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アンコまで……。
[事態に素早く順応して、説明を始める光野とそれに答える安子が気にはなったけれど、今はそれよりも、現実の世界で交わされる言葉が*気になった*。]
[どこかでまた声が聞こえた気がして、鬼の面を被った青年に一歩、二歩近づいた。
その寂しい声が、鬼面の青年のものだとやっと*気づいたから*。]
神様だからとか、死ななきゃいけない決まりだからとかじゃなく、空彦くん見たものを信じて、したいことを出来たら良いのにね。
[そう呟いて、いつか子猫を撫でたのと同じように青年の頭を撫でた。
その手は勿論、現実の体をすり抜けてしまったけれど。]
みんなに傍に居て欲しい。
忘れて欲しくない。
消えたくない。
[だから、呼ぶのかもしれない。]
アンコがここに来たばかりの今なら、こちらとあちらの壁もきっと薄い。
[そう言いながら少しだけ不安げに、鳥居を見上げる。
何かを確認して、戻す視線は永嶋に。]
永嶋さんが望むなら、絶対に戻れる。
[一歩踏み出し、今度は両手で一度離した手をぎゅっと握った。
何かを念じるように目を閉じてから、その手を離す。]
[固いなにかが落ちる音に、あちらの世界を振り返る。
鞘に収められていたはずの短刀が、曇り空の下鈍く光っていた。]
先生、駄目だよ。
[聞こえないことなど忘れて叫んだ。
声が届かないのがもどかしい。
自分はここに居るのに。
雨の気配を漂わせ始めた空を見上げ、空彦を庇うように隣に駆け戻る。
聞こえる鬼の声(>>*5)は駄々をこねる子供のよう。
どうすれば良いかわからなくて、顔を歪めた。]
消えなくて、消さなくてもいいの。
消えちゃ駄目。
消えるくらいなら、
[そう言って、木刀を握る空彦の手を引く。
届かない筈の手が、温もりに触れた気がした。]
“こっちへおいで“
[そう囁いたのは誰だろう。
雨音が*聞こえる*。]
[起きたことはどうにもならない。
そう分かっていても、考えてしまうことがある。
例えば、声が聞こえることを、ここの世界があることを、もっと早く伝えていれば。
光野が、ネギヤが呼ばれていることを、伝えていれば。
今、石木先生と空彦が確信のないまま刃を握ることは無かったのかもしれない。
こちらの世界の言葉、神様の望むことを、ちゃんと聞いて伝えていたら、神様は、こちらの世界に皆を引き込まないでも、済んだだろうか。]
神様は、空彦くんのこと消えて欲しいなんて思ってないよ。
[神の使いなんて嘘だけれど。
神様の答えは聞いていないけれど、そう言った。]
神隠しは、消してしまうことじゃなくて、ここに居て欲しいから、起きるんだよ。
[木刀を握る空彦の手を引きながら、必死に話す。
帰れないかもなぁとふと思った。
子供の頃、神隠しにあった時、一緒に居た父親は戻ってこなかった。
何故かは覚えていない。]
[戻れなくても、まあいい。
家族や、安子、白銀、ここに居た皆は見えなくても自分のことを忘れないだろう。
光野なら、自分の声を聞いてくれるかもしれない。
降り始めた雨の音と、握った手に気をとられていたから、光野もまた、同じことを口にしてるとは気がつかず。
鬼面に落ちた雨粒を拭うように、触れた手を上へと伸ばした。]
おいで。
こっちへおいで。
[口をついた言葉は、いつも聞いていたもの。]
欲しいのは鬼だけ。
空彦くんはいらない。
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