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[ぽちゃん]
……あら。
[足先に感じる水の冷たさ。
見回せば川に足を浸している]
ここは。
[傍らにある岩に置いた本のページが、ぱらぱらと風でめくれていく]
ここは?
[つぶやいた自分の声を耳にして、瞬きを繰り返す。ぐるりと周りを見回して]
私は。
[広がる川は向こう岸が見えない。
かわりに見えるのは]
桃?
[首を傾げた]
―いくつかの桃のうちのひとつ―
灯篭流しならぬ、桃流しってか。
[桃に腰掛けて川を下っている。
すると人影が見えた]
おう、マシロ姉。
久しぶり。
[大きな桃、小さな桃、赤い桃、白い桃、どれもがほんのり光って見えた]
……マシロ。
[呼ばれた名を繰り返して、ああ、とつぶやいた]
ススムさん、お久しぶりです、ね。なんだかそんな気がするような、しないような。
迷子、ですか?
[ゆるりと首を傾げる]
……ふふ、奇遇です。
私も、迷子のよう。
[たしゃ、と浅い川面を踏む。波紋が、何処までも広がっていくのを眺めた]
一体此処は、どこなのやら。
向こう岸は、どうなっているのやら。
ススムさん。迷子に慣れているところで、こんな時はどうすればいいのか、アドバイスしてくださいませんか?
[冗談めかして、くすりと笑う]
ふふ、ごめんなさい。
好きでしているわけでは、ないわよね。
[口をとがらせるバクに、わずかに申し訳なさそうな苦笑を見せるが]
手、を。
[差し出される右手。思案げに、視線は宙をさまよい、そこに戻る]
どうだったかしら。
[一歩、川面を踏んで。
バクが炎の向こうにあるように揺らめいた気がした]
あの時、こう。
[バクの右手に、手を、伸ばす]
……あ。
[手を引かれる。よろけて素足が曼珠沙華の咲く地面を踏んだ]
いつ。
だれ。
[真っ直ぐな眼差しを受け止めて、一度、瞬きする]
……。
これは、違う。
[握った手の感触を確かめるように、一度、強く握って。
漂わせる視線は、川の向こう岸を振り返る]
ススムさんは、こうして。
[手をひっくり返すと、今度は自分の手の上に、ススムの右手が乗る格好]
誰かの手を取ったのですか。
[繋がる手を、ゆるりと上下に振る]
[自分の掌の上で動くバクの手がくすぐったくて、少し笑う]
何で、謝るの。私もわからなかった。
[頭を下げるバクの顔を覗き込むように、少し屈んで]
じゃあ、まあ、それはそれで置いておきましょう。
手を取った方が私たちにとっての正解なのかそうではないのか。わからないわけですし、ね。
[笑い声が、降って来る。
俯いたまま、首を左右に振った]
ウサギは、手を取るなって言っていたんだ。
正解でないなら、もしかしたら、ウサギの言う通りだったのかもしれない。
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