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[周囲の目など気にする事も無く、弓槻がいる別の車両へと向かう。
これから友を殺さなければいけないと言うのに、何故か心は弾んでいて――無意識の内に笑みがこぼれていた。
この扉を隔てた先に、弓槻が居る。
まるで、ここが現し世との境だと主張しているかのような扉に手をかけ、その境界線を壊す。
弓槻の姿は、櫻木の遺体の前にあった。
うずくまるその姿を見降ろしながら、声をかける。]
独りでこんなところに引きこもっちゃってさぁ…
前から暗いとこはあったけど、やっぱりその性格は変わって無いみたいだな。
…それとも、逃げれば誰かが追って来て、救ってくれるとでも思ってた?
期待なんてしない方がいいよ。
誰もお前の方を向いてくれる人なんて、居ないんだから。
死んでもお前に自由は無いよ。
残念だけど、君はもうここから逃れられない。
[ああ、それは自分もだけど、と自嘲気味に付け足して]
[学校の廊下での出来事をふと思い出す。
人見知りは克服したんだと、笑っていた姿を。]
ああ、そうそう。
あの時だって、櫻木さんに良いところを見せようとして、虚栄してただけだ。
おかしいと思ったんだ。
いつもお前の周りには、誰も居ないのに。
自分から話しかけていくなんて出来ない奴が、克服できてるようにはとても見えなくて。
あははっ。どうせ今のクラスでも浮いてるんだろ。
[そうやって嘲るような口調から一転して、囁くように優しげに、次の言葉を紡ぎ出す。]
―――でも大丈夫。
僕が側に居れば、周りに溶け込めているような気分になれるよ。
…まあ、僕の周りに寄って来るやつらは、お前に興味なんて、ないんだけどね?
[くつくつと喉を鳴らしながら、更に話は続く。]
僕はね、友達を作れないでいるお前が不思議で仕方無かったよ。
だから1年の時に声かけたの。
そういう奴を手懐けるっていうか…まあ、信頼を得るには容易い存在だったな。
所詮お前は変わってなんかいなかったんだよ。
そう、高校に入りたての時と同じまま。
変わってみようと努力したって、根っこにあるものまでは変わんなかった。
[軽蔑するような視線を投げるが、弓槻はそれに反応しようとしない。]
まあ、無視してもらっても構わないけど――
[視線は近くにある櫻木へと向けられる。その命を奪ったのは自分だ。]
――その死体がそんなに好きなわけ?
話しかけたって返事があるわけじゃないのに。人の情ってのが、良く分からないな。
諦めなよ。
どうせ届く事なんて、ないんだからさ。
それにしても――
君が僕に殺害を依頼して来た時は驚いたよ。
僕が黄泉還りだって気付いて名指ししたのかな。あははっ。だとしたら合格点をあげないとなぁ?
[逃げる素振りも無く、ただその時を待っている弓槻が、待てと言われた忠犬のように見えて、なんだか愛おしさすら感じる。
犬は主人の所有物なのだ。だから、その身体をどう扱おうが文句は言えまい。]
さあ、そろそろ食事の時間だな。
櫻木さんの魂を狩った時と同じように、お前も終わりにしてやるよ。
[言い放つと同時、どこかから青白い炎が集まって来る。それは数を増し、車両の中を明るく染める。]
ありがたく思ってくれよ?
最後にお前を殺す事を選んだのは、どうせ生きて戻ってもお前の居場所が無いって、心配だったんだとさ。
だから道連れにしてあげるよ。
良い友達が居てよかったな、弓槻クン。
ああ、でも、簡単には殺さない。
苦しむ姿を見てからじゃないと、"僕"の気が済まなくて。
意味は――分かるよな。
[寺崎がにやりと嗤うと、青の炎は意思があるかのように動いて――弓槻の身体を貪ろうと取り囲む。
それは熱を帯びていて、炎が一斉に彼を飲み焼き焦がさんとする。]
ああ…やっぱりこれがいいな。
これまでのがあっさりと殺し過ぎだったんだ。
もっと痛みを伴って貰わないと、見ていて楽しくないことに気付いちゃったんだ。
[そして自分は高みの見物を。]
[まとわりつく炎を払おうとしているらしいが、そんなのは無駄な抵抗に過ぎず]
あっはは。その炎は君が力尽きるまで消える事は無いよ。
人は死にそうになったら、抵抗しようと生を掴もうと足掻くんだとさ。
その瞬間は、君が一番輝ける時だ。
苦しんで苦しんで、最後に己の運命を呪いながら死ぬといい。
[青の業火の中で弓槻がこちらを見る目には、「早く死なせてくれ」と懇願の意思が浮かんでいるようにさえ感じる。
そんな視線を受けて、満足そうに嗤うのだった。]
好い表情だね。
そこにいる櫻木さんも見ててくれてるんじゃないかな。
[なんて、適当に。
ややしばらくして。力尽き床に倒れ伏した弓槻は――無残な姿のまま動かなくなった。]
……お疲れ様。
[いつか、弓槻にかけてもらった言葉を返す。その言葉に、感情はこもっていない。
これで、彼の魂も"ここ"に捉えられたのだ。
そして、全てを知ったであろう皆の元へと戻っていく。ああ、どんな視線を投げられるのだろう――**]
[その場に戻れば、様々な感情が流れていた。
村瀬に「うそつき」と言われるが、微笑を返すのみ。
そう、全ては意図的な算段だったのだから。]
ああ――、小鳥遊先生の死を悼んでくれる人は、もうこの場にはいないのか。
須藤先生が貴女を呼んだんですよ。黄泉の世界に。
―――なんて言っておけば、美談になるのかなぁ。
[目の前に倒れたままの小鳥遊を見降ろして窃笑する]
[扉に背を預け、腕を組みつつ窓の外に目を向ける。
鬼火を操れる時間は夜の間だけだ。暗闇しか無いと思われた外の様子に、少しの光が射すのを感じ舌打ちを。]
…時間までに皆殺しに出来なかった――魂を狩り損ねた罰が、そろそろ下される、か。
刻限になれば跡形も無く僕は消滅しちゃうけど、僕を殺しに来る人は居ないの?
皆を死に追いやった元凶が目の前にいるってのに―――
[情けない奴らだと嘲弄し、冷淡な視線を周囲に向けた*]
………僕に、その資格は無いよ。
[こちらを向く少女の頬に手を触れ、その涙をそっと拭う。
彼女に返す視線には、悲愁の色が滲んでいたかもしれない。]
一緒に帰れないことくらい、分かってたはずなのに…。
[どうしてあの時、そんな約束をしてしまったのか。]
……六花ちゃん、ごめん。
[約束を守れなくて。
服の裾を掴む彼女の手に触れ、力なく微笑んだ。
車内が光に満たされるその時までは、せめてこのままで――**]
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