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[ボタンに誘われてこの村に住み始めたのは昨年の祭のあと、初雪が降る前の頃。
だから、歌姫やモミジが依然として行方知れずであることは既に知っている]
今年はこの方なんですね。
[掲示板に貼られたポスターは、フォークデュオと書かれたものだった]
[ゆら、と揺らめく]
[居場所は未だ、二つの狭間、境界線]
……ここに人が増えるのは、さすがにどうかと思うんだが。
[同じように人が消えた、と認識した時、思ったのは、それと]
[誰が何を願ったんだろう、という、素朴な疑問]
[一年前、杜氏へ本当に訊きたかったのは、酒まんじゅうのコツではなかった]
4つ買うと1つサービス?
あれ、そうでしたっけ。
[本当は、『みんなどこへ行ってしまったんでしょう?』と訊きたかったのに、訊けなかった]
[どうやってそこへ来たのかは分からない。
気付けば居た、と言った方が正しい]
あんな詩を作ってしまったから、呼ばれてしまったのかしら。
[震える声は得体の知れない場所に居ることの他に、我が子がどうなったかの不安があったから]
あなた……。
[夫が傍に居るのなら少しは安心出来るのだが、もし、一緒に呼ばれてしまっていたら。
不安を抱くモミジの腕に赤子の姿は無い]
[はらり、と帳面をめくる。
細かい字は、自分のもの]
もう祭りの日か。
[去年も二人、神隠しが起こった。
まだ幼い子のいるモミジと、毎年祭りに訪れたザクロ。
皆が無事に戻ってくるように。そんな願いをよそに、二人の姿は消えてしまった]
[紙をめくる。
はらりと紙が落ちる。
光に透ける厚さではないのに日にかざす、化粧師の名刺だ]
……え、っと。
今年はことさら、忘れっぽくて困るな。
[頭を掻くと、名刺を持って、家を出た。
祭りのにぎわいを抜けて、さまようように、名詞の主を捜す]
[覇気の無いままである作家の夫にも化粧を施して祭へ送り出した。
まんじゅうをかじりながら歩いて行くと、杜氏の姿が目に入る]
また今年も、誰か隠してしまうんですか?
…今年も祭りはやるんだな。
三年続けて、人が居なくなっているって言うのに。
モミジさんなんて、あんな小さな子を置いて。
ザクロって人も、随分人気のあった歌手だったって聞いた。
二人とも、自分から居なくなるなんて有り得ないのに。
…なんで僕の願いは、叶えてもらえないんだろう。
花は、一体誰が摘んでいるんだろう。
…ん。
ううん、大丈夫。
ちょっと暑さに眩んだだけだし、少し休んだからもう動けるよ。
さ、皆。
まずはどの屋台から覗こうか**
[子供たちの誘いを後でと断った先で声をかけられる。
化粧師は笑っていなかったろう、たぶん、自分と違って]
化粧師っていうのは、見えないものを見る力でもあるのかな。
[笑みを抜くように息を吐く。
コエのないまま、問いかけるように首を傾げた*]
いやいや、ただのしがない化粧師ですから、霊感みたいなものはないですよ。
未だに神様の尻尾が掴めないでいます。
虫の知らせとでも言うんですかね……
[子どものはしゃぎ声に視線を向けると、マシロの姿]
質問を変えましょうか。
ダンケさんの願い事は、叶いましたか?
[表情を変えずに、杜氏を*見やった*]
[アンはまだ、帰ってこない。
ロッカとケンも、帰ってこない。
そして、ザクロと、モミジも]
……、
[また、夏が来た。
今年も、祭は行われた]
……
[からり、からり。
涼やかなビー玉の音が、蝉の合唱に紛れて揺れる。手にしたラムネが立てるそれを聞きながら、青年は木陰に置かれた長椅子に座り、白く灼けた風景を眺めていた。首からはやはり、カメラを提げて**]
あーあ、
「招かれないように気をつけて」って言ってた傍からこれだし…。
[揺れる視界に、総てを悟ったのか。
謳うような声は、それでもどこか安堵の色。]
――知らないならいいわ。
[くつり――。
悪戯を企む悪い笑みを浮かべ。
素っ気ない言葉で返す。]
ただ、もう一度…
見たかっただけだもの。
[「コエ」に送られる「代償」に。
添えられる「代花(価)」は、あまりにも美しかったから。]
そうだね、今日は妙に蒸し暑いから。
カキ氷…アイスキャンディーでもいいな、冷たいものを食べたいね。
うん?あっち?…あぁ、本当だ。
ダンケ兄さんに…化粧師の、お兄さん。
……ううん、ごめん。
やっぱりまだ駄目みたいで…少しあちらの長椅子で休んでるよ。
すぐ戻ってくるから、皆この辺りで遊んでいてくれるかい?
…ふぅ。
──…おや?
シンヤ君じゃないか。
久しぶりだね、卒業式以来かな?
…と、ごめん。
少し暑さにやられたみたいでね。
隣、座らせてもらうよ。
…シンヤ君。
君は今年のこの祭り、楽しみだったかい?
僕はね、嫌だった。
アンもいない、ケン君もいない、知っている人も知らない人も、いなくなってしまった人がいるのに、何でって。
また今年も誰かいなくなるんじゃないかって、怖くて。
あの言い伝えに縋ろうと思ったけど、結局駄目だった。
兄さんが案内してくれるって言ったのに、僕は、怖くて逃げてしまった。
皆を返して欲しいと願いたかったのに、その代わりに誰かが死なせるなんて嫌で。
皆返して欲しいんだ。
でも、また誰かがいなくなるのも、もう嫌なんだ。
僕はただ、皆がいる日常を取り戻したいだけなのに。
なんで、それを叶える術が見つからないんだろう**
[かたり、とラムネの瓶を置く。と、かけられた声、現れた姿、知った姿に、こくりと頷いた]
……、
[隣から、尋ねられれば首を縦にも横にも振らず]
……
[ただ黙って、マシロの話すのを聞いていた]
……、……
[それからふと、肩から提げた鞄、財布やカメラの関連品が入れられたそれのチャックを開き。ごそりと中を漁り、数枚の写真を取り出した。
そして、差し出す。それらに映り込んでいるのは、アンに、ロッカに、ケンに、モミジに、ザクロに、 消えていった、人々の姿]
……
人を犠牲にして、叶えたい願いなんて。
俺には、ないよ。
きっと誰かには、あるんだろうけど……
俺は、それなら、消えたっていいよ。
[写真をマシロに渡しつつ、空を仰ぎ]
でも、俺は、消えてないし。
……消える事なんて、ないのかな。
俺はただ、写真を撮る事しか出来ないんだ。
皆。
写真の中では、いつまでも、笑っているのにね。……
神様の尻尾、か。
[なるほど、と一度自分の両手を見下ろして]
俺は、願えないよ。叶いもしない。
[相手を見直して、微笑んで、小さく頷く]
そうか。神様の尻尾、掴みたいと願ってみるのもいいのかもな。やってみる? ンガムラさん。他の願いでもいい、あるならば。
去年、みんなが帰ってきますようにって、マシロは願ったよ。
……優しいな、あの子は。
[うらやましい。と、音なく唇は動く]
こちらへ越してきてから、この村における神隠しについてだいぶ調べました。
私は優しくないので、違うことを願いますよ。
[ダンケの顔を見つめる目元が少し細くなる]
今年は、あなたが消えますように。
それを神様に頼むのか。
[ぱちくりと瞬きを一度]
まあ、調べたというのなら、説明は今更だな。
案内はいる?
いらないといっても、俺もいくんだけどね。
[緊張の糸が途切れ、箸が転がったかのように笑い出した]
いります、案内。
むしろ、していただけるとは思いませんでした。
[笑いをこらえきれないままに後をついていく]
そんなにおかしかった?
[自分も、一度吹き出してしまえば笑いは止まらず]
調べたんだよね、神隠しのこと。
よければ俺に教えてくれないかな。
[少し足をゆるめてみる。叶うならば、化粧師の隣に並んで*]
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