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言えるのは……これ以上
何も起こらないでほしいって事だけだね。
一通り終わったら、またそっち行くからさ。
[そう言って、フユキと
今は亡骸となったロッカを見送る]
[診療所に落命したワカバがいるとは、
まだ知らないまま]
さ、ウミも帰るよ。
校長先生のところにも
連絡入れた方がよさそうだしね。
[眠りにつくウミの体をそっと抱え上げて
ホズミも蔵を後にする]
だけど……ウミは不思議だよね。
事件のときにはいつもいてさ。
飼い猫にも野生の勘ってあるのかな?
ねえ……ウミは何か知ってる?
[尋ねても、聞こえるのは*静かな寝息だけで*]
[目を開くと、そこは温かく揺れていた]
王子様も魔女も姉様たちも、みんなみんな泡になっちゃえばいいのに。
[背負われる背中のまぼろしに頬を寄せて、見ることのなかった『異譚』のことを思う。
薄桃色になった頬に伝う涙は*温度なく*]
……あれ?貝殻?
御神輿に、あんなのついてたっけ……?
いや、どんな飾りがついてたかなんて、いちいち覚えてないからなー。
何かごちゃごちゃっとしてるな!って印象しか無いし。
[アイスピック]や[ポストカード]がぶら下がってたって、気がつかないかも知れないね。
……どこから来たのかわかんないアンが、持ってた貝殻。
御神輿についてたのと対になるんだとしたら、それはいったいどーいうことなんだろう。
[ロッカが二つの貝殻を合わせようとするのを、じっと見ている]
………!?
ロッカ、ちゃん!?
[聞こえないとわかっていても、呼びかける。頽れる小さな体、手から滑り落ちる、白い貝殻]
ロッカちゃん……!
[砕けたのは、貝殻なのに]
[一瞬、まるでロッカ自身がこなごなになってしまったように、錯覚した]
[診療所で。
自分の死体の前に、少年が椅子に座っている。
あるいは、彼だけがそのつもりになっている。]
……。ふむ。
[困ったように、己の亡骸に話かける]
幽霊なんていない。と思っていたのだけど。
駄目らしい。まだ僕は終わらないらしい。
[訪ねたワカバの部屋で幾らか話した頃。
――閃光は一瞬。
痛みか圧迫感かに似る衝撃と共に訪れた。]
きゃああ あっ…… !!! !
[悲鳴はワカバの其れと重なって上がる。
光に遅れ轟いた雷鳴が耳を痺れさせ――
ヘイケは背から壁にぶつかり崩れ落ちる。]
( 屋内に カミナリ?! )
[そんなばかなと額へ手を遣り頭を振る。
眩んだ視界が回復する頃に…息をのみ]
…… !
[中央が黒く焼け焦げた、室内。
部屋のあるじ――ワカバは、柔らかい髪の
ひとすじも損なわれずつめたく倒れ居り。]
[裏返った菓子鉢。こぼれた甘納豆。
ワカバの口唇にはまだザラメの粒が、]
…
なんて なんてこと――
[声はひどく 恨みがましく。
面は悲嘆に染まり 視界は涙に、歪んだ。]
してくれたんだ。
[山奥の村に、茶屋は「稲荷屋」一軒だけ。
その店を、屋号で呼ぶひとは殆どいない。
いつも客をあたたかく迎える耳の遠い老婆が、
ずうっと昔「かみなりばばあ」なんて渾名を
つけられてこわがられていたなんてことも、
いつから人間好きになったかなんてことも、
覚えているひとはもう――殆ど *いない*。]
[名を呼ぶ声が近く響いた]
なあに?
[ナオの顔が視界に入ると少しだけ笑い、またあの座敷に転がる大福のように丸くなって、うたかたの中の*眠りへ*]
[とっても暇そうに、天井を見上げている]
僕が――。
[無意識に囁いて、ほんの一瞬苦笑する]
残っていても。
まあ、何もできなかっただろう。うるさいわ。
[いつものように、軽口を叩いた。*]
『やっと見つかったと、思ったのに』
[倒れた体、フユキに背負われた体とは、違うところから『声』がする]
あちゃー……ロッカちゃんまで、こっち来ちゃったんだ。
[それは、フユキやホズミには、聞こえないであろう『声』]
『みんなみんな泡になっちゃえばいいのに』
……ロッカちゃん?何の話?
ロッカちゃん!?
[なあに?と、眠そうに微笑む顔は、ついさっき茶屋で見たのと同じもの]
えっと……。
ロッカちゃんは、何を、知って……いや。
何を、探してるんだろ?
あたしに、できることは、ある?
[見当もつかないままに、問う。眠りに落ちるロッカを、引き留めることはしないまま]
……あの馬鹿、どこ彷徨ってんのかなー。
バーゲンにでも行ったんだろーか。
まあアレだ、あいつがいたからって、どーにかなるわけでもないっちゃないんだが。
あたしも、なーんにもできてないわけだし。
窓硝子に映ったアレも、無駄んなっちゃったしなー。
[がっくりと肩を落とす]
[ホズミの腕の中でくてりと眠ったままで]
……どこ さまよ てんのかな
窓硝子にうつ たアレも …駄にな ちゃったし ……
[蔵から出るよりも前に、そんな言葉が小さな口から紡がれるが、それが猫の口からのものだと人間が気づくかは――*]
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