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[医局に戻ると、昨日現場にいた先輩医師に深く謝罪した。
『良く眠れたか』との問いに二つ返事を返す。
念の為と簡単に診察もと言われたが、それは丁寧に遠慮した。
壊れたものを治せないもの は
壊れるまで 壊れたものに尽くすだけ
職務や使命などという綺麗なものの為ではない、ただ流れるままに――職務へ戻った]
午前:無菌室前
[幾つかの回診を終え、無菌室前へ辿り着く。
殺菌室で殺菌を追え、マスクを着用した。]
鎌田さん、鎌田、小春さん。
入るよ。
[扉前から声を掛け反応を待つ。
医師の背後には鎌田担当の看護師もついていた。]
/*
とりあえずこれで全員と絡めたかな?
コア的に偏りもできてしまったけど、動ける位置を生かせることが出来てとりあえず安堵な僕です。
田中さんて甘い物禁止令が出てる患者さんだったんだよね…
どうせなら「それを解った上で」チョコを渡すべきだったな、と後悔。
そんなに死にたいのなら、死ねばいいよ。
そのかわり、僕が治せなくても僕の責任じゃないから。
↑今こんな心境、だと思う
勿論、割り切れていない面も多々あり。
[か細く伝う反応を耳に、隔離された病室の扉を開く。
看護師と共に室内へ入り、患者の横たわる寝台へと近づいた。]
おはよう。
僕は結城と言います。今日は僕が診させて貰うね。
[恐らく常と同じように微笑んだ筈だけれど、笑みをみせることは無く。
けれど怒っているようにも見えないだろう、無表情のままに彼女の頬へと触れ、口腔から診ていこうと。
鎌田の顔色は余り、良くないように見えた。]
どうかな、身体の調子は。
[喉を確認し、聴診器を取り出し手早く心音を確認。
『良くない』らしき事を仕草で知る。矢張り、余り芳しくは無いようだ。
最後に脈拍を測ってから、傍らの椅子を引き寄せ腰を下ろす]
何処か痛かったりするかな…?
それとも、……そうだな、何か悩み、とか。
[後者の質問は病気の進行、恐らくそれが目下の不安であろうと予測の上であったけれど。話す事で気が紛れるかもしれない、と。
ふと、視界の端に珍しいものを見つけ、其方に気を惹かれる。
寄せ書きのされたバレーボール、飾られているのならそれを、暫し見つめて]
[数値では解らぬ病気の進行もある、寧ろ、鎌田はそれの方が多い年頃だろう。
困惑の表情を横目に、文字いっぱいのバレーボールを暫し、見つめる。
これがここに存在するだけで、詳細を得ずとも鎌田の望む未来が解るような気がして、微か双眸を細め眩しそうに鎌田を見つめる。]
バレーボール、だね。
激しい運動だから、……復帰は難しいかもしれない、けれど。
部活で出来た人との繋がり、大切にした方がいい。
大事だと思っているからこそ、こうしてこれを届けてくれたのだろうし、ね。
[復帰を望んでいるであろう彼女に対し、非情な一言だっただろう。
けれど可能性を完全に立たれた時、絶望するのならそれまでだ、とも思った。
他の楽しみを見つけて欲しい、とも感じ、]
絵を描いたり、とか。どうかな。
バレーボール以外の何かが、見つかるかもしれないよ。
[脳裏に描いたのはあの、色鮮やかな抽象画だった。
それだけを告げ、看護師を残して部屋を後にする。
突然の復帰不可能宣言に対し、看護師がきっと、彼女に親身になってフォローしてくれる、だろう。]
[誰しもが、『何か欠けている』ものが存在する、又は正体が掴めず困惑する中、己はなにひとつ感じていなかった。
死者が最後に願わずとも、笑える、微笑むことの出来ぬ欠けた精神状態だったからかもしれない。
一度センターへ戻り回診の続きへと戻る。途中、5階のあの一角で歩みが停止した。
けれど、今はもう――、爪先は3階へ、一糸の戸惑いなく進んでいく。
対峙したのは303号室の前、予定より少し押してしまったか。太陽が天辺へ昇る頃、その病室を訪れた。]
後藤くん、入るよ。
[昨夜一度、危険な状態にあったと看護師より説明を受けた。脳裏へと置き、その扉を開こうとし]
午後:屋上
[後藤の回診を終えた後、午後は非番となっていた。
自宅での静養を勧められたけれど、部屋でひとりになる方が余計に考え込んでしまいそうだった。
溜まりに溜まった書類整理を言い訳に、病院へ残る事にした。]
―――…、……さて、と、
[ここで良く、平家が煙草を吸っていた事を思い出し今日は一箱、煙草を購入していた。
大学の頃、父に見つからぬよう吸っていた煙草は、この病院に赴任してからきっぱりと止めた。
数年振りに吸ってみようと思ったのは……、止められても尚、止めなかったあの女性の姿を思い出したからだった。]
[一本唇へと食み、先端に火を点ける。
ゆっくりと煙を吸い込み、空へと薄煙を吐き出した。
決して、美味しいものではない。
幸福感を得られる時なんて、ほんの僅かな筈だ。
それでも。
それでも。
止められない者も居る。]
……はは、苦いや。
[ふと視線を落とした先、階下にお茶を楽しむ少女の姿を見つけた。
視線が合えば煙草を挟んだ手を隠し、空き手で手を振った事だろう。
暫しそうして、紫煙を*纏う*]
[白筒に積もる灰を、手にした灰皿へと落とす。
――灰色。
世界から色が奪われたのは、何時からのことだっただろう。
赤色が、好きだった。
かつてヒーローは皆、リーダーが赤色だったからだ。
けれど赤色の服を選んだ時、父に叱られた。
『それは、血の色だ』と。
『医者は赤を選んではいけない』と。
僕の未来は既に、決定していた。
それでもまだ、少なくとも子供の頃は。
いくつもの夢を持っていた気がする。
鮮やかな世界の色と共に。
立ち昇る紫煙へと焦点を合わせ、ぼんやりと思考を巡らせながら、摘んだ白筒の先端を赤く焦がしていった。]
[短くなったフィルタを携帯灰皿へと詰め、仕事に戻ろうと階下を目指す。
自分の不甲斐無さに、無力さに絶望するのはもう少し先の事。
今はただ静かに夜を迎え――患者たちの容態の急変に、奔走する事になるのだろう。]
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