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[診察に戻れば、そこまで専門的な知識はなくともなんとか診察をこなしていく。]
『先生、これうちで作った奴だから
双葉ちゃんと一緒に食うてくれ。』
わ。
いいんですか?
[陶器の入れ物には、この村ならではの伝統料理が入れられていた。それを受け取れば、笑みを向けながら感謝を伝えた。**]
そろそろ支度しなきゃかなー。
[診療の終えた老人たちを待合室に置いたまま、診察室の前に
『急用があれば一声掛けてください』
と、張り紙をして一旦仕事に区切りをつける。
診療所の奥を抜けると扉ひとつで自宅へと辿り着く。
そこには娘の姿もあり、円卓の上で絵を書いて遊んでいた。]
暑いね。
お水たまに飲むんだよー。
[甕から細長い容器へと移していた水を娘の前に置いておいた。
それから薄暗い貯蔵室へと向かい、小さな氷室の中から片手に乗る程度の肉塊を取り出した。すん、と鼻を鳴らして状態を確かめる。]
ん、 ―――― おいしそ。
[手に持った肉塊を台所へ置いてそこへ塩を軽く振った。]
あ、ダンちゃんだ。
双葉、裏の扉開けてあげて。
[うん、とフタバは頷いてから絵を書いていた手を止め立ち上がり とてて、と裏口へ向かう。]
『……。』
[扉を開く小さな少女は無言でダンケを迎えた。]
[フタバは頭を撫でられると照れ隠しのように俯きがちになり、肩ほどまで伸びた髪をいじっていた。]
ダンちゃん、いらっしゃぁい。
わわ、そんなに沢山ありがとー。
今からご飯作るから双葉と遊んでてくれるかなー?
あ、それと
ダンちゃん、心臓嫌いだったりしない?
[それは勿論人間のもの。1人の人間から1つしかない貴重な臓器、それ故に食べる機会は少ないかもしれないが医師という立場からか彼女の家に来ればそのような臓器が食べれることは稀ではなくなる。]
ん、ありがと。
[木箱の中からキャベツや玉葱など取り出しつつ、ダンケにほにゃりと笑顔を向けた。
台所へ戻れば規則正しいトントントンという音が響き始める。]
『ダンちゃん…、お絵かきする?』
[母親によく似た少女は笑みを向けてくれた相手に笑みを返した。その笑顔はどこか母親の面影に似る。]
ご飯できたよー。
[それから1時間もかからないうちに食事の支度は整う。炊き上がった米と、心臓と野菜の炒めもの、水菜と豆腐の味噌汁、ほうれん草のおひたし、胡瓜の漬物が並ぶ。ありふれたような家庭料理を円卓の食卓テーブルへと運びながら]
ほら、机の上はお片付けしましょうね。
[ダンケと共に絵を描く双葉はいつもよりはにこにことした顔で描いて、ダンケの描く絵を見ながら自分も負けじと必死に書いていた。]
『これはね、ダンちゃんだよ。
こっちは、いぬ。
……ダンちゃんのは ねこ??』
[画家と言われればいまいちピンとしない顔で見たけれど食事の支度が整えば、慣れたように片づけを始めた。]
はい、それじゃ
[机の上に食事が並べば両手を合わせ]
―――― いただきます。
よく病院に来てた…、ほら裏の通りのお婆ちゃんのだよ。この前亡くなったでしょ?
死んだら心臓は若葉先生に貰って欲しいって言ってくれたんだ。
お医者さんしてると、こういった事って結構あるんだよね。
[心臓の炒め物を食べるダンケや双葉にも教えるように淡々と語る。]
有りがたい事だよ。
[そう言い終えればこちらも食事へと手を伸ばし食べ始める。双葉はダンケの隣で行儀よく食事を進めていて―――やがて食べ終えれば]
『ごちそうさま。』
はい、ごちそうさま。
[自分の食器を流しへと戻る双葉は鞄の中から縦笛を握り]
『「さくら」練習…する。』
[2階の部屋へと1人で向かっていった。]
[双葉を見送れば、残った料理へと箸を伸ばす。
やがて食べ終えれば食器を流しへ運び洗いものを始めようとするが、その手が止まり]
―――…、 お婆ちゃん。
本当に …ほんと、元気だったのにね。
[ぽつりと零す言葉。
彼女の背は小さく、その肩は小さく震えた。]
[ややあって食器を洗う音が響き始める。
2階からは少し音が外れたさくらが聞こえる。
話しかけられなければ背を向けたまま作業し
自ら言葉を発する事はないだろう。
―――それから、食器を洗い終えれば
布巾で手を拭いながら食卓の方へと戻って来る。]
ダンちゃん、今晩はどうするの?
ん、…
[また来世でお婆ちゃんが、お爺ちゃんと一緒になりたいと笑っていたことが思い出されて 2つに結んだ髪を揺らして頷いた。
宿泊を申し出るダンケに]
うん、うちは全然構わないよ。
ダンちゃん居ると双葉もきっと喜ぶよ。
ご飯も多めに炊いたし、朝ご飯もご馳走するよ。
ポルテさん具合悪いから困ってる人多そう。
ダンちゃんとか。
[じっと見上げ、それからまたほにゃりと笑う。]
それじゃ、お布団とか準備するから手伝ってくれるかな?
おいしいご飯を食べて健康に過ごすことは大切だもの。
[寝室の押入れを開いて、ダンケには上の方にしまった布団を取ってもらうように頼んだ。]
…他?
んー、… あー… うーん
[枕やシーツをずるずる引っ張って設置しながら迷うような困ったような声を出す。]
それじゃあ、…
[敷いた布団の上にぺたんと座り、ダンケにぺこりと頭を下げる。
それは昔から変わらない若葉の夜の合図。7年前の時からも状況は違えど言った言葉は似通っていただろう。]
――― …お願いします。
[ふわりと髪を撫ぜられれば2つの影が重なる。
この村の年頃の男女の間ではよくある事。
2階から聞こえてくる笛の音が上から落ちてくる感覚。
けれどいつの間にか、その音色も遠くに聞こえ始めて
――― 白いシーツの上に皺が増ていく。**]
― 回想・8年前 ―
[周囲に急かされるまま子を成す事が女の務めだと言われればそれを素直に受け止めたけれど、1人だけではどうする事も出来ない問題だった。
当時は母も健在で教えられる事には素直に頷いた。それと同時に、母が不思議な事を教えてくれた。]
『 子供はすぐにできるもんやないんよ。
お月さんが一周したくらいになって
ようやっと教えてくれるもんなんや。 』
[それは教育をまともに受けてなくとも子を成した事がある女性ならば知ることが出来る知識。
ただ、それを聞いて 誰かと閨を共にしてからは他の誰かとはひと月の間は閨を共にしないようにするのが習慣となってしまっていた。]
[初めての相手は慣れた相手が良いと、中年の男性を母が連れて来たことは今でも覚えている。何も知らない身体はその日から、母と同じ医師を目指す おんなとなった。]
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