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魚なら焼いたのより煮たのがいいな。
[ぽろりと落ちた呟きも、この男にかかれば恰好の思考のタネ。
白ワイン煮がいいか、いやトマト煮込みもいい。
トマトジュースは嫌いだが、トマト煮込みは好物だ。]
うん、美味しそう。
[自分の中で話を完結させて、何度も納得して頷いた。
独り言に勝手に食いついたのだから、あまり積極的に返答は求めていない。
薄い水割りをくーっと上機嫌に飲み干して、いよいよ自分も酔ってしまう気でいる**]
[窓際の女が席を立ったから、少し視界が変わった。
羽音を確かめにいこうか、窓のほうへ視線をやれば、バーカウンターの影に隠れて女をひとり見過ごしていたことに気づく。]
やァ。
キミは鴉と、トマト煮込みとォ、どちらが好き?
[くすくすくす、と機嫌の良い笑いが止まらない。
比較対象がおかしくなっている事も、奥まった席の彼女の反応がひとつもないことも、さしたる問題ではない。
酒に酔うというのは、それほどに楽しいことだから**]
食べないのォ。美味しいのに。
[ゆらん、と意識が揺れるから、語尾もふらつく。
煮魚も悪くはない、と続いたのにはまた何度も頷くのだけど。]
あれだ、おにーさんは割といい人だねェ。
ふふ。
[誕生日も聞けたし、杯も交わしてくれたし、それから煮魚も好き。
こんないい人も久しぶりだ。何度もこのバーに来ているのに、何故今までこの人と深く話したことがなかったんだろう。]
[誰かの女だったの、は首を振って否定した。
特定の女を作ってどうこう、とかいうのは、近頃あまりやっていない。
苦いような変なにおい。これが血のにおいだとはっきり認識するには、経験が足りないが。]
だいじょうぶ?
[座り込んでしまった方の女に、声をかけながら立ち上がる。
さっき一気に水割りを呷ったせいなのか、逆にこちらの足がもつれかけて、たたらを踏んだのが見られていなければいい。
結構はっきりとバランスを崩したので、難しいかもしれない。
11月3日氏が面々を見聞するのと目が合えば、へらり笑った。]
[差し出された手。大丈夫かと声をかけて立ったのだから、その手をとるのは当然のこと。
ただ、酔っ払いの差し出す手。心強さまでは、保証できない。]
そうだなァ。
ちょっと、否定はできないかもォ。
[飲みすぎた、には力なくそう言う。
それにしてもアルコールというやつは安上がりだ。こんなに簡単に、たった一杯で、世界を変えてくれる。]
ねェ。
あの人、どうしちゃったの。
[あの人、と影の女を指す。その姿を見て脱力した女へ、全く遠慮はしない。
床面に広がっている赤を見て、ようやくこの生臭さが血液だと理解した。
どうにも、トマトジュースではなさそうだったから**]
面倒? そんなに近い知り合いだったっけェ?
[誰かが死んで面倒なのって、知り合いとか家族とか、そういうものだと思っている。
ここにいるのは"常連"だけれど、それが"死ぬ"ことそのものがどれだけのことだというのだろう。]
悪い人の方は、楽しそう。
つまり、こう、悪い人はァ、おねーさんが死んでよかったってことだしィ、悪い人が殺したの?
[名推理と言わんばかり。
叩きつけられたグラス、外に行こうとする背中に、びしと指さした。]
[振り返る男。ゆっくりとした動きは、スローモーションを見ているようで面白い。
交わったままの視線をずっと見返しながら、問いには軽く首を傾ぐ。]
あら、ボク? 名乗ったことなかったかしらン。
[わざとらしく女々しい声を作って、男の動向を待つ。
胸倉を掴まれれば、きゃら、と高い笑い声が零れた。
これに怖気づくような神経は、残念ながら持ち合わせがない。]
掴んだらァ、答えにくいよォ?
名前だったらレイヨ、姓ならサリヤルヴィ。
お兄さんはァ?
[問い返すけれど、その答えを聞けたか否か放り出される。
喋ってる時に投げられたから、舌噛んだ。]
痛ったい、なァ……
[べ、と舌出して指で触れてみる。赤いもので汚れた。
口の中は変に苦い。]
噛み切ったじゃん、らんぼーもの。
[立ち上がるのすら、足元のぬめりに手こずる。
せっかく今日は白着てきたのに、台無し。]
あ、それとも今度はボクを殺す気だったりしてね。
やだなァ、あ、いや、別にいンだけどォ。
一方的なのって、好きじゃないし、なァ。
[壁に体を預けて立ちながら、ひとり。
バーを出ていくものが多い。当然か、こんなところに長くいるのなんて正気の沙汰じゃない。
ウルフと、女の背を目で追いながら、けらけらけら、楽しげな笑い声。]
口は災いの元、なんだってさーァ。
ボクは口以外もなんだって災いの元にできるけどねェー。
[マスターのいなくなったバーカウンターの中まで進み出て、酒瓶をがしゃがしゃ漁る。]
アルコール、消毒ゥ〜♪
[鼻歌は気軽なもの。]
てか、背中も結構痛いんだけど。
容赦ないなァ、やな感じィ。
眼鏡曲がってないかしらン。
[酒瓶をひとつ手にとっては、匂いをかぐ。
きついアルコール臭に、時々くらりとした。]
ねェ、"いい人"サン。
誰かのこと、殺してみたいって思ったこと、ある?
[問うだけ問いかけて、無臭無色透明の酒を一気に呷り。
――呷って、そして、喉の灼けるのに盛大に噎せた。]
うぇ、げほッ、げェほ、ぇふっ、
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