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[バーの扉は音もなく開く。
女の纏う香りを合図に、バーテンがコースターをとある席に置くのはいつものこと]
甘いのを、お願い
[細い指を頬にあて、唇は弧を描く。
つばの広い帽子を押さえ、窓の向こう、暗い通りに視線を投げる]
[表通りから一歩入った薄暗い道。
橙色の明りに照らされる窓辺に、嫣然と微笑む女が一人いた。
白い頬。黒い髪。赤い唇。
薄桃の帽子は、少女が被れば微笑ましいだろうに、この女にとっては、どこかその肉感的な印象を強めるにすぎず]
ありがとう
[仄かに白みがかったカクテルに口をつけ、濡れた唇を静かに*舐めた*]
あら
[カクテルグラスを静かに置いた。
見ない顔だ。そう思ったが、すぐに否定する。
今の見苦しい行動も、この親しげな表情も、このバーとセットで知っている]
ベッドに、
[綺麗に整えられた指先を男へと向ける]
来る?
[緩く首を傾げて、視線をグラスへと流した。
何を飲んでいるか、それが*答え*]
……それとも
貴方の誕生日までおあずけかしら
[見覚えのあるような、ないような。曖昧な記憶の男は、6月18日の男として上書きされた。
買われたことはない。それは断言できる]
私は……
[緩やかに波打つ髪を指先で弄び、俯きがちに視線を男の背後へと送る。
赤が滴る音はほどなく止み、片づけを終えたマスターがカウンターに向かう客へ、お詫びの一杯を差し出す声が聞こえた]
初雪の頃よ
……それ以上は
[まっすぐ立てた人差し指を、キスするように口元へ]
此処では、秘密
[目を細めて、笑みを*返した*]
ありがとう
[睦言になりきれない言葉には、意識して瞳を大きくさせて頷いた。白い頬に黒髪が揺れる]
貴方も綺麗な顔してるわ
男の人は、努力なく綺麗なんだもの
肌、とか
[紅を差した頬を、さきほど"秘密"を示した人差し指でつついて見せた]
["やはり"このバーは男の客が多い。
それはバーという形態故か、時間帯か、窓に女がいるという、この状況がそうさせているのか。
女から視線を逸らす前の、男の仕草。
よく見るものだ。
喉が渇いた時のそれは、何かを欲する時共通のもの。
手を伸ばせば手に入るのに。
勿論、お金があればだけれど]
[並べ立てられるいくうもの名前をよそに、再びカクテルグラスに口をつける。
酔うためでもなく、食事に来ているわけでもないから、カクテルの減る速度はとても遅い。
キャットテイルなんて可愛らしい、などと考えていたからか。
ウルフと聞こえた時には、思わず作っていたはずの笑みが濃くなった。声を出しはしないし、視線も向けなかったけれど]
……あら
[店の奥。暗い照明の光も届きにくい隅の席に、女が一人座っていた。
真黒な帽子に飾られた花は、首の俯きと同じくして、今にも落ちてしまいそうに見えた]
[また一口、カクテルを口に含む。
酔うほどは飲まない。そんな醜態は誰にも見せたことがない。
唇を舐めれば苦い紅の味がした。
グラスの縁を拭いながら、窓の外へと視線を投げ――]
……変わった客ね
[何かと目があった。
何かは、よくわからない。見えない。もしくは知らない。
ただじぃ、と此方を見つめる目に、ゆっくりと瞬きを数度して、微笑を返した]
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