―回想・コンビニ前―
[キラキラと照明の光を受けて輝くビー玉。
その向こうに見える姿はただの1人きり。]
あれ…上原さん……。
[携帯電話を開いて画面が見えるところまで降ろす。
そうすれば、コンビニの中に2人の人間が見える。]
…………。
[送信ボックスからメール画面を開く。
1通の送信済みのメール。
昨日、別の人物の名前で送信したもの。
それを再び開いて編集を始める。]
[あの男の名前は知らない。
けれど、ミナツから送られた名前で残っているもの。
これしか、あの男に当てはまる名前はなかった。]
……送信完了…。
[他の3人にも。
きっとあの男のことを死者だと言えば。
同じようにメールを書いて送信してくれるだろう。
けれど、それは信じてもらえるだろうか。
ましてや、視界に映っている光景は。
それを否定しかしないものであり。]
馬鹿っじゃないの…。
[そう呟いたのは。
コンビニの2人に対してか。
それとも、自分に対してだったのか。]
[ぼんやりと、雪が降る中見ていると。
2人から声をかけられた。
苦笑いを浮かべ、後から行くと告げる。]
あー…でも、その喫茶店の場所知らないや…。
[携帯電話で調べればいいのかもしれないが。
そんなことに頭は回らなかった。
あの死者の男も一緒だったのも断った理由なのだが。
彼が死者なのだとして。
世界の時間を止めてまで願った思いは。]
………………。
[叶うことはないのだろうか。
けれど、自分の時間を取り戻すためには。
男の願いを聞き入れるわけにもいかないのかもしれない。
これは生者の驕りでしかないのだろうか。]
―藍住中央公園―
[公園の中心、ブランコに腰掛けて空を見上げる。
昇っていく、雪。
あるべき場所に還るのだろうか。
それとも、また来るべき時間に備えているのだろうか。]
馬鹿、は…私か…。
[ミナツという少女と、国本が一緒にいなかったことを考えると。
彼はきっと消えたのだろう。
己のメールが原因の1つに違いない。
先程、それを感じて逃げ出したくなった。
そして、また。
自分は己のために、死者を空に還そうとしている。]
ねぇ、兄貴…これでいいのかなぁ…。
[空に向かうも。
雪と一緒に消えるのみ。]
[大切な人が消えた痛み。]
……死者は…どんな思いなんだろう…。
[けれど、それは自然の摂理であり。
けれど、そんな風に割り切れないのが人間の弱さであり。
だからこそ、好きだと思ったり。
だからこそ、愛おしいと思ったり。
失う痛みが胸から消えない。
それは死者も同じ。]
受け入れることが…大切…?
[ビー玉が風に揺れた。]
[携帯電話は11月2日を告げている。
雪は止んで、風とともに紅葉が頬を掠めた。]
もしもし…。
[震えた携帯電話。
その声の主は母親だった。]
大丈夫、もうすぐ帰るわ。
[安心したけれど。
そんな素振りは微塵も漏らさないよう。
電話の応対をする。]
何…?
[電話の向こうの言葉に笑みを零す。]
[強い風が吹いて、ふと後ろを振り返った。]
………………。
["どうしたの?"なんて声が聞こえてくる。]
――――――ううん、何でもない。
もう切るわよ。
[プツリと音を立て切れる電話。
振り返った先、紅い葉がその身を降らせていくだけ。]
兄貴がいる、なんて…。
そんな都合のいいことあるわけないわよね。
あの馬鹿兄貴に限って、さ。
[家路へと向かうその手に握られた携帯電話。
2つのビー玉は落ち葉の紅を映し出す。
風が吹けば、ゆらゆら揺れて。
何かを主張するよう、カチカチと小さな*音を立てた。*]