揺らしながら真っ直ぐに木陰を作る木の根元へ。
ついた途端乱暴に荷物共々腰を落し、深々と溜息をついた]
[向かい側のベンチでは、少女たちが談笑していた。
眉を寄せぐっと目を凝らすと、片側の少女には見覚えがある。
高校時代の部活の後輩だ。名は、確か──]
トリヤマ……じゃねぇな、小鳥。小鳥川!*
[店の奥から、不意に怒鳴り声]
こらァ バク !
[厨房から顔を出すのは、この店の雇われ料理人]
勝手に漁ンな っていつも言ってんでしょ! !!
其処らじゅう ベタベタ触ってたら
うちのオーナーが…
[云いながら、小姐は大股で店内へ歩み来る。
眦の切れ上がった双眸は、バクを軽く睨んで。
それから、
オーナーと呼んだ相手――ンガムラを見遣る。
さしたる混雑もなかったランチタイム後の、小休止。
小姐の両手にはひとつずつ、熱々の小さな*蒸籠*]
[>>9青いパステルで描いていた『扉』の絵から顔を上げる]
ライデン先輩どうしてこんなところに。
あはは、さてはもう大学がイヤになっちゃいました?
でも「こーひーぼーる」だなんて、アナタ誰から聞いたの?
[グラスを扱う手にはハンカチ。
お供えと聞けば先代から譲り受けたレシピ、ぴらぴら捲る手を止めて]
お供え、もうそんな時期か。
そう言えばおねぎちゃんがトリュフチョコ、美味しそうに食べてたわあ。
ま、あの人が美味しくなさそうに食べてるところなんて見たことないけどね。
[店の奥から響く声にびくりとしたら、注いでいた炭酸がグラスから溢れた。
慌てて布巾をかき集める]
え、あら、だ、大丈夫よ。
慣れたもの、指紋のふたつやひとつや……ええと。
[パオリンと合わせた目は多分動揺ありありとしていて。ただ両手に持っている食べ物を見れば]
アナタも美味しそうに食べるわよねえ。
[感心したように言った]
寄る年波には勝てません。
ってネギヤさんよく言ってるやつですか?
[>>16ライデンに、にやにや]
文化祭用に絵本描いてるんです。
[青だけで描かれているスケッチブックをぱらぱらとめくる]
[小姐はレンゲに小籠包をのせて、
あつあつの肉汁をちゅっと啜る。]
、、 、…
んん 〜〜〜 っ
[口の中をヤケドしそうな其れを飲み込むと
眦の切れ上がった双眸は満足気に閉じる。]
おいしいっ。
心配しなさんなって、バク坊。
お供えものはとびっきりのを作ったげる!
…これ食べたらねっ?
[思いっきり客を後回しにした。]
せっかくお祭なんだから、浴衣着てヨーヨー掬ってわたあめ食べて射的してりんごあめ食べて星のお菓子交換したりしたいじゃん。
[ライデンと距離を置くニキに首傾げ]
あ、ニキちゃんです。
こちら美術部の先輩だった、ライデン先輩。
[>>24ライデンの腕の動きに一度肩をすくめたが、小さく笑いながらスケッチブックを差し出す]
打たれ弱いので酷評はやめてくださいね。
星が降る村のお話です。
流れ星に乗って宇宙からやってきたうさぎ型の生き物が、みんなの願いを叶えてくれるんです。
でもそれには代償が必要だったとわかって―ー……以下つづく。
うん、ヨーヨーすくいも綿あめも
射的もりんごあめもカラーひよこも
イカ焼きも星のお菓子の交換も楽しみだけどさ。
[浴衣はニキの「楽しみ」に入っていないようだ]
は、はじめまして!吉岡仁希です!
[ミナツの紹介を聞いてあわあわと挨拶をし、視線を合わせず頭を下げた]
[そこでライデンのバッグにあるキャンバスが
僅かに覗いているのに気付く]
[その色に、目を奪われる]
おねぎさんか、なるほど?
[バクの答えに目を細めると、綺麗に拭き直したグラスをカウンターに置いて……コースターの向きもきちっとまっすぐに置いて、どうぞーと手で示し]
キノコのチョコ? あらん、アタシ食べたこと無いわ? ……の山のなら美味しいんじゃない?
おねぎさんなら……あら、そういえば遅いわねえ。
[忘れっぽい男はようやく来店の約束思い出し、腕時計を見る。しかし腕時計は止まっている!]
[バクの悪態をよそに、健啖ぶりを発揮して――]
[やがて、ほうと吐息ひとつ]
…
オーナー、知らないの?
[ふと静まり返った瞬間に、ぽつり]
[眦の切れ上がった双眸が、くりくりと動く。]
ネギヤさん いなくなっちゃったんですよ?
[ミナツの描く絵本の話を聞きながら]
へえ、ロマンチック……と思わせといて
シビアな内容だね。
だけど星が降る村って、ここがモデル?
昔隕石も落ちたみたいだし。
みんな知ってるのに
誰も 何も 言わないんですよ
[小姐の唇は微笑むかたち。
指先が一度、喉から下へ辿る。]
… 腑に 落ちない。
[声は微か 言葉通りに*震えた*。]
おねぎさんが?
[くりくり動く双眸に、ぱちりと瞬きを返す。
小さな嫌みに言い返すのも、食べ物に向けられる情熱にも、後回しにされるお供えさえも、つっこむ間がなく]
腑に……確かにそうだけれど。
え、それじゃ……
[布巾を持つ手が、忙しなくカウンターを拭く。
震える声に、問うような視線をバクにも向けて]
今晩のお料理のお代、誰が払ってくれるの!?
[心配するところを*間違えた*]