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[やがて、己の存在が老婆の意識から消える頃。
秘書たる男は鏡台から華奢な小瓶を摘み取る。
安楽椅子の傍らへ跪き、
膝掛けの上に置かれた老婆の手を取って
――薄い爪に滑らせる、一刷毛のさくら色。]
[ぼう、と少女が横丁で立ち止まっている]
……。
[誰かを探すように、通り過ぎる人を見て。
やがて、歩き出す。足はいつもの場所へ]
[仕事が立て込んだ数日はやはり横丁によることはできなかった。
いまもまだ、忙しい最中ではあるけれどそれでも空いた時間につい、足が向いた]
――結局、思い切れない、か。
[諦めの悪い自らを笑うように小さく呟き。
通いなれてきた道をゆっくりと歩く]
[だが、来たからといって思い出屋にあえるわけでもない。
昭和の雰囲気を残す路地を歩きながら、小さく吐息をこぼす。
こなかった数日の間に、また誰か思い出屋に会えただろうかと噂の一つも聞こえないかと周囲を見やり。
そうして、先を行く少女の姿を見つけた]
[少女が足を止めれば、自然と距離は縮まり。
数歩離れた位置で立ち止まった]
……いや、あっちのヒゲと血縁関係はないが……
まあ、焼き鳥屋でなんどかあってはいるけど。
[弟といわれて苦笑とともに否定する]
君もまだここにきているんだな。
そう。
ひげ質が少し柔らかい気はしていたわ。
[納得したように首肯した]
ええ。
あなたこそ、まだ来ているのね。
……仕事ぶりに、納得してもらえなかった?
ヒゲ質……?
[どこかずれた答えに、あごにはえたヒゲをなでる。
だが、そんなものの違いなど分かるはずもなく、まあいいかと軽く流し。
続く問いにはそんなことはないと首を振った]
仕事は順調だとも。
問題があったらここに来る時間は取れていないからな……
時間が空けば、つい、きてしまう。
[素直にあごを撫でる反応にひそり目を細めた]
いえ。あなた、言ってたじゃない。
作家さんのために来ているって。
でも、その口ぶりじゃ違うみたいね。
何か、失くし物でもした?
ああ……
[少女が口にした言葉に、最初に路地に足を踏み入れることになった原因を思い返して小さく頷く]
そう、だな。
今来ているのは作家のためじゃない。
失くしたものは幾つかある、が……それを取り戻したいかどうか、未だ決めかねている、かな……
ありがとうございます。
これで少しは報われるような気がするの。
[数日後、預けていた品物を取りに再び金物屋。
少女の慰めに涙するほどではないにしろ、
失ったものの代償はやはり大きい。]
え? 思い出屋のはなし?
は? はぁ…
[半ば混同しているとしか思えない話を聞き、彼女は自分の指先を見る。
薄く塗った桜色のマニキュアが目に入った。]
だからあんな重そうな鞄を――?
…まさかね。
いくらラッピングをご所望だったとしても、それはいくらなんでも…。
[横丁の人間は面白がっているのか。
それとも至極まじめなのか。]
でも、思い出屋に遭えたかも今回は判らないんだし。
それに、遭えたとしてもそれが彼だという確証はないし。
それよりマニキュアを抱えて走り去ったって…
[ため息交じりで空を見上げる。]
素行調査は当社におまかせ! かぁ。
[目に入ったのは先日聞いた、元祖ひげのおっさんの職場。]
そうだな……早く決めたほうがいいのだろうが。
そう簡単に決められるわけでもないしな。
[見上げてくる少女に軽く肩をすくめて]
思い出はどんなものでも大切だ。
――忘れてしまっていても、きっと。
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