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泣いてな……
[ない、と言い終る前に、急に闇が濃さを増した。
声すら発せず、咄嗟に、目の前のコウイチのシャツの裾に手を伸ばす]
[夜出歩いていたことを、後悔しても遅かった]
[心臓の音が聞こえる。
あまりに速すぎて、それすら気分が悪い]
[目を動かして再度確認するが、やはり一人足りなかった]
[大丈夫、と声が聞こえる。
コウイチの顔を横目に見ると同時に、手を離していた]
だいじょうぶって、何が。
[手紙のことを思い出す]
予告じゃなかったんだ……。
人の気も知らないで。
[また、同じ言葉を繰り返す。
そればかりなのだ]
コハル、バスだから。
ちゃんとお金もってね。
[タカハルに、まるで『君は財布を持ってなさそうだ』と言うような物言い]
先輩、あの……。
[ナオに顔を向ける。
一息飲んで、左手に少し力を入れた]
ごめんなさい。
私、あの手紙すごく気味悪くて。
先輩のことまで、変な風に、見ちゃって。
[シャツを握り締める左腕を突っぱねるように伸ばしていたが、しばらく歩くとパッと離した]
ありがとう。
ごめん。
[言葉が足りていないのは重々承知だった。
けれど、それ以上口は動かない。
口を一文字に結んで、歩くスピードを増した]
[いつまでも手には汗が滲みつづけ、心臓はいまだに音を響かせている。
かみさまの戯れの夢な気がしてきた。
すると、すこし泣きたくなった。けれど、こらえた]
無神経って、何で……?
[ため息がこぼれそうになる。
多分、言葉を選ぶのは簡単で、それを発することだけが困難なのだ]
おやすみなさい、ありがとう、気をつけて。
[家の前で一礼する。結局、顔は1度も見れず俯いたまま]
[玄関で、スニーカーの紐を緩め脱ぎ捨てる。
グラウンドの砂のにおいが、ふっと鼻をかすめた]
こわい。
[今日一日の記憶が、瞬く間に*乱雑に蘇っていく*]
[夏休み二日目。
クルミは、学生生活初のサボりを決行した]
[セイジが出入りしていたという噂を聞き、ジャズバーとやらに近寄ってはみたものの、昼間のそこは人影もなく]
ダメだこりゃ。
[足は惹かれるように学校へと向かう。
他に行き場もなかった。
校庭から姿を見られぬよう、こそこそと校舎内に踏み行った。
胸には罪悪感が満ちている]
誰もいない。OK。
[アンとセイジの共通項、肝試し。
3年教室の机にチラシはないかと*探しはじめた*]
[辛うじて見つけた1枚のチラシを手に、3年教室を後にする。
日程しか書いてないそれが手がかりになるとも思えなかったが]
[さてどうしようか、と思った所で、人影を見つけた]
――コウイチ君?
[教室の入口から声をかけた]
昨日、夢じゃないよね?
[手にしているチラシを一瞥し、近づいて差し出す]
アンと、あの先輩、これに参加してたって言ってた。
終業式の晩、ってしか書いてないけど。
こっくりさんでもやったのかな。
『まだ』?
え、っと。私が……?
[からっぽになった両手を組んで、指先にぎゅっと力をこめる。
コウイチの表情を伺おうとするが、よく見えなかった]
もし、どこかに連れていかれてるなら、そこから戻れるようにしてあげたい。
でも、どうしたらいいのかわかんない。
[俯きかけたまま、コウイチを見据えて]
怒ってるの?
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