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―全てが終わった後―
[あの後>>5:115、まるで魂が抜けたかのようにぼうっとしていたニルスはあまり働かない残りの思考を巡らせ、この場所には自身以外の生存者が居ることを思い出した。
そしてそれだけ把握すれば当初は通じる事がなかったコテージの通信機器を使い、何とか繋がるのを確認すれば救急を呼ぶ。
自身が肩を刺したユノラフの傷は深かろうとも致命傷ではなかった筈だが、このまま何も無かった事のようにコテージを一人後にするのも、この時は何故か気が引けた。
そして被っていた帽子をクレストの部屋でユノラフと取っ組みあった時に落としたのを思い出せば、それを取りに部屋に戻った際にそこに居たマティアスに救急を呼んだことを簡潔に伝えた]
[意識を失ったであろう床に倒れているユノラフを見つければ、彼を馬鹿にするというよりも自嘲めいた笑みで言う]
……本当に、馬鹿な男だよ。
[その呟きは近くに居たマティアスには聞こえただろうか。床から拾った帽子の埃を払えば、それをいつもの様に被りニルスは部屋を出て、コテージからも出て行った。
―――馬の嘶きが聴こえる。
山中で出会えば挨拶を交わしていたあの長閑な養蜂家ももう居ない。
救急が来れば、この馬も誰かが連れて行くだろうとニルスは一人、その場を*後にした*]
―自宅―
[普段は滅多に鳴ることのないチャイムが鳴れば、いつもの様に自室に篭り標本を作っていたニルスがふと顔を上げる。
宅配など何も頼んだ覚えはないが、と不思議に思いながらも玄関先まで行けば]
……ユノラフ。
[まだ痛々しく見える左腕をさげて、その男は何故かここへ来た。
あまりにも唐突の出来事で、どんな顔をすればいいのか分からない。
あの時の仇打ちか?それとも左腕の慰謝料でも請求しに来たのだろうか。
考えだけは巡るものの口からは皮肉の言葉など一切も出てこなかった。
そう黙り込んでいると、男から紡がれた言葉は予想外のもの>>26]
…そうか。
わざわざ此処までご苦労だったね。
[出るのは力無い労わりの言葉。
すると、村を出る際に写真を整理していたと言う男から一枚の古写真を手渡される。
写真を見ればピントは合っておらず随分と昔の物のようで、しっかりと見なければ何が写っているのか分からなかったが、見覚えのある黒髪と笑顔にニルスの思考は一瞬だけ止まった]
これ、は………。
[夏至祭が大好きで花冠を被り少女のように微笑む母と、まだ幼い笑みを浮かべる自分の姿。
そして写真家の男は言葉を続ける>>27。
そういえば確か彼は幼い頃からカメラを手に持ち、あらゆるものを撮り歩いていた。
その写真の中の光景はつい最近撮ったかのようで、まるで………母が今も生きているかのように思えて]
…っ、
[じわり、何か熱いものが瞳の奥から込み上げてくる。
あの日流したものとは違う、別のもの。
声を殺し、帽子のつばを引き下げ目深に被り直しては顔を俯かせたが、そのせいでぽたりと地面に落ち染みを作らせた粒に写真家の男が気付いたかどうかは知らない。
握り潰さないように胸に写真を押さえ持てば、男はこの写真をやると言ってくる>>28。
写真ごと押し返してやろうと思ったのに、この気持ちと動かない手は一体何だ。
ニルスが何も言えずにただ静かに涙を流していれば、男は別れを告げひらりと手を軽く振って去って行った。
残されたニルスは一人呟く。
庭先では、美しいアゲハ蝶が男を見送るようにひらりひらりと*舞っていた*]
………ありがとう、ユノラフ。
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