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[かしましかったエレベーター内が、
見えた光景に しん と静まり返った。
黄色い錘だかテントだかとともに
居座るつもりらしいチカノの脇腹を
もういちどくすぐる構えをしていた
両手から力が抜け…ゆるりと降りる。]
[今しがたまで同じ空間に居たはずの
アンが漏らしたのと同じ驚愕が口をつく。]
えっ。
[扉が閉まる間際、アンの唇は
まだなにか動いていたようだったが――]
[それが『ま、まゆげコアラ。』なる呟きとは
驚きのあまり思考にとどまる余地もなかった。
ナオがコンソールをむなしく操作する音を
耳にしながら、手足が冷えてくるのを感じた**]
[痛そうではなかった。
苦しそうではなかった。
どちらかというと、いま此処にいる
友人たちのほうが――と考えかけて、
周囲の会話に意識を揺り戻される。]
…マシロ…
[内なる均衡を崩す態でチカノへ
言い募る友人の名をつぶやく。
先刻の八つ当たりへ置かれた謝罪には、
まだ応えていないまま。]
[それから、風変わりなチカノを見る。
生首だけであっても、生きていた
―ように見えた―アンがいたのに
凶悪な重量の錘を放り投げたことや、
何やら念入りな凝視をされたことや、
こと此処に至って『悪戯』やら
『趣味』なんてはじめに喩えたことや、]
[常は横紙破りを地で行く彼女が、
こんなときだけ遠回しな物言いで
"追い出す"とやらの行為を
ナオで試そうとしていることに、
ひどく、ひどく 理不尽を憶えて]
…もう、チカノさんたら。
もう、もう。
[肩前へ垂れているチカノのおさげを
左、右とぶって、背中側へ弾いた。]
[あやまってばかりの友人には、]
… "どちて坊や"は、
ひとを怒らせても、謝ったりしないのよ?
[疑問ばかり並べる相手に
呆れてみせるときのあだ名を
引き合いに出して答えた。
しらない世代はぐぐるといいんだ。]
う、埋まってただけ… は無いわよね。
[座り込んでいるワカバへ声をかける。]
何にしても、
ねえ、座ってちゃだめだわ、ワカバ。
[なぜかチカノに違うと確信される
らしきへ、首をかしげながらも
身を屈め、ワカバへ手を差し出す]
私は立てたから。
…あなたも立って。
[膝はまだ震えるけれど。
高いヒールの靴は履きこなせるから、
きっとワカバひとりなら支えられる*]
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