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女神に、……なった?
[結城が零した言葉に、僅かに首を傾けるようにして、疑問符の形の復唱を零した。単に絵や彼女の人となりについての感想とは、何処か違う色を感じて。
彼女に何かあったのだろうか。何か――思案し想像したが、それを口に出す事はしなかった]
そうですね。
そう。とても、色取り取りに……
見えます。
そして、…… いえ。見えます。
[代わりに続く問いかけに答える。そして。そう言った時には、視線はキャンバスの中央、シルエットの人間に向いたようだったか。続け様、周囲に点在するイーゼルを、壁の紙達を、見やり]
[ふと結城が口にした、前日の話に続く言葉に、男は其方へ顔を向けた。帽子をほんの僅かだけ上げ]
……
怖いものから、逃れる、方法。
それは、一体?
[先を促すように、問いかけた]
……、何も感じなければ。
灰色の世界で。
何にも執着する事なく。
[結城が紡ぐ言葉を復唱するように呟く。目の前の人物は、何を恐れているのか。その恐れは、己の恐れとどれ程重なるものなのかと、考えながら]
……そう出来たら。
そうですね。
それはきっと、救われるのでしょうね。
[何も感じないようになれたのなら。
執着を失えたのなら。
そうして、]
……
[一たび沈黙し、結城を一層見据える。立体視でもするかのように焦点を揺らし、それ以上に、意識を撓めていく。努めてそうすると、ふと、結城が色を――鮮やかなそれを失ったかのように、見えた。
周囲と共に灰色になったかのように、見えた。
そして、]
――っ、
[息を、呑んだ。
その面が歪み、笑う唇が、赤く染まったように、見えて。いつも描く人間のように。笑みが歪んだかのように、見えて]
ち、がう。
違うと、思っていたのに。違う?
違わない、んですか。
やっぱり、貴方だって、……
[男は、掠れた声で、唐突な、支離滅裂なような言葉を零した。がたり。背凭れの付いた椅子が揺れる。椅子から滑り落ちるように、男は床に尻をついた。傍らに椅子が倒れ、大きな音を立て]
……貴方だって、あいつらと同じで……
貴方だって、あいつらで。
やっぱり、皆、あいつらなのかもしれない。
皆、そうなのかもしれない。
[ぶつぶつと呟きながら、両手で帽子の唾を押さえ込むように掴み握る。背中を支える手を離そうとするように、身を捩り、片方しか動かない足で後退ろうとし]
……やめろ。
来るな。
俺を、見るな。
[震える声で零し、俯きながら顔を覆った。男は明らかに平常ではない、極度の興奮状態にあった]
[――「笑うな」
そう紡いだ言葉は――音にはならず]
[頬を叩かれれば、男は一たび動きを止め、眼前の姿を見据えるようにした。少しくずれ傾いたサングラスを、震える指先で押し上げ]
―― ……俺、は。
私は……
[ぽつり、ぽつり、呟いて]
……、
何、でも……何でも、ないんです。
何でもないから。気が付かなかったから。
私は、気が付いていませんから。
気が付かなければ。平穏なんです。
あいつらは思い込むのを看過するくらいはしてくれる。
[呟きながら少しく床を這い、ベッドに這い上がろうとした。結城がそれを助力しようとしたなら、再度拒みはしなかっただろう。
彼の事を恐れるような気配を残してはいながらも]
[ベッドの上に登り、男は改めて結城の方に顔を向けた。すみません、とも、有難う、とも、それらの言葉が頭を過ぎってはいても、口にする事までは出来ず]
…… 空が。
空が綺麗な日だったら……
今度こそ、大丈夫な気が、するんです。……
[代わりに、そう、二言三言の言葉を紡いだ。外に出ようとするのを、引き止めはせず]
[また。その響きを脳髄に巡らせながら、結城の背を見送った。それから男は夕食の時間が来るまでただベッドに座り続けていた。夕食は半分も食べずに終えられた。消灯より早く、男はシーツに潜り]
…… げ、ないと、……
[呟き、震えながら――
やがて、眠りへと落ちていった]
[朝が来て、大きな虹が出ても。常にカーテンを閉めた部屋からでは、それを目にする事はなく。ただ、朝食を運んだ看護師が話題に出したのを耳にした]
『今日は、いい天気ですよ』
[看護師は、そう言って*笑っていた*]
[朝食から少々の時が経って。男は徐にカーテンを開いた。男が自ずからこの部屋のカーテンを開くのは、初めてと言ってもいい程、珍しい事だった。その時には、虹はもう浮かんでいなかったが]
……
[青い、何処までも青く澄み渡った空に。
男はサングラスの下で目を細めた]
……?
[ふと聞こえたノックの音と声に、扉の方に顔を向けた]
どうぞ。
[そして室内へ誘う言葉をかけた。扉が開き、少女が姿を見せたなら、男は瞬いた。無論、その顔の動きは相手には見えないのだったが。
奈緒というその少女と、男は以前話した事があった。いつだったか、退院したと話に聞いていたが]
今日は。
[ともあれ、そう挨拶し]
[何かしら困った風の奈緒の様子に、どうかしたのかと訊ねようとした、が、それよりも彼女がそれを取り出す方が早かった。
それに反射した日光が、男の顔を照らす。男を見据えていたのなら、サングラスの下、切れ長な目が一瞬だけ窺えたかもしれない。
男はすぐに帽子の鍔をより深く下げ]
……
時計?
壊れたのかい。……
[改めてそれを、壊れた腕時計を見やった。ベッドの縁に腰掛けたまま、掌を伸ばし]
[落ちていた、と語る少女。その口振りから、時計が彼女自身の物ではないらしい事が知れた。ならば誰の物なのか、それを確認する事はなく]
……そうだね、……
[近付いてきた奈緒に、その手に持たれた時計を眺め]
完全には、無理だけど。
そこそこに、くらいなら。
[そうぽつりと返事をした。自信がある、という程の術は持たないが、この手の物を弄った事は何度かあった]
痛そう。
そうだね。痛いのかもしれない。
痛いのかな。……そうかもしれない。
[呟くように言いつつ、更に手を伸ばす。ハンカチごと腕時計を差し出されれば、す、とそれを受け取り]
……じゃあ。
そうだな、……
また、夕方にでも。来てくれたら。
いや。明日でも、いいけれどね。
ちゃんと、置いておくから。
[考える気配を挟みつつ、そう続けた]
誰かは。
気にしているんじゃないかな。
[誰か、とは、落とした人物を指して。
受け取った時計を改めて見る。問いかけられれば、顔を上げて其方に向け]
いや。見ていないよ。
出た、と。
話には、聞いたけど…… 見ては、いない。
[窓の外の青を一瞥しつつ、首を振り]
虹。
虹は、綺麗だね。不安になるくらい綺麗だ。
私も、長い間見ていないよ。
[一片は独り言のように言ってから、続く言葉に頷き]
うん。じゃあ。
さようなら。
[また、と言う代わりにそう挨拶を返し――
小さく手を振って、奈緒が去っていくのを見送った。
その姿が見えなくなれば、時計を*見据え*]
[割れた文字盤、其処に生じた皹に、表面が剥げた部分に、細筆でそっと色を乗せていく。そうして乾かせば、瑕疵はほとんど目立たなくなった。
それからピンセットと接着剤とで、一つ一つ、砕けた硝子の欠片を嵌め合わせていく。パズルを解くかのように、少しずつ。
硝子は色で補うというわけにはいかず、そもそも失われてしまっていた欠片もあり、小さな穴や皹がはっきりと残る事になったが、ともあれ形にはなった]
……
[作業を終えた頃には、昼下がりになっていた。おやつどき程の時間だったが、特別菓子などを食べたい気分ではなく。男はキャンバスに向かった]
[男はキャンバスに色を乗せていった。
幾つも幾つも、いつものように極彩色に。
これもいつものように、目のない笑った人間を、白の絵の具で中央に描き――]
[――黒色で、塗り潰した]
[人型の内を埋めるわけでもなく。筆記具でそのの書き損じを葬るように、ぐしゃぐしゃと]
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