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お礼を言うのを忘れない。忘れない。
[繰り返しながら歩く。ぶつぶつぶつ。
左手に抱く羊のぬいぐるみ、昨日までのシロツメクサの花冠よりも大きな、白い花ばかりの花輪を首にかけている]
骨の人、捜してあげて。
空き地にもう置かないでって言わないと。
[羊の首で、お守り袋が揺れている]
あら。あなた確か…ハナシロだったわよね?
お留守番かしら? えらいわねぇ。
[会話に昇る名前を思い出し、あごの下を指でなぞる。
猫は気持ち良さそうに目を細めてひとつ鳴き、
手にしていた茶封筒を見て、もうひとつ鳴いた。]
? ご主人様に渡してくれるの?
[長靴がこがこ言わせて向かう先、黒い写真の写った場所]
こんにちはー
[軒下にかかる看板は夢美堂。店主には一度も名前を教えてもらわなかった。だからいつでもここは骨董屋さんで、店主も骨董屋さんだ]
誰かいますかいませんかー
[いつも店先にいる骨董屋さんの姿は見えなくて]
お出かけ中かなあ。
[ポケットから黒い写真をとりだして、同じように見える場所を探しながらその場をうろうろ*]
じゃぁ、ご主人さまが帰ってきたら。
教えてちょうだいね?
[手入れの行き届いた毛並みを、ひと撫ぜ。]
それと、お利口さんなハナシロには、ご褒美ね。
嫌ならすぐに解けるように、しておくわ。
[鞄から取り出したのは、幅の細い緑のリボン。
軽く首に結わいてあげて。
かざりには、恋告げ草の、花ひとつ*]
[キッ、と短く自転車のブレーキが鳴る。
しばらくして、がさがさとビニール袋が音を立てる]
すみません、つぐみ堂です。
カツ丼3人前お持ちしましたー。
[その声に反応したのは見慣れない男、警部殿だ]
……やぁれやれ、だなぁ。
[編集部とのやり取りの後。
はー、とため息をついて、頭を掻く。
それから、煙草の箱に手を伸ばし。
かきん、と小気味良い音と共に紫煙を立ち昇らせた]
ま、編集不在じゃ仕方ない。
取りあえず、気分切り替えてくる、か。
[例によって乾いた金属音を立てて降りていく。
例によってそこにいるのは大家と階下の住人]
おはよーございます、と。
……今日は、失踪したひとの話って、ないんですか?
[例によっての挨拶の後、問いを投げかけて]
[聞いてはみたが、特にそれらしい話はない様子。
それに、ほっとするやらなんやらしていたら]
……あー、うん。
どうも、そうらしいです、ねぇ。
[話題に上がるのは、警察に新たな参考人が、という話題。
先の編集部との電話でもちらりと聞かされていた話題。
……あんまり首突っ込んで、自分まで呼ばれるな、と釘を刺された話題……なのは、余談]
[警部殿は娘にねぎらいの言葉をかけて
代金を支払う。
カツ丼と、依頼があれば領収書も渡して]
最近カツ丼が流行ってるんですか?
昨日も注文ありましたし。
[警部殿は娘の問いに
「まあそんなところだな」と曖昧な答えを返す]
でも栄養バランス偏りますよ。
よければサラダやみそ汁もあるんで
そちらも買っていってくださいね。
[しっかり宣伝したところで、
見覚えのない黒いフクロウの置物が目に入る。
警部殿に尋ねれば、そのいきさつを知って]
……まあ、ほら、事情通ですからね、やっぱり。
[しかし、事情通というだけなら、この大家と主婦の方がよっぽど、と思うのだが如何なものか。
と、そんな疑問を飛ばす相手は生憎とおらず。
散歩してきます、と軽く言いながらひら、と手を振り歩き出した]
そういえばフクロウって、
学問以外にもいろんな事の象徴になってますよね。
「不苦労」で厄除けとか、
「福老」で長寿とか。
あと首がよく回るから商売繁盛とか。
……警察の商売繁盛は内心複雑ですけどね。
[ちらりと空き地の方を見やって苦笑する。
一部では不吉の象徴になっているとは、
さすがに言わなかったが]
とはいうものの。
どーこいったもんかなぁ。
[散歩に、と出てきたものの、宛てはなく。
往来をふらり、歩きながらあれこれと考えを巡らせる]
……『関わり』あるのはひとつは消えて。
今日、消えたのは、『関わり』ない、ねぇ。
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