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[ただ、男の誤算は、
その斧の向かう先は、学者にでなく、己にだったこと。
だが、機敏な身体は、執行人が僧を殺した時の躊躇いのなさを覚えていて、
その斧は男を掠めることはない。]
キヒヒヒヒ
ほうほう、そう参りますか。
貴方のご事情はよくはわかりませんが…。
[その斧は大地にでも刺さったか。
ともかく、男は楽しげにそれを見やると、
視線は、鈍器を持つ学者のほうへ。]
にんげんである
君は、そうだね。そう思うよ。
[海の匂いがする鈍器、それが振るわれるまえに、ひょろりとした男は、学者の喉を実に軽快に蹴りあげた。]
[学者は死にはしなかっただろう、その程度で。
だが、意識は絶え絶えになっただろうか。
それからチラと斧の男をみやる。]
一人連れていくことができる。
どこに行かれるのかな?
どうやら、貴方からはにんげんの匂いばかりがぷんぷんしますね。
[狂人は、執行人を一瞥すると、学者の脚をつかみ、ずるずると引きずりはじめた。
その頭や身体が大地の尖がりに傷ついていっても構うことはなく。]
[もし、何をするのか、と問われれば、
にこやかに答えるだろう。]
酒にこのまま漬けようと思います。
ええ、酒蔵のうじのわいた酒粕でも、うまいですよ。
貴方も食べますか?
[晴れやかな笑みを貼り付けて、
軽業の道化は去って行く。
ただ、彼の誤算は、
この斧の向かう先は軽業の男のいのちでなく
軽業の男のたとえば足裏に――だったこと。
だが、孤独な身体は、 執行人が彼の斬撃を
逸らしうると知って居ることを覚えていなくて、
その斧の【背】が彼の跳躍を助けることはない。
…中途で跳ね上げる軌跡は、空振りに終わる。]
[ときの流れを感じるのは
痛みや 本当に本当に微かに進む老いや
そういうものなのだと感じるのは皮肉にも
感じなくなってからであり
感じなくなる事に気づくのはまた
全て失ってからであったと知る]
人をころすのは 人
それだけでは、無いと思いますけどもね。
僕は、ヒトであった、つもりなので。
[細めた目で見遣る風景―――
もう腸管の疼きは感じることは無い]
[執行者は、邪淫の彼に蹴りつけられる寸前の、
言い知れぬ昂揚に潤む学者の面持ちを垣間見る。]
……、 …
[上体の泳ぐことなく、斧を小脇に引き寄せて――
そのまま『人』を追い打つことはしなかった。]
どこにでも、行くとしよう。
[興味を失って嘲るような態度を隠さぬ道化へは、
引き止める意図のないことを口数の少なさで示す]
[捕食の道行きを見送る視線は、
今後を問うたものと受け取られたようで。]
遠慮しておくよ。
…供物は要らぬから、
今後は端から独り占めにしておくといい。
[白い息を吐きながら変わらぬ表情で言う。]
…
[別れを告げて背を向ける道化に、頷いて。
酒の香目指して彼らの姿が遠ざかった頃に、]
あれで、
『まいる』のをやめはせんのだから
[腐った溺死体の胎を借りた"海"の化身は、
詣で馴染みの青年へ気泡のように愚痴めいて]
陸のいきものは 詮無い …
[ どろり ]
[*溶けた*]
[魂は天に還らず、肉は血に戻らない
執着は己をこの地に縛り、輪を廻す事はない]
さあ、死儀を始めようか。
[廃墟となった吹き溜まりに、赤黒く染まった僧は歩く]
[――風雪に閉ざされる冬を待たず、
廃村には原型とどめぬ骸が点々と散らばる。
独りでは、喰い切る前に大半は
腐り果てるだろう肉体の端切れ。
其れらが蛆ごと春まで凍りつくのと、
疫病の湧く頃合とはどちらが早いか。
置き去りにされた薪束は夜毎に露で湿る。]
[灯台下の岩場には、
潮溜まりにとける書付が数枚と生首1つ。
彫りの深い鼻梁の中ほどから上側、
頭蓋骨が半割りに開けられている。
露出した脳漿はあらかた食い尽くされて、
ご丁寧に木匙までささったその生首には
耳がない。]
[凝固した血潮と海水にインクは滲み、
西の領主の子息だった男が綴っていた
憎悪の記録は読み取ることができない。]
[海魔がいなくなった浜辺には、
茶褐色の細い薬瓶が落ちていた。
薬効語られぬがゆえに精神を侵す毒薬は、
しばらく半ば砂に埋もれて在り――――
拮抗する者のない 生き腐れの閉塞感に、
物狂いがふたたび耐え切れなくなった頃
波に攫われて *失せる*]
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